情熱と技が共鳴する
ミラノで知る、石川祐希の素顔

2024年7月から「トッズ フレンズ」に就任した石川祐希選手。昨年5月からイタリアリーグ・セリエA1チーム「シル・スーサ・ヴィム・ペルージャ」と2年契約を結び活躍中だ。トレーニングや試合で忙しい中、ペルージャからミラノまでの往復900kmの距離をものともせず、撮影に駆けつけてくれた。ロケーションは、トッズのミラノ本社とその周辺。普段はデッラ・ヴァッレ会長が大切なお客様を迎えるための専用エリアが、石川選手のために特別に開放された。その美しい佇まいに、現地のフォトグラファーやスタイリストらスタッフ、そして道行く人たちまでもが魅せられた石川選手。SPUR独占インタビューで、その揺るぎない内面にフォーカスしたい。

——今回の撮影はいかがでしたか？　トッズがとてもお似合いでしたが気に入った服はありましたか。

とても楽しい撮影でした。自分では普段選ばない服もあり新鮮な気分でした。特に表紙の衣装はトレンチコートを着るのが初めてだったので、印象に残りましたね。オフィスシーンのネイビーのセットアップも気に入っています。

——ポーズや表情など無理をお願いしてしまいました。「抜け感のある表情で！」など抽象的な依頼にも自然にこたえていただき素晴らしかったです。写真を撮られるのは好きですか？

個人的には、好きか嫌いかで言うと……嫌いです（笑）。幼い頃から、写真を撮られるのは苦手でした。こういった撮影をする機会は年に2〜3回であまり慣れていないので、とにかく言われた通りにしようと……。今回の撮影で、いろいろな方にトッズの魅力を知っていただけるとうれしいです。

——2014年のパッラヴォーロ・モデナとの契約を皮切りに、イタリアと縁が深いですが、この国の好きな点を教えてください。

たくさんありますが、ファッションを存分に楽しめる点もその一つかなと思います。大学1年生のときにイタリアに来て、街を歩いている人たちがみんなカッコいいなあと感じました。自分の着る服への興味も深くなっていき、選ぶものも変わってきたと思います。
イタリアでは、おじいさんやおばあさんもモダンなおしゃれを楽しんでいる印象です。カジュアルなムードが強い日本では、自分の装いが「ちょっと決めすぎたかな？」と思うこともあるんですが（笑）、イタリアは休日も無理のないスマートな装いの人が多く、好きな服を着て気分よく街を歩けます。2020年にミラノのチームに所属して以来、ミラノ中心部のドゥオモ周辺によく行くのですが、いろいろなジャンルのおしゃれな人がいてとても楽しいです。個人的には、きれいでシンプルな服が好きですね。

——まさにシンプルで作りの美しいトッズですが、以前からご存じだったのでしょうか？

もちろんです。イタリアに来てすぐに知りました。「トッズ フレンズ」になって商品に触れる機会も増え、その質の高さと着たときに感じる仕立てのよさに魅せられています。実は今、新しく買う服はほとんどトッズ。とにかく素材がいい。着ていて気持ちがいいんです。散髪のためにミラノの美容院に通っているのですが、その帰りに毎回トッズのショップに寄って買い物をしています（笑）。

——「トッズ フレンズ」として、アスリートの起用は初になります。ファッションとスポーツを結びつけるパイオニアとなりますが、その二つに共通点はありますか？

ファッションもスポーツも、楽しみながら向き合うという点が一緒だと思います。スポーツは競い合いですが、その本質は「楽しむ」というところにあると僕は思っています。ファッションも原点には楽しむことがあるはず、ですよね？
そしてもう一つ、対象に深く向き合う点も共通しているところです。ブランドの職人の方々が質のよいものづくりを極めようとする姿勢は、スポーツで「もっとうまくなろう！」と高みを目指し鍛錬することに似ています。ファッションもスポーツもその気持ちが成長を推し進めていると感じています。
それから、実はバレーボールにもトレンドが存在するんです。1〜2年前までは、あまり打たずに、フェイントやプッシュなど、技で決めるのが主流でしたが、今は、強い球を打つチームが結果を残し始めています。高さとパワーを備え、しっかり打つチームが強いのです。技で決めるケースは、一定期間続くとデータを取られてしまい、勝ちにくくなります。そうなるとまた打つ攻撃に移行していくようになり、と戦略も時代と共に巡っていきます。ファッションも歴史をふり返って新しいものを作り出したり、昔のスタイルがリバイバルしたり、流行が巡っていますよね。

——世界照準で高みを目指し続けている石川選手ですが、イタリアに来たことでどんなことを学べたと感じますか？

コミュニケーションの大切さは、日本にいるとき以上に学べたと思います。イタリア人は自我が強く主張が激しい。その中で対等にプレーするためには、同じように自己主張できないと埋もれてしまいます。そうならないために言葉が話せるということは不可欠です。僕はもともと、あまり主張するタイプではないのですが、イタリアでは特に「自分はこう思っていて、だからこうしなくてはいけない」ということを毎回説明するようにしています。自分自身、イタリア語だと、ものごとをはっきりと言うモードに入りますね。矛盾したことを言ってくる相手には、しっかり矛盾を突く。そうしないと、理解していないと思われてしまいます。コミュニケーションは、チームメイトや監督と信頼関係を築く上で大切ですし、自分の考えを伝えるスキルは鍛えられました。

——石川選手の存在により、日本チームのレベルが各段に上がったと言われています。イタリアでの経験から、どういったものを日本に持ち帰り、還元したいと考えていますか？

そのように言っていただけることもありますが、正直なところ、「還元しよう」とはあまり考えていないんですよね。僕がイタリアでプレーする姿を、次世代の選手や子どもたちが見てくれたときに目標とされる存在でありたい、強い自分でいたい、という想いはあります。ですが、後輩たちが、僕を超えたいと思ってプレーするのは、強くなりたければ当たり前のこと。それでも僕が努力し続け、トップで居続けることが、結果的に次世代の選手や将来の子どもたちへの還元になると、勝手に（笑）思っています。イタリアでも日本でも、僕が自分の道をまっすぐ進み続ける。それが、バレーボール界への貢献につながれば、と願っています。