“香りを聞く”という愉しみ方 突然ですが、香りを嗅ぐとき、なんと表現しますか? 「嗅ぐ」「試す」「匂う」……色々ある中で、「香りを聞く」という言葉を知ったとき、なんて素敵な言葉なんだろうと感動してしまいました。古くから香道の世界では、ただ香りを嗅ぐだけではなくて、心の中でそれをじっくり味わって、自分の感情の機微に耳を澄ませることを愉しんでいたそう。そんな情緒あふれる“香りの愉しみ”を、ボッテガ・ヴェネタの銀座フラッグシップ店で味わえるということで、週末にお邪魔してきました。 詩に香りをつけたなら? 今回ボッテガ・ヴェネタは、銀座に店を構える森岡書店と共同でこのイベントを開催。毎週一冊だけの本を通じて、文化的コミュニティをつくるという森岡書店ならではの切り口で、一冊の詩集にフォーカスし、そしてそこに香りをつけるというものです。今回のテーマは、菅原敏さんの詩集「珈琲夜船」。実は以前、香水の企画で菅原さんを取材させていただいたご縁もあって、ぜひ行かねばと思い足を運びました。菅原さんはかねてから、香りをもつ詩集だったり、アロマディフューザーの制作をしたりと、香りに造詣が深い方。そんな菅原さんが詠んだ「珈琲夜船」の詩に、調香師の沙里さんがフレグランスを添え、一枚の栞に染み込ませて展示されています。 今回のための、特別な栞。香りは上の紐につけてあって、“きびそ”という生糸が使用されています。ぬくもりを感じる、ざらりとした手触り 例えば、こちらは「夜船」という詩。自分が生まれるよりはるか昔の、遠い日の誰かの記憶が、ラジオにのってさざ波のように心を満たしていく……そんな不思議な余韻に満ちた一遍です。そこにつけられた香りは、貝殻をキーノートに、塩や樹液を合わせたのだそう。爽やかだけれど、かすかにしょっぱさや苦味もあって、複雑なのにピュアな香り立ち。詩と香りを同時に味わっていると、幼い頃に祖父母と一緒に海に遊びに行ったことをなぜか思い出しました。 詩の行間や余白を包み込むように、香りが想像の旅へと誘ってくれる……これこそまさに、“香りを聞く”という愉しみではないでしょうか。 みなさんにもぜひ、直接味わっていただきたいので、詳細のご紹介はこのあたりで。忙しない日々、疲れた心がほっと一息つけるような、素敵な時間を過ごさせていただきました。 6月29日まで開催中なので、ぜひ足を運んでみてくださいね。