カフカの“断片”に出合う【カフカ断片集】

知られざるカフカに出合う『カフカ断片集』

カフカ断片集

「あらゆることに、わたしは失敗する。いや、失敗することさえできない」ーーそう書かれた本の帯に惹かれ、手に取った一冊の本があります。それが『カフカ断片集』(新潮文庫・¥693)。
かの高名な作家であるカフカが、手記や日記、創作ノートなどに残した言葉を集めた断片集です。編訳を担当された頭木さんが「断片こそ、カフカ!」と語るほど、魅惑的な言葉の数々。それらは物語として完結している訳ではなく、日常のモノローグのようでもあり、詩のようでもあり、祈りのようにも感じられます。

カフカというと、どうしても難解で不可解な作家というイメージがあったのですが、この本の中に現れる姿は、彼の人間性も透けて見えるよう。
表紙に書かれた「海辺の貝殻のようにうつろで、ひと足でふみつぶされそうだ」という言葉からは、あまりに儚く繊細なガラス細工のような、美しさを感じます。まるで穏やかな波のように、読み手の心を癒したかと思えば、読者を突き放すかのようなシニカルで絶望的な一編も。この世の不条理さも、人の愚かさもナイーブな魅力も、一冊に全て詰まっているのです。

数行の文章の、小さな“断片”の中に広がっている無限の宇宙。そこに、カフカという人物が持つ、人を引きずり込んでやまない力を感じられる一冊です。

カフカ断片集

それぞれの“断片”自体は数行のものから多くても2−3ページ程度で、自分のタイミングで読み進められる点も嬉しい。一つ一つに重みがあるので、一編読むだけでもだいぶお腹いっぱいに。解説を入れても200ページほどで本自体も薄いので、最近はこの本をバッグに忍ばせています。
少し一息ついて、“ここではない何処か”へ心をエスケープさせたいとき。きっとあなたのそばにいて寄り添ってくれる一冊です。

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エディターMICHISHITA

シンプルだけれど一癖ある服を求めて三千里。日々、モードを追いかけています。淡水パールと洋梨が好き。

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