2017.03.10

エルメスが誇る、最高の職人技との出合い

 以前、あるスタイリストからこんな話を聞いたことがある。「エルメスの商品を買う時の楽しさやドキドキは唯一無二。エルメスには、特別な“魔法”がある」。確かにその通りだと思った。ファーストエルメスを手に入れた時の悦びは鮮明に記憶に刻まれているし、憧れの高級メゾンという認識は昔からずっと変わらない。これまで疑いもしなかったけど、それはいったいなぜだろう? 今回このイベントに参加して、その魔法の秘密に真に触れることができた。

 39日〜19日まで表参道で開催中の「エルメスの手しごと」展を見に行ってきた。2011年から世界各都市で開催されており、東京での開催は今回が初めて。会場内には、10種の手しごとのコーナーがまるで本物のアトリエのように並び、それぞれの職人たちが卓越した技を間近で披露してくれる。しかも、彼らのそばには通訳が付いており、我々の質問にも気軽にこたえてくれるのだ。

 会場に入って真っ先に目に飛び込んできたのは、メゾンの原点ともいえる鞍職人のブース。馬具工房として1837年に創業して以来、今も変わらずに鞍の製作と販売を続けている。「パン! パン!」と革をたたく軽やかな音とともに、機能性と耐久性を確保した美しい鞍ができあがっていく。

 皮革職人は、なんとこの会期中にアイコンバッグの「ケリー」を完成させるという。鞍づくりの伝統技術「サドルステッチ」という非常に強度の高い縫い方で革を丁寧に縫い合わせていく様子には、時間を忘れて見入ってしまった。彼は「ケリー」以外に「コンスタンス」なども制作する予定なのだとか。その仕上がりが気になって、何度も足を運びたくなりそうだ。

 科学研究員風のこちらの男性は、宝石をジュエリーに固定する石留め職人だ。馬の頭部をアレンジしたブレスレット「ギャロップ」に、繊細なパヴェダイヤモンドを細いピンセットでつまみ、ひと粒ずつ顕微鏡をのぞきながら設置していく。ちなみにこの「ギャロップ」には、2500粒以上ものダイヤモンドが埋め込まれている。気の遠くなる工程を見ながら、思わず自分の目を細めてしまう。

 極彩色でさまざまなストーリーを描くカレ(シルクスカーフ)も、一枚一枚手しごで生み出されている。会場では、1色ごとに1枚の版を使って色を重ねていく、シルクスクリーンという技法を実際に見ることができた。

 シルクスクリーンのフレームをつくる製版職人は、90センチ四方の実物大の手描きの原画をタブレット上で色別に分解し、タッチペンを使ってデザインに忠実にトレースしていく。たとえば30色で構成されたデザインの場合、全部で30枚のフレームが必要になり、色が多ければ多い分その数は増えていく。実に緻密な工程だ。

 シルクスクリーンプリントのダイナミックな工程も見どころのひとつ。真っ白なシルク地の上に、メッシュと呼ばれる薄い布を張った水色のフレームをのせ、そこに独自配合のインクを流し込んで、1色ずつ決められた順番通りに染めあげていく。


インクがメッシュの目地を通り抜けることで、1色ずつ色が重なっていく。

 写真の女性は、カレの最後の仕上げとなる、縁かがりをする職人。「ルロタージュ」というフランス特有の巻き縫いを、にこやかな笑顔で見せてくれた。カレの表側を上にした状態で、端を内側へくるりと巻き込んでいき、筒状になったところに素早く針を1センチ間隔で刺していく。素人目には、いったい何がどうなってるのやら……。こんな細かい工程が今も手仕事で行われていることを知り、自然とため息が漏れた。

微小なパーツを組み合わせていく時計職人

 このほかにも、1本の糸を使って手で縫い上げるネクタイ縫製職人、100分の1ミリ単位の精度が求められる時計職人、まるで肌そのもののように柔らかく引き伸ばされた革をつくる手袋職人、特別な作品に手描きで絵付けをする磁器絵付職人、さらにはクリスタル職人のサンルイのアトリエでの仕事をバーチャル体験できるコーナーなど、めったに見ることのできない職人の熟練の技を存分に堪能することができる。

手袋に使われる革は、1日かけてじっくりとならしていく

 寸分の狂いもない正確な手しごとによって、じっくりと時間をかけながら素材が最高品質のオブジェへと姿を変えていく。その様はまるでひとつひとつに息が 吹き込まれていくようで、エルメスの魔法を見ているようだった。どんなに時代が変わっても、変わることなく受け継がれる伝統の技と情熱を目の当たりにすれば、エルメスという揺るぎない存在の真の理由が分かるはず。ぜひこの感動を味わっていただきたい。

 表参道のイベントと並行して、銀座のメゾンエルメスでは「エルメスの手しごと」展“メゾンへようこそ”を開催中。職人や手しごとに関連する映画の上映や、トークセッション、ワークショップなど、あらゆるプログラムが用意されており、エルメスの手しごとをより深く体験することができる。(予約は抽選制。プログラムの詳細と申込みは hermes.com/hermesartisan から)

「エルメスの手しごと展」 “アトリエがやって来た”
会期: 3/9(木)ー19(日)※3/13(月)休
時間: 11:00~19:00 (入場は閉場の30分前まで)
会場: 表参道ヒルズ 本館B3F スペース オー
東京都渋谷区神宮前4丁目12番10号
入場: 無料
問い合わせ:エルメスジャポン 03-3569-3300

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Photography and text: Eimi Hayashi