手づくりのウェディングドレス ― もう、なくしてしまった服 ―

 今から約12年前のこと。デザイナーを志して、2年間服飾の専門学校に通っていましたが、自分の能力ではどうにも先が見えず、ファッションの道を断念することに……。それからしばらくして結婚することになり、自分にとっての「卒業制作」のような気持ちでウェディングドレスを作ることに決めました。いくつか描いた中から選んだのは、バックサテンシャンタンのビスチェにチュールのスカートを組み合わせたデザイン。パターンを引き、材料をそろえ、鏡の前で仮縫いのドレスを着ては、またパターンを修正する。最後は胸もとに同系色のビーズを縫い付けて完成。式の前日に自ら搬入し、最後まで慌ただしい状況ではありましたが、こうして縫い上がったドレスは学生時代のどの課題よりも思い入れのある作品になりました。

 結婚式当日、家族や友人からは「サイズや雰囲気がぴったりで、とても似合っていた」と言葉をもらい、喜びもひとしお。それからさらに時が経ち、長年の付き合いだった彼とはお互いの将来を考えたうえで別れることになりました。あのウェディングドレスも、もう手もとにはありません。もちろん二度と着ることも……。ただ、若かりし頃の情熱とたくさんの人の祝福がちりばめられたあのドレスは、今でも一番眩しいワードローブとして胸に焼き付いています。

(野点 36歳 埼玉県)

※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は10月9日(日)20時公開予定です。

日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。‪あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか?  詳しくは特設ページにて。