大学生の時にもっとも大切に使っていたもの、それはグッチのバンブーバッグです。当時の記憶をたぐりよせていくと、台形のフォルムで、グレーのスウェード地にGGロゴが施され、持ち手のバンブーもグレーで、モダンな印象のものでした。それは当時つきあっていた4つ年上の彼が、ふたりで初めて行った海外旅行先で買ってくれたもの。お店でじっとみている私の姿を見て「買ってやるよ!」と豪快に言ってくれた彼。いつのまにかバイトでお金を貯めてくれていたようです。こんな高額なものもらっていいのだろうか……と悩んだのも一瞬だけ。「えっ!!! ありがとう!!」と欲望に憑依された私が口走っていました。
しかし、とってもいい人だったその人とも別れて早15年。あんなに大切にしていたバッグの行方もわからない。なんとか探し出してマイ・ヴィンテージとして復活できないか……、と思っていたある日。銀座の人混みの中で、逆方向からすれ違いざまに懐かしい顔を認識しました。「え! あれは!」と思いつつ、振り返ってその姿を確認すると、向こうも一瞬こちらを振り返って目があった、ような気がしました。間違いなく、バッグをプレゼントしてくれた彼。結局、何事もなかったように、逆方向へ歩く人混みの中へ紛れ去っていきました。本当に驚くと、咄嗟に声をかけるなんてドラマみたいなこと、できないものですね。
(T.A. 38歳 東京都)
※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は10月16日(日)20時公開予定です。
日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか? 詳しくは特設ページにて。