お姫さまの搔巻 ― クリスマスに読む、冬の服のはなし ―

 子どもの頃から冬になると布団が搔かい巻まきになる家だった。日本の家庭はすべてそういうものだと思って育った。首まわりをしっかり寒さから防護してくれる搔巻は、立て付けが悪くてうすら寒い社宅ではなんとも頼もしく、時々、横着して搔巻に腕を通したままノロノロと布団から出て歩き回ったりすると、行儀が悪いとひどく親から怒られた。自分にとって搔巻は布団ではなく「冬の服」だった。社会人になってから、冬の寒い日に自宅に遊びに来た友人におもむろに搔巻を出したとき、「何これ? こんな大きいどてら初めて見た」と驚かれて、驚かれたことにびっくりした。

 両親の実家でも冬の風物詩は搔巻だった。祖母の家に泊まりに行くと、アイドルのようなひときわ華やかな搔巻があった。ピンク色の花柄の着物を搔巻に作り替えたその一枚は、兄弟でも取り合いになる可愛らしさで、「お姫さま」という名前がつけられていた。

 祖母が若い頃に袖を通していた着物が搔巻になって大切にされている、その過程をしみじみと味わえるようになったのは大人になってからのことだった。搔巻はどこかが破れると、またあて布を施されてパッチワークはどんどん複雑になった。綿が薄くなると、打ち直された。その手作業の軌跡が、搔巻にはすべて残っている。今では祖母はいないけれど、搔巻は押し入れに大切にしまわれて、冬になると格別のぬくもりを運んでくれている。

(SPUR編集G)

 ― 期間限定 ―
SPURスタッフの冬の服のはなし

プロの作家やクリエイターでなくても、服にまつわる忘れられない記憶は必ずある。みなさんからご応募いただいたエピソード以外に、今月はSPURの誌面づくりに関わる人々に思い起こしてもらった「ストーリー」を期間限定でピックアップしました。

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