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手仕事こそ、原点にして頂点。 京都で【エルメス】を再発見する

このコレクションは、職人の手仕事を尊ぶものなのです。ハンドクリームやネイルファイルなどからなる手もと用のビューティプロダクトがエルメスから発売されたとき、こう切り出されてエッと驚いたことを思い出す。「エルメスの職人たちの唯一無二の道具のひとつ、それは職人の手なのです。だから手もとが滑らないこと、べたつかないことが大切でした」。美容の発表会ではおよそ耳にしたことのないアプローチ。実際、ハンドケア製品の開発段階で職人たちが使い心地を試したというエピソードにも仰天したけれど、今回の京都の旅で納得した。

いかにエルメスが、職人の技を、手を、手仕事を敬っているか。メゾンの核に職人が、人間がいて、創造する自由を抱きしめながら、いかに愚直なまでに最高峰のクオリティを追い求め続けているのか。

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エルメスの社員はおよそ18000人。うち職人はどれだけの割合を占めるか知っていますか? 初めて聞かれたときに、私自身は、1割でしょうかと安易に答えて不正解。答えは、三分の一。約6000人が職人という数を聞いて、驚かない人はいないはず。自社でこれほど職人を抱えている座組が、製品の60%をインハウスで創り出す事実を裏書きしているのです。

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素材を自由に用いるプティ アッシュのコーナーには可愛いオブジェが!

今週、出かけた京都の京セラ美術館の「エルメス・イン・ザ・メイキング展」(2022年11月22日(火) - 11月27日(日)※オンライン予約制)の主人公は、鞍、時計、手袋、テーブルウェア、スカーフ、修理工房と異なるメチエの職人たち。彼らの類まれな手仕事を見る、つまりエルメスが命を吹き込まれる瞬間を目撃する贅沢な機会だ。私は興奮した。パリコレのフロントロウにも勝るとも劣らない高揚感の理由は、職人ひとりひとりの手もととカッコよさや、眼差しの美しさ!

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馬具をアップサイクルしたプティ アッシュの椅子

というわけで、しばし私がぐっときたサヴォワールフェールの源泉をご覧ください。

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リモージュから来日した絵付け職人。筆先にアートと超絶技巧が宿る!

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時計職人。砂のような部品を組み立てる集中力やいかに。

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手袋工房は、リムーザン地方を拠点としている。22に渡る工程は革を「読む」作業から始まる。

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仕上げは手形のアイロンで成型。

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バッグのパーツを製作。エッジをロウ留してつややかに。

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すべてはここから始まった。サドルステッチに象徴される馬具。

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ジュエリーのセッティング。拡大鏡を通して爪留めを行うミクロの技。

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リペア作業。時を、世代を超えてひとつのものを長く使う物語の背景にも、職人技がある

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52の工房はフランス全土、そして時計工房のスイスなど各地に渡っている。なぜか。

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それは地域の手仕事や伝統産業を守るため。例えば、シルクカレの工房はリヨン。絹織物で知られるこの町で、エルメスは絹生地から創っている。エキシビションでは90×90㎝のシルクカレの製作プロセスが披露されたが、繭から糸を紡ぎ、このサイズの一枚の素地をつくるのに必要な繭は、なんと300個。カレ1枚を糸にすると450㎞の長さになる。気が遠くなる一歩手前で、私の目はプリント職人に釘付けになった。

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この絵柄「シュヴァル・ドゥ・フェット」はヤン・バイトリク(Jan Bajtlik)のアートワーク。アーティストのサインと子犬がちらり。

印刷技術を得て独り立ちするまでに3年。それも2年の間は先輩職人がマンツーマンで指導するという。1色につき1枚の枠。現在は、最大で48色の多色刷りが可能だ。その都度、染料を流し込み、然るべきスピードで印刷する。模様部分がガーゼのように透けたシルクスクリーンを操りながらインクを伸ばし、プリントを重ねる作業は、僅かなずれも許されない。

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大きなストロークでブレードを滑らせ、彩色していくプロセスはダイナミックでけれん味もたっぷりだけれど、その都度、色がきれいにのっているか?ずれていないか? 慎重に確かめる視線はまるで鷹のよう。見ているこちらの背筋も、ピンと張ったシルクスクリーンのごとくシュッと伸びるのでした。

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手作業による縁のかがり作業も匠の技。手の感触だけで縁から15㎜幅を取り、均等にまつるのだ。「途中で少しでも幅が変わってしまったら、それはもうカレではないのです」。かがり技の基礎を取得するだけでも1年半。ちなみにスカーフの裏から表に向かってかがるのがフランス式、逆に表から裏に返すのはイタリア式。エルメスはもちろんフランス式を採用している。

「私たちのミッションは、ものを創ることだけではありません。次の世代に技と精神を受け渡す責任を負っているのです」。だから、地域の手作業に敬意を払い、その地に工房を構え、職人を育て、文化を尊びながらそこに根を下ろすのが、エルメスがエルメスたるゆえん。「その土地が持つ技法や匠を継承しながら、その土地を繁栄させること、そして環境を守ることも私たちの責任です。例えばスカーフを製作する過程で必要になる水。河川を汚さないために循環させているほか、染料の処理もしっかり行います。また少しでも印刷がずれ販売できなかったカレは、細かく切って再利用するなど工夫をしています」

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左から、トークセッションのモデレーターを務めた国谷裕子さん、京都マーブルを手掛ける野瀬家の皆さん、オリヴィエ・フルニエさん、ドキュメンタリー「HUMAN ODYSSEY」を製作した映画監督の奥山大史さん、エルメスジャポン代表取締役社長の有賀昌男さん

職人が語るこんな言葉から、世界を巡回してきたこの展覧会の開催地になぜ京都が選ばれたのか、その理由が見えてきた。職人技への敬意、世代を超えて受け継がれる長い歴史と伝統、自由でユーモアあふれる挑戦心、そして人間への愛情。エルメスが重んじる価値観が重なり、息づいているのがこの古都なのだと。

 

シルク部門や革製品、職人育成部門の責任者を務めてきたインターナショナル エグゼクティブ・バイス・プレジデントのオリヴィエ・フルニエ氏の言葉はこうだ。「途絶えていく匠の技、今、発見して継承して維持しなければ消えてしまうサヴォワールフェールを世界中で私たちは探求しているのです」。そこで紹介されたのが、京都マーブル。その名前を聞いてアッと声が漏れたのは、21SSシーズンの展示会で紹介された京都マーブルのシルクカレの物語があまりに美しかったから。

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リヨンと京都の美が行き合い、昇華された美しい京都マーブルとのカレ。2020年12月の展示会でのスナップ。

 エルメスが10年もの間、信念をもって探し続けた「絶滅技法」がドイツとスイスを経てはるか東方の京都で発見された奇跡のストーリーは、こちらでぜひご覧ください。会場に訪れていた京都マーブルの野瀬家の皆さんが紹介されたとき、不覚にも涙ぐんでしまったのは私だけではないはず。それは分厚い情熱が、この職人の集合体の原動力なのだというごくシンプルな事実を突きつけられたからで、エルメスは決して単なるラグジュアリーブランドではなく、本質を探究し続けるクオリティブランドでもあるという証左を見た瞬間でもありました。「タイパ」が重宝されて久しい。そんな今こそ、ものづくりの背景にある本質や人間の手仕事について考えるこんな機会が大切だと、切に思うのです。

 

帰京して、我が家のカレをすべて並べ、プリントを細部まで凝視し、かがりの向きを表裏ひっくり返しながら確認したのは言うまでもありません。この日もまたまたまた、エルメスが大好きになってしまいました。

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最後に、作業後の職人の表情。いい顔です。ヒューマン・オデッセイが、ここにもありました。

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エディターIGARASHI

おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。

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