ホテルに勤めていた頃、想像を上回る肉体労働と毎日の残業で家に帰れば眠るだけという生活をしていた。夜遅くに仕事が終わることもしばしば。同期の年下の女の子は美術の専門学校を出ていて、私たちはロッカーで「洋服欲しいね。もうお店は開いてないしね」と喋っていた。
そんな時に見つけたのが、ホテルの近くにあったセレクトショップ。個性的なファッションのおばさまが一人で経営されていて、そのお店は夕方から夜遅くまで開いていたのだ。営業時間が特に決まっていなくて、おばちゃんの気分次第というところも、日頃規則でがんじがらめになっていた私たちには魅力的だった。
店内に入ると、派手なピンクのワンピースやヒョウ柄の靴、装飾が多すぎて重そうなピアスなどが並んでいて、仕事の疲れがすっと消えていった。「これはパリのワンピースよ」などとおばちゃんが嘘か本当かわからない宣伝文句を言ってくるところも、日常を離れられて楽しかった。
私たちはこの店で、気分の浮かれるままによく買い物をした。派手な色の個性的な洋服を着ると、心が解放されて自由と希望を感じられた。今はもう着ないけど、この服を見ると、大変だけど楽しかったあの頃を思い出す。
(熊本県 28歳 mio.aso)
※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は6月18日(日)20時公開予定です
日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか? 詳しくは特設ページにて。