ディーゼルのストラップパンプス ― もう、なくしてしまった服 ―

 アパレル会社に再就職したのは21歳の時。そして一人暮らしを始めたのもこの時期。これまでの生活とは一転、派手な遊びを覚えだしたのがこの頃でした。週の7日を飲み歩き、クラブ通いに勤しむ毎日。もう10年以上も前の話だから、今はその思い出はかなり自分のなかで美化されている。きっとその当時は、仕事で悩んでいたり、恋愛で苦しんでいたり……もちろん体調的にも最悪なコンディションだったはずなのに。あの頃を思い出す時、一番鮮明に出てくる映像は、今ではめっきり履かなくなってしまったハイヒールの、ディーゼルの真っ黒のストラップパンプスだ。

 10cm以上もあるヒール、エナメルとスウェードの両方を使用していて、オールシーズン活躍する素材。程よくクッションも入っており、何時間履き続けても、何時間踊り続けても、痛くなったことは一度もない。足首のストラップのおかげで脚もきれいに見え、コーディネートも組みやすかった。今思うと、私の足のためにできた靴なのではないか、と思えるくらいフィットしていた。

 いつなくなったのか、なぜなくなってしまったのか、その記憶が全くない。毎日の激しい生活が終わるとともに、その靴も私の前からなくなっていた。あれから何足もパンプスを履いてきたが、あれほど私を虜にした靴にはいまだに出合っていない。その幻みたいな感覚が、私のなかで、若かったあの頃の象徴のようになっている。

(神奈川県 34歳 M.T.

※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は3月19日(日)20時公開予定です

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