レディー・ガガやリアーナも目をとめた、ファッション界注目の若手が語る服づくりへの想い
「椅子に座ったのは2週間ぶりかもしれないな」。そう話すのは、ファッション・デザイナーのマシュー・アダムス・ドーラン。NY、マンハッタンのサウス・ストリートにある彼のアトリエで、写真撮影のためにポーズしてもらっていたときのことだ。ニューヨーク ファッション ウィークを間近に控えた、よく晴れて冷え込んだ月曜の午後。30歳の彼は、裸足で、膝まで届くカーハートの黒いフーディトップスを着て、動き続けたくてたまらないように見えた。
ポートレイトの撮影が終わると、彼は再びアトリエの壁の空いている場所にピンでカラー写真を貼り付ける作業に戻った。そこに貼ってあるのは、彼のよく知られたスタイルである、“東海岸流プレッピー・ミーツ・ストリートウェア”のイメージを簡潔にまとめたものだ。黄色いギンガムチェックのワンピースを着たジャクリーン・ケネディ、ポロ スポーツやバナナ リパブリックの90年代の広告、それに、ラルフ ローレンを愛好した80年代ブルックリンの若者の集団、ロー・ライフがカメラの前で大げさな表情をしている写真もある。
マシューのブランドには、アシスタントもフルタイムのスタッフもいない。だがこの日、彼のL字型のアトリエは、てんやわんやの大騒ぎだった。スラリとしたモデルが超ワイドシルエットのベージュのパンツを引っ張り上げてフィッティングしていたり、年長のテイラーがブレザーに裏地を縫いつけていたり、誰かが電話でランチの出前を頼んでいたり…… さらに、マシューの飼っている10カ月のレイクランド・テリア、メイジーが餌を求めて床を嗅ぎ回っている。全部で14人がそこで働いていた。
「毎晩、午前4時まで縫製の作業をしている」とマシューはいう。「いつもそんな感じなんだ」。家はどこなのか聞くと、彼はこう答えた、「ここに住んでるんだ」と。冗談を言っているのだろうと思ったら、生地サンプルやスケッチ、リリース資料でとり散らかった衣装ラックとアイランドキッチンの先にある、この部屋で唯一の使用されていないスペースが、明らかに彼のベッドルームになっているようだ。彼と親しく働いている、スタイリストであり『FANTASTIC MAN』誌のファッション・ディレクターであるカルロス・ナザリオは、彼のワーカホリックさをこう強調する――「マシューは、すべてのアイテムひとつずつにブランドラベルを縫いつけているんだ」。
ときおりあくびをしながらも、服作りに没頭できて幸せそうなマシュー。それにはもっともな理由があるのだ。ショーの開催は、今回でまだ2度めだが、このマサチューセッツ州生まれ、オーストラリア育ちのデザイナーは、2014年にパーソンズ美術大学で修士号を取って以来、ファッション界の注目の若手として知られた存在だ。彼のシグネチャーであるうそみたいに大きいオーバーサイズのデニムアイテムが、レディー・ガガやリアーナの目にとまったのはこの頃だ。そしてリアーナは、マシューの服をストリートでも写真撮影時にも、ミュージックビデオでも着ることになった。(マシューが成功した一因とは?)
SOURCE:「The New York Designer Subverting American Workwear」By T JAPAN New York Times Style Magazine
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