眩しいくらいの鮮やかなグリーンのドレス。それは私のダンスの先生が、現役最後のイギリスの舞台で着ていた、思い出のドレスでもあった。
大学2年生の冬、競技ダンス部に所属していた私は、初めてそのドレスを"マイドレス"として迎え入れた。「あなたはこのドレスを着なさい」と先生に選択の余地も与えられず、その日から自分の意志に反して私のテーマカラーは緑色になってしまった。
ドレスはカップルの印象を左右する大事な要素。本当は深い青色のドレスが着たかったのに……と当時肩を落としたものである。ドレスも、このドレスで踊る自分も、そこまで好きになれずに2年が経ち、ついに引退試合となる全国大会の日がやってきた。
実はその日、特別なことをひとつしていた。それはドレスを2着持ってきていたこと。深い青のドレスと、緑のマイドレスと。予選は青いドレスを、もし決勝ラウンドに残ったら、その時は緑のドレスを着ようと心に決めていた。なんとか勝ち上がり、決勝の舞台に立った。
決勝は、もちろん先生が譲ってくれたグリーンのマイドレスで。苦しくて辞めそうな時も、励まし、指導し続けてくれた先生への感謝の気持ちをどうしても伝えたかったから。そして、このドレスで2年間ともに戦ってきたパートナーへの感謝の意味もあった。何よりも、このドレスは私自身であり、一番の味方であったことに、引退直前になりようやく気づくことができたのだった。ワルツの3拍子に合わせてグリーンのスカートがふわっと舞い、無数のスワロフスキー・クリスタルがきらきらっと輝く。左胸に大きな花のコサージュがついているそのドレスは、思い出の時を重ねるごとにさらに大事な宝物になっている。
(神奈川県 24歳 ameri)
※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は5月7日(日)20時公開予定です
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