千葉県佐倉市にある、DIC川村記念美術館。森に囲まれ、池のある広い庭園を擁する美術館で、日本屈指の西洋絵画のコレクション数を誇ります。悲しいことに2025年3月での休館が決定。いてもたってもいられず、足を運びました。
自然豊かなランドスケープ、1日かけて旅する価値あり
「どこから行ってもちょっと遠い、だけどわざわざいく価値がある」のがDIC川村記念美術館。私はよく東京駅発の高速バスを利用していました。代表的な所蔵作品であるレンブラントの『広つば帽を被った男』が描かれたバスに揺られて60分。朝から企画展を見て、庭園の芝生で買ってきたパンを食べて(レストランもあります。2025年1月から完全予約制になるそうです)、それから常設展を見て、高速バスの最終便に乗って、東京駅の八重洲地下街でちょっと呑んで帰る。最高の休日の過ごし方のひとつです。
ミュージアムグッズも、いつだってハイレベル&ハイクオリティ
休館前ラストとなる企画展は、1月26日(日)まで開催の「西川勝人 静寂の響き」ドイツ在住のアーティストによる回顧展で、彫刻と写真、インスタレーションなど、すべての作品が自然光のもとで展示されています。特に白を基調とした作品とガラス彫刻が印象的で、光のうつろいと共に変化する様相に時を忘れました。奈良美智さんもInstagramで絶賛していた空間構成、ぜひ会場で堪能していただきたい!
そして常々感心しているのですが、このDIC川村記念美術館、ミュージアムグッズのセンスがめちゃめちゃいいんです。残念ながら売り切れや欠品もあったなか、ゲットできたのはこちらの2点。アーティスト自身が撮影し、これ自体が作品のようなカタログと、展示作品『秋』に合わせたオリジナルブレンドのティーリーフ「White Petal-Milk」。『秋』は会場に白い花々を敷き詰め、時間の経過で変容してゆくさまを鑑賞するインスタレーションなのですが、そのスピリットがこの紅茶の中に再現されている! 牛乳の白の中に溶けて開くジャスミンの花びらに陶然……。ミルクティー専用の茶葉で、味も絶品でした。
コレクション図録に象徴的なピクト手拭い。メモリアルなアイテムもはずせません
休館を惜しむ来館者でごった返すミュージアムショップで、コレクション図録と象徴的なピクト手拭いもゲットしました。経営母体のDICは印刷インキでトップシェアを誇る企業。所蔵品図録の発色も素晴らしい。シャガールの大型作品「ダヴィデ王の夢」、ジョセフ・コーネルの『箱』、サイ・トゥオンブリー、フランク・ステラなどなど…思い出深い名品を振り返ることができます。だけど、ぎりぎりまで光量を絞った薄明のなかでマーク・ロスコの<シーグラム壁画>に囲まれる「ロスコ・ルーム」での瞑想のような鑑賞体験は、あの場所でしか味わえない。もうひとつの”わざわざ訪れる理由”であったバーネット・ニューマンの大作品『アンナの光』は、2013年に売却され、視界が色彩で満たされるあの没入空間も失われてしまいました……。
海老原一郎の設計による、ふたつの塔屋をもつ美術館の建物も素敵だし、館内案内のピクトグラムも見やすい。2008年の美術館リニューアル時、グラフィックデザイナーの色部義昭によりデザインされたピクトグラム柄の手拭いも購入。
あと何回訪れることができるだろう……と帰途につこうとすると、パーキングからひょっこり猫が現れました! ピクトグラムの上にすっくと立つ誇り高き姿。君はもしや、この広大な敷地で生まれ育ったミュージアムキャット!
DIC川村記念美術館の休館は、運営企業が資産効率の観点から美術館運営の位置づけを再検討するよう投資家に申し立てられたことが理由とされています。発表後に来場者が急増し、休館開始は当初の1月下旬から3月末に延長されたものの、その先の美術館のあり方については24年末の時点では未定。存続をめぐっては佐倉市、千葉県のほか、美術館団体や個人も声をあげ、署名活動も行われましたが先が見えず…なんだか項垂れてしまいます。一度失われてしまえば元に戻ることは難しい。もっと前から何度も訪れ、タイパやコスパを超える価値を発信してこなかったことに悔いが残ります。せめて、と、ミュージアムキャットに再会を誓いました。
企画展「西川勝人 静寂の響き」は1月26日まで。終了後は、3月31日までコレクション展が開催予定だそうです。みなさまもぜひ、お運びを。
DIC川村記念美術館
開館時間:9:30-17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜(ただし祝日の場合は開館)、12月24日(火)-1月1日(水)、1月14日(火)
https://kawamura-museum.dic.co.jp