人生の問題を解決するには、まず針箱を整頓せよ。19世紀イギリスの思想家、トーマス・カーライルはかく語りき。針箱、と言われてもピンとこないが、これをバッグに置き換えてみるとどうだろう?
バッグの中身を片付けられない、と頭を抱える人は少なくない。スマートフォン、財布、手帳、コスメポーチ…はたまたどこで買ったか覚えていない海外のミントタブレットに、ずっと探していたボールペンまで、バッグを開くたびに思いがけない物に遭遇することもしばしば。そんなエブリデイ・バッグの悩みを持つ人たちが、今ラブコールを送るのが、NY発のバッグブランドOAD NEW YORK。SPURエディターにも広まっているこのブランドの魅力を、春夏コレクションの立ち上がりに先立って来日した、デザイナーのシドニー・スーリーのインタビューと共に解明してみよう。
text: Shunsuke Okabe
デザイナー、シドニー・スーリーがブランドを立ち上げるまで
── まずはじめに、ブランドを立ち上げるまでのストーリーを教えてもらえますか?
OAD NEW YORKを立ち上げたのが2015年のこと。それまでは、いくつかのアメリカのブランドで働いていました。主にシューズとバッグのデザインが多かったですね。
── 今回の来日は何度目になるのでしょうか?
独立前に働いていたブランドでは日本マーケットの担当だったので、実は幾度となく足を運んでいたんです。加えて多くのデザイナーにとって、日本のマーケットで成功することは、グローバルで通用するという証。私はNYを拠点にしていますが、ブランド立ち上げ当初から日本での反応にはとても関心を寄せていました。
理想のバッグの条件とは? ブランドコンセプトに迫る
── 有名ブランドでの経験を経て、満を持してデビューしたOAD NEW YORKですが、ブランドのコンセプトはどのように考えられたのでしょうか?
まずブランドの名前の由来。O、A、Dはそれぞれ、私が好きな幾何学的なシルエットをアルファベットで表しました。これまでの経験を通して、ミニマルなデザインに惹かれることが多かった。でも、アメリカのブランドって、シンプル過ぎてつまらないとも感じます。ミニマルで都会的、それでいてウキウキするような女性的な感性も取り入れた、新しいバッグを作りたくて。
── ずばり、OAD NEW YORKの魅力を3つのキーワードで表すとしたら?
ジオメトリックなシェイプ、個性的なカラーパレット、そして実用性。私自身、これまでに数え切れないほど多くのバッグを持ってきました。そして気づいたのが、現代の女性たちがいかにバッグに多くの理想を求めているかということ。これら3つのキーワードに加え、手に取りやすい価格帯というポイントも忘れてはいけません。
OAD NEW YORKがキャリアウーマンに支持される理由
── ユニークなシェイプも特徴的ですが、実際手に持ってみると、ディテールが特徴的ですね。
デザインが素敵なバッグはたくさんあるけど、使いやすさを考えると今ひとつ、というのが正直なところ。だからこそ、私の作るバッグはとことん実用性重視。ブランドを立ち上げてまもなくデザインしたのが、「キット」という名前のバッグです。今でも定番として毎シーズン展開している人気のシリーズですが、このバッグが支持されるのもきっと使いやすいデザインが理由だと考えています。手前にいくつも施されたポケットは、それぞれ用途が明確に分かれています。スマートフォン、定期券や免許証、コイン。このバッグを使い始めてから、バッグの中で物が見つからないということがなくなりました。
── こちらのトップハンドルバッグは、着脱可能なストラップが付いているんですね。
その通り。そのバッグは、「プリズム」という名前。ストラップだけでなく、手前のフラップを出せばクラシカルに、逆に中に入れてポケットの付いたライニングを表に出せばカジュアルな印象にもなります。その日の気分やスタイリングに合わせて、オールマイティに合わせられるマルチウェイ仕様にこだわりました。
便利なだけじゃつまらない! 個性的なカラーパレット
── 毎シーズン定番で展開するデザイン、実用性重視の構造、一方でカラーパレットがとても個性的なのが目を引きます。
カラーパレットは、ブランドにとって重要なエレメントです。いくつかの定番カラーに加え、毎シーズンさまざまなインスピレーションに基づき、シーズンカラーを打ち出しています。中でも現代アーティストの作品に影響を受けることが多いですね。
── 2018年春夏コレクションのカラーストーリーについて教えて頂けますか?
今回イメージしたのは、アメリカの現代アーティストであるリチャード・ディーベンコーンの作品。彼の表現する、深い色合いと、ポップなカラーリングの濃淡にインスピレーションを受けました。
シドニーが選ぶ今季のおすすめバッグ
── 2018年春夏コレクションの中から、日本のファンに向けてイチ押しのアイテムを教えて下さい。
おすすめしたいのは全部、と言いたいところだけど、特に私が今季気に入っているのは「キット」のミディアムサイズから新しく展開する、バイカラーのシリーズ。モダンなデザインに、よりモードなツイストが加わっているので、スタイリングのアクセントになるはずです。同じく「キット」シリーズは、先シーズンの秋冬からミニサイズも展開しています。加えて、今季は財布やカードケースなど、スモールレザーグッズも豊富に取り揃えているので、荷物の整理に困っている人はぜひ使ってみてほしいですね。
シドニー・スーリー●パーソンズ美術大学を卒業後、カルバン・クライン、ケイト・スペード、トミー ヒルフィガーでシューズやバッグのデザインを手がけた後、2015年にOAD NEW YORKを立ち上げる。幾何学的なデザイン、機能性、豊富なカラーパレットが魅力。