ドリス ヴァン ノッテンのコート ― クリスマスに読む、冬の服のはなし ―

 3年ほど前だったでしょうか。道ですれ違った女性の着ていたコートがあまりにも素敵で、思わず振り返りました。冬空の下を早足で颯爽と歩く、凜とした女性。そのメンズライクな佇まいのツィードコートには、袖と裾部分にたくさんの羽根があしらわれていて、彼女が歩くたびふわっふわっと空気に溶けるように揺れます。あれは、どこのなんだろう? と調べると、そのシーズンのドリス ヴァン ノッテンのコートであるとわかりました。

 すぐに青山のブティックに駆け込んで試着しました。鏡に映った自分が「似合うか、似合わないか」というのはとりあえず度外視で、そのコートの美しさにぽーっとし、1 分後には「これください」とつぶやいてお会計していました。

 しかし、当時26歳そこそこの小娘に、この素敵なコートは、まあ似合わない。祖母には「あら、あんたどうしたの? コートに着られているわね」と言われ、友人には「ひげ生えてるよ」と笑われる始末。電車の中でも、周りの人に白い目で見られているような気がしておどおどしてしまいます(自意識過剰)。あの、街ですれ違った女性のように着こなすにはどうしたらいいんだろう。試行錯誤している話を先輩にしたところ、こう言われたんです。「ドリスは年を取るほど似合うようになるらしいよ。30代より40代、40代より50代、というふうに」。その言葉を聞いて、気持ちが羽根のように軽くなったんです。そうか、今はまだ似合わないけれど、このコートはこれからどんどん自分にフィットするようになるんだ……! そう認識したとたん、これから年を取るのさえも楽しみになってきました。

(SPUR編集I)

 ― 期間限定 ―
SPURスタッフの冬の服のはなし

プロの作家やクリエイターでなくても、服にまつわる忘れられない記憶は必ずある。みなさんからご応募いただいたエピソード以外に、今月はSPURの誌面づくりに関わる人々に思い起こしてもらった「ストーリー」を期間限定でピックアップしました。

日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。‪あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか?  詳しくは特設ページにて。