多様性の時代を牽引するロンドン・ファッション界の若き“反逆者”たち

伝統を重んじることに誇りをもちながらも、じつはロンドンは反骨精神を認め、反逆者を育んでいるときこそ、いちばん輝いている。「あり得ないことが起こるかも」という感覚、それがこの街のファッションに生命を吹きこんできた


 たとえば、マリー・クヮントのミニ丈のスカートとシフトドレスはスキャンダルを引き起こし、1960年代の若者カルチャーのシンボルになった。ヴィヴィアン・ウェストウッドは1971年、SMコスチュームにインスパイアされた服を、キングスロードに構えたショップ「Let It Rock」で売り始めた。ロンドンにパンクが初めて登場した時代だった。ところが20世紀末になると、何かひとつの美的価値観が大流行するということはなくなり、ゴスからダンディズム、スポーツウェアにいたるまで、さまざまなテイストが融合し、それが街を行き交う人々、アングラな場所に集う人々の、ファッションを彩るようになった。どれも、その時代の型破りなデザイナーたち──特にジョン・ガリアーノとアレキサンダー・マックイーン──を語るうえでは、重要なテイストである。そして21世紀が始まると、クリストファー・ケイン、ジョナサン・アンダーソン、シモーネ・ロシャが現れて、ロンドンのファッション・シーンに再び衝撃が走った。

 かつては新参者と呼ばれた彼らも、ファッション・シーンで認められたブランドの顔として、広く知られるようになった。そして今、ロンドンを拠点とする新たな世代のデザイナーたちが、台頭してきた。マティ・ボヴァン、ア・サイ・タ、ディラーラ・フィンディコグルーだ。それぞれが独特のスタイルをもち、なんといっても若さが際立つが(30歳のタが、このグループでは最年長)、冒険的なデザインと妥協を許さない姿勢は共通している。そして3人とも、急速にデジタル化が進む社会において、職人による手作業と持続可能性こそが、レジスタンスであるという信念をもつ。タとボヴァンは過剰生産を排除する取り組みとして、ドゥミ・クチュール(オートクチュールの仕立てを既製服に応用したもの)を、すべて自分たちのアトリエで、数量を限定して作っている。「ドレスを1,000着も作りたくて、この仕事をやっているわけじゃない。自分がデザインしたものを発表するからには、ちゃんとした理由が必要なんだ」とボヴァンは言う。現在28歳の彼は、誰もがうらやむルイ・ヴィトンでの見習いという環境を2015年に離れ、ヨークにある両親の自宅の庭の道具小屋で、自身のレーベルを立ち上げた。彼の持ち味は、技巧を凝らしたニットのコラージュ、自分でプリントした生地、ハンドメイドのジュエリーだ。フィッティングのモデルは自ら務めることが多く、自分のアトリエをまわしていくために、講師やイラストレーター、スタイリストという副業をかけもちする。

画像: それぞれの作品に身を包んだモデルと並ぶデザイナーたち。マティ・ボヴァン(左から2人目)、ア・サイ・タ(左から3人目)、ディラーラ・フィンディコグルー(右から2人目)

それぞれの作品に身を包んだモデルと並ぶデザイナーたち。マティ・ボヴァン(左から2人目)、ア・サイ・タ(左から3人目)、ディラーラ・フィンディコグルー(右から2人目)

 この3人のデザイナーたちは、多様性という流れもリードしている。タはイギリス人だが、中国人とベトナム人をルーツとし、少年時代は6人のきょうだいとともに、サウスロンドンの公営団地を転々として育った。「この街が第二の故郷になった人が、たくさんいる」という現実をつねに意識して、非白人のモデルをメインに使い、自身のルーツをインスピレーションの源にしている。彼のコレクションでは、シノワズリやドラゴンモチーフの刺繡を、ウェスタンの定番であるカウボーイブーツや切りっぱなしのデニム、はたまたアジア人のバーバリー好きを皮肉ったチェックのアイテムと合わせてしまう。「とにかくアジア人観光客は、バーバリーに目がない。ぼくの母親も夢中だよ」とタは話す。一方、27歳のディラーラ・フィンディコグルーは保守的なイスラム教徒の家庭に生まれ、イスタンブールで育ったが、2009年に芸術大学の名門セントラル・セント・マーチンズで学ぶために渡英した。ゴシック調のドレスやパンクロック風のジャンプスーツを作ってきた彼女は、「私はよそ者なんだという意識が原動力になって、こういう奇抜なものを思いつくようになったの」と話す。フィンディコグルーは、もともとレーベルの拡大に否定的ではないが、それについて慎重な姿勢を崩さないと決めている。今夏、自分のレーベルにブライダル・コレクションを加えたが、ストレート、同性どうし、ノンバイナリー(自身のジェンダーを限定しない第三の性)という、あらゆるカップルのスタイリングを考えた。

 3人は、先輩デザイナーたちと同じように、世間を挑発する鋭い感性をもっている点でも共通している。ボヴァンは2月に初めて単独のランウェイショーを開催したが、このときモデルたちは風船を束ねたヘッドドレスをかぶって歩いた。フィンディコグルーは昨秋、教会を借りてオカルトがテーマのプレゼンテーションを行なったが、「イン フォワーズ」(陰謀論を唱えるオルタナ右翼系メディア)のホスト、アレックス・ジョーンズに「悪魔の儀式」と糾弾された。だが、彼らのこうした行動に、人々はむしろ希望の光を見いだしている。英国のEU離脱が現実になる日が近づくなか、中間層は衰退し、アートに対する資金援助は消えてなくなった。彼らのようなデザイナーが出てきたことは、たとえ全盛期のような勢いはなくても、ロンドンが今でもファッション界の反逆者を生む重要な拠点として健在であることの証しなのだ。「クリエイティブであり続けるという気概を、みんながもっている」とボヴァンは言う。「ぼくが自分のビジョンを表現できて、インスパイアされる人がひとりでもいてくれたら、それでいいんだ」

SOURCE:「London’s New Fashion IconoclastsBy T JAPAN New York Times Style Magazine BY KIM WOO, PHOTOGRAPH BY WILL SANDERS OCTOBER 09, 2018

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