ロレックスの時計 ― 忘れられない服 ―

 「結婚しよう」と言いながら、彼は欲しがっていたロレックスの時計を私に差し出した。号泣しながら「うん」と答えた。彼と同じロレックス。4年間の同棲、周りは結婚していくのに……と思っていたところに言われて、嬉しかった。
  結婚生活は人並みにスタート。ありきたりな生活の中でケンカをしたり、笑ったり、沢山の時を常にロレックスと過ごした。どこに行くにも一緒に時を刻んでくれていた。
 お互いの心のズレ。5年間の結婚生活。私たちは別れることになり、婚約指輪同然のロレックスも彼に返した。あの時と同様に、違う気持ちの号泣。もう、一緒に時を刻めないという意味もあって、返そうと思った。
 あれから数年。彼氏もできず、腕時計を私は身につけていない。ロレックスよりも素敵な時計に出会わないからだ。ちょっと不便だけど。
 でも、最近アンティークのロレックスを購入した。50年前のアンティーク。とても素敵なロレックス。もうすぐオーバーホールを終えて、私の手元に届く。このロレックスが来たら、何かが変わるような気がする。新しいロレックスと共に時を刻んで行こうと思う。さぁ素敵なスタートをはじめよう! 

(東京都 34歳 m)

※この企画は毎月最終日曜日20時に公開していきます。次回は9月24日(日)20時公開予定です

日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。‪あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか?  詳しくは特設ページにて。