色とりどりのコート ― どこかで見かけた服 ―

 2年前の11月に訪れた京都・嵐山。駅から降り立つと、赤・橙・黄・深緑・黄緑に彩られた山の風景が川の向こうに広がる。それは、曇り空でも充分なほど目に鮮やかだった。5年分くらいまとめて紅葉を楽しんだかのような気分で、トロッコの駅に向かう途中、あの女性達を見かけたのは、天龍寺の境内だった。40代後半から50代前半くらいの4人組。皆同じくらいの背格好。顔や髪型は思い出せない。それなのに強烈に印象に残っている理由は、彼女達が身に着けていたコートだ。どこにでもあるようなシンプルな形の無地で、しっかりボタンを留めて着ていたのだったが、それぞれの色―レッド、パープル、オレンジ、グリーン―は、色とりどりに染まった木々を背景に見事に映え、その場所だけスポットライトが当たっているようだった。

 「『装う』って、こういうことなんだ」と気付かされた。流行を取り入れる、清潔感を出す、ドレスコードに合わせる、等々、私たちが服を選ぶ際に気を配ることは多岐にわたる。だが、あの日に見かけた名前も知らない4人が教えてくれたのは、それまで全く思いつかなかった新しいルールだった。ファッションは、自分だけで完成させるものではないのだ。

(A.M 33歳 東京都)

※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は12月18日(日)20時公開予定です

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