社会人になって一年目、学生の頃から友達だった彼と真剣に付き合うようになった。関西と東北、遠距離恋愛だった。「さっちゃんはお洒落だから、プレゼントをどうしたらよいか解らないよ。」洋服に全く無頓着な彼は、いつもそう言っていた。だから私は、記念日には欲しいものを伝えるようにしていた。困らせたくなかったのだ。
付き合って三年目、誕生日にはエルメスのブレスレットが欲しいと言ってみた。細くて三重巻きにする、一番シンプルなものだ。これからもずっと大切にしたいから……。
彼は、願い通りにプレゼントしてくれた。当時私がしていたカジュアルな格好に、エルメスを足すだけでぐっと垢抜けて見えた。嬉しかった。
「銀座のエルメスまでいった。めちゃくちゃ緊張したよー!」と彼。「え、銀座で買ったの?」「この前の東京研修の時に、走って買いに行ったんだ。」「なんでわざわざ銀座で?」「だって、ちゃんと、路面店で買ってあげたかったから。」
私はそれから毎日のように、腕にぐるぐると巻きつけて、晴れやかに会社に行った。二年後に、彼と結婚した。そしてその十年後に、別れてしまった。
今も時々、エルメスのブレスレットをつけてみる。別の道を歩んでいるが、このブレスレットは、あの時お互いに一生懸命恋していたことを知っているから。腕に巻く時は、今でも男の子みたいな格好を。すると、あの頃の恋する少年のような心を、このブレスが吹き込んでくれるような気がするのだ。
(京都府 41歳 Sea)
※この企画は毎月最終日曜日20時に公開していきます。次回は11月26日(日)20時公開予定です
日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか? 詳しくは特設ページにて。