ディオールの腕時計 ― もう、なくしてしまった服 ―

 もうなくなってしまったのですが、今でも忘れられないもの、それはディオールの腕時計です。大学1年生のときに、父から貰いました。今から30年ほど前に行った新婚旅行先のハワイで購入したもので、その時までずっとしまい込んでいたようでした。つけてみると私には少しサイズが大きかったのですが、憧れのブランドで、しかも今ではなかなか手に入らないデザインだったので、それから毎日身につけていました。友人からも褒められ、私自身も「この時計をつけないと、私の1日は始まらない」と、大げさですが、そんな風に思っていました。

 大学3年の時に留学に行くことになりました。もちろん、お気に入りのディオールの時計と一緒に。どこに行くときも大切に身につけていたのですが、ある日事件が起こりました。留学先の大学の授業が終わり、帰宅しようと構内を出ようとしたその時、私の左手にあったはずの腕時計がなくなっていたんです。急いで来た道を引き返しましたが、どこにも見当たりません。私にとってあの時計をつけることで1日が始まり、その時計を見ると、不思議と気持ちがあがるものでもあったために、とてもショックでした。今でも同じものが売っていないか探してしまいます。あの腕時計以上に、ときめきを与えてくれる腕時計には出合えていません。一生忘れることが出来ない、大好きな腕時計でした。

(千葉県 23歳 mayu

※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は3月5日(日)20時公開予定です

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