母は大の着道楽で、娘の私に服を買い与えるのがとても好きだった。気に入った服を購入してきては、私を着せ替えて楽しんだ。どれもこれも高級で、当時から幸せだったが、あくまで母の趣味であり、私にはよくわからない服もたくさんあった。例えばグレーのノースリーブワンピース。非常に渋い色で、柄もなく、子供の私には地味に思えてならなかった。
先日物置を整理していて、その服を見つけた。母がたいそう気に入っていて、孫に着せるべく取っていたのだ。10年の時を経て再会したワンピースは、あまりにもお洒落だった。ウールを織ったグレーの生地は風合いが豊かで美しく、ローウエストで切り替えされたスカートのボックスプリーツにはキラキラと光る黒いスパンコールが敷き詰められている。時を超えるシックさを湛えていて、もう着られないのが悔しかった。やはり母の目は正しかったのだ。
ワンピースはもう一度桐の箱に入れられ、私の娘を待っている。でも、まだ見ぬ女の子もピンクやふわふわが好きで、この服はお気に召さないかもしれない。そうして白い桐の箱の中で永遠に美しく眠り、大人になった彼女が歯噛みして見ている、そんな気も確かにするのだ。
(大阪府 23歳 K.I.)
※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は5月28日(日)20時公開予定です
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