その靴を初めて見たのは確か中学生くらいの頃。デパートで履いている人を見かけて「うわぁ、変なの。どうなってるんだろう」。足袋で、ヒールで、ブーツ、という不思議な組み合わせが強く心に焼き付いた。
高校に入る頃にはファッションに夢中で、奇抜な格好をたくさんした。自分の心に強く残っているシューズがマルジェラのものだと知ったのもこの頃だ。親に呆れられるような格好をしながらも、可愛く見られたい! という思春期の女心と相まって、自分のファッション史の中でも、とても混沌としていたと思う。
実際に私がこのシューズを手にしたのは長く勤めたアパレル会社を退社した時だ。何か買おう! これからどうなるかわからないけれど「これを身につければ大丈夫」と思えるような相棒になってくれるようなものを! そう考えた時私の頭に浮かんだのは、女性らしいジュエリーでも堅実な時計でもなく、この“変な”ブーツだった。
それから「タビ」ブーツはずっと私と一緒にいる。子供が生まれてお洒落をする意欲を欠いた時も、新しい仕事を始めてドキドキしている時も、「よし大丈夫」と思える。落ち込んだ帰り道、知らないご婦人に「いきなりごめんね、素敵な靴ね。どうしても気になって!」と声をかけられて靴談義で盛り上がり、元気をもらったこともある。柔らかいカーフに女性らしい建築的なヒール、でもちょっととぼけた感じもするこのシューズを、私はとても頼りにしている。何を着ても、ちょっとスタイリングが決まらない日でも、「タビ」ブーツを履くと自分らしくいられる気がする。頼りにしてますよ、相棒!
(M.K. 29歳 京都府)
※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は1月15日(日)20時公開予定です
日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか? 詳しくは特設ページにて。