黒のワンピース ― 褒められた服 ―

 私が今までの人生で一番褒められた服は、実はハロウィンパーティーで着た仮装だ。

 私が小学校の時、学校でハロウィンパーティーがあった。パーティーをするかどうかは担任の先生の方針によるので、ない年もあった。小学校なので、「できるだけパーティーのために新しい服を買わないで、仮装してくること」が条件だ。私たちはわくわくして自分の仮装を考えた。

 私は魔女になることに決めた。まず、友達が持っていたつばの広い黒い帽子を借りた。とんがり帽子ではなかったけど、全然気にしなかった。それから家に帰り、自分は魔女になることに決めた、と母親に伝えた。すると母親は、「いくら仮装パーティーだと言っても学校に着ていくものだからみっともないものはよくない」などと言い、自分の黒のワンピースと黒いショールを私に貸した。母親が着ると、よくある膝が隠れるか隠れないかくらいの丈のリトルブラックドレスだったが、小学生でかつ小柄な私が着ると、ほとんどロングドレスになった。

 当日、私は黒いワンピースを着て首から黒いショールを垂らして、黒い靴を履いて意気揚々と登校した。学校につくと友達から借りた黒い帽子を被って、掃除箱からほうきを取り出して手に持った。今でもはっきり覚えているのは、同じクラスで当時一番私と仲が悪かった男の子が私をまじまじと見て、「めっちゃ似合うやん!」と言ったことだ。私は彼が誰かを褒めるのを聞いたことがなかった。勿論、他の子も次々に私に「似合う」と褒めてくれた。

 大人になってからは、機会がないのでロングドレスは着ないけど、黒のシンプルなワンピースは、私に一番自信をくれる服。「黒なんて誰でも似合うでしょ」、って言う人がよくいるでしょ? でも、わざわざそんなことを言ってくる人って、黒のワンピースで他人から褒められた経験がきっとないんだと思う。大人になってから余計に、人は見た目が9割、服装で相手に与える印象が全然違うとかよく言われる。自分に似合うファッションを知っていることは、社会人として素晴らしい武器になると思う。自分とうまくいかない人でさえも、「似合う」と認めてくれるようなスタイルを大切にしたい。

(東京都 31歳 kitty

※この企画は毎週日曜日20時に公開していきます。次回は7月2日(日)20時公開予定です

日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。‪あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか?  詳しくは特設ページにて。


FEATURE
HELLO...!