映画『バッファロー’66』が香りになったなら？【MAGNIFF】の香水

あの映画が香水になったなら……？

唐突ですが、“66”という数字を聞いて、何を思い浮かべますか？　ROUTE66？　私にとっては、映画『バッファロー '66』('98)です。高校生くらいの頃、当時はまだNETFLIXなんてものはなかったので、どうしても観たくてDVDを購入。何度も観ていたことを思い出します。大人になって観てみるとツッコミどころ満載だったりもしますが（笑）、あの独特のナイーブさと繊細な美学は、ティーネイジャーだった私の心に、忘れられないきらめきを残してくれたのでした。

そんな日々は遠く過ぎ去ったと思っていましたが、先日とある香水と出合い、一気に引き戻されたのです。それは、代々木を歩いていたときのこと。ぶらりとショップ「FRONT11201」に立ち寄ると、見慣れないフレグランスブランドがずらり。香りものが大好きなので、初めて見たものはとにかく試さないと気が済まない。早速試してみようと、よくよく見ると、「66」という名前ではありませんか。それこそ、MAGNIFF（マグニフ）の“66”オードパルファム（9ml・¥4,950）だったのです。

情景を描きだす、香りづくり

66という名前に惹かれ、詳しく見てみると、ラベルには意味深なモチーフの羅列。「モーテル」、「アイシャドウ」、「古いスエード」、「古い車」、「ウールのトラウザー」、「ストリップ小屋」、「ポマード」、「ホットココア」。そして、カードにはこう書かれていました。

“一見ワイルドでありながら、神経質とさえいえるほどの繊細さ。後に現れる優しさと甘さをあえて隠すような、スモーキーでやさぐれた第一印象。90年代のニューヨーク州郊外のさびれた町で繰り広げる不器用なラブストーリーのように”

まさにこれは『バッファロー'66』ではないか〜！　まるで旧知の友に偶然再会した時のような感動とときめきが、一瞬のうちに心を駆け巡りました。

MAGNIFFは、自然の原料をもとにした香りのプロダクトを手掛けるブランド。そしてその香水はすべて、映画の情景をもとに作られているんです。この香りが『バッファロー‘66』を描いているのか、公式には言及されていませんが、私は「そうに違いない」と確信しています。もし違っていたとしても、それぞれが心の中で色々な映画のストーリーを思い描けるような、そんな余白も素敵ですよね。

肌にのせると広がるのは、ビターなチョコレートの甘さと、ほんのりレザーのようなスモーキーさ。こっくりと深みのある、ラム酒のような印象も香ります。それはまさにヴィンセント・ギャロの、メランコリックとセンチメンタルのはざまを漂うような、独特の哀愁。そして、クリスティーナ・リッチの水色のアイシャドウが象徴する、キュートで切ない乙女心。そしてそんな2人が織りなす不器用なラブストーリーが、まさに香りの中に蘇るようでした。

レイヤードにもおすすめ

ちょうど冬の時期に、ビターなチョコレートの香水やスモーキーなフレグランスをつけたいなと思っていたので、即決。今年の冬に使い切るつもりで、とりあえず9mlを購入しました。

これ一つでも十分なのですが、最近「香水のレイヤード」についての記事を担当したこともあり、あえてレイヤリングして楽しみたい。

まず一つ目は、ゲランの新作「ペッシェミラージュ」を合わせて。ジューシーな桃をレザリーに味付けした斬新な香調。「66」とレザーのノートが共通しているので、合わせやすい。ピーチのピュアな甘さに、どこか影を落とすようなアンニュイな魅力が加わって、まさに「クリスティーナ・リッチが演じたレイラみたい！」と勝手にテンションが上がってしまいます。

対して、ヴィンセント・ギャロ演じたビリーを表現するなら、トム・フォードの「バニラファタール」を。コクのある濃密なバニラに、エスプレッソのように濃厚で苦味のあるコーヒーがとろける、甘美な香り。スモーキーな趣もあるので、「66」とも好相性です。重ねることで、くどいくらいまでに濃厚な甘さと、それを覆い隠す深い苦味が、多重奏のように深いハーモニーを生み出す。その「くどさ」と「切実さ」が、“世紀のかまってちゃん”である彼にぴったりだな、なんて思ってしまいました。

実は「66」、香調としては重ためですが、香り立ちは意外にも軽やか。強い香りに重ねても、ぶつかることなく、さりげないニュアンスを加えてくれるんです。他にも色々な組み合わせを楽しんでみたいと思います！