2019.06.15

ニューライン"THE"が語るもの。マーク・ジェイコブスの未来

「どうやって自分をスタイリングするのか。それが大事なんだ」

2019年3月末、日本の媒体ではSPURだけの独占インタビューが実現。貴重な肉声を届ける。

2019年プレフォール、新たなラインTHE MARC JACOBSが誕生。それは精力的なコラボレーションを展開しながら"マークらしい"美意識に立ち返るコレクション。デビューから33年、モードの第一線を走り続ける彼は今、何を考えているのか。スペシャルロングインタビューとともに新作をいち早く公開する。

取材当日はコージーないでたち。「今日の僕のスタイルはノースタイル。フーディに、マーク・ジェイコブスのカシミヤシルクスウェットシャツ。牡牛座のネックレスは、Sarah-Jane Wildeが贈ってくれて以来、気に入って一度もはずしてない」

「来週結婚するんだ」とさらっと言ったマーク・ジェイコブス。衝撃の発言にびっくりしたが、ゴージャスなウェディングケーキも話題となった盛大な結婚式の1週間前に、NY・ソーホーのオフィスにてこれから立ち上げるTHE MARC JACOBS(以下「THE」)について聞く非常に貴重な機会に恵まれた。2018年のリゾートコレクションでは1993年に発表されたグランジコレクションを25周年を祝して復刻したり、結婚、新ラインの立ち上げなどマーク・ジェイコブスが公私ともに、大きな節目、進化の時期を迎えている。この記念すべきときに、彼の世界観を改めて語ってもらった。

 
グランジとは、多様なアイテムを自由に組み合わせること

「グランジコレクションを発表したのは、25周年に何かいつもと違うことがしたかったから。それにMARC BY MARC JACOBSや、グランジコレクションが生まれた頃のエネルギーや美意識を復刻させたら、どんなふうに受け取られるのかを見るいいタイミングだとも思った。僕がいつも好きだった服を見返してみるのも面白いしね。ランウェイとは違う種類の服を集めて、その中からいろいろなアイテムを合わせて着る、ということをまたしたくなった。つまりグランジとは、そういうものなんだ」

「THE」ではそのスピリットが活かされ、誰もが愛する彼のシグネチャーといえるスタイルが新鮮な視点で蘇っている。

リアルなヴィンテージ感漂うスウェットシャツ。ペパーミント パティやルーシーが配されたものも。¥33,000/マーク ジェイコブス カスタマーセンター(マーク ジェイコブス)

「初めに作ったのは、スヌーピーのスウェットシャツ(2)だった。『THE』のウィメンズコレクションの責任者でもあるオランピア・ル・タンが、60年代後半から70年代初期のヴィンテージのスヌーピーのスウェットシャツを持ってきてね。着古されてボロボロだったけれど、みんなすごく気に入ったんだ。オールドスクールなスヌーピーがね。それからソフィア・コッポラが『ルイ・ヴィトン時代のドレスが好きだったから、プリントでまた欲しい』と言ったからドレスを作ったし『MARC JACOBSでお気に入りのセーターとコートがあった』とも言うから、それも製作することになった。意見を交換しながら、みんなが一番好きなものを形にした。サーマルスウェットシャツに、40年代風ドレス、ピーナッツスウェットシャツ。そうやってコレクションができていったんだ」

「THE」の画期的な点は、スヌーピーのスウェットシャツが好き、という出発点から、ピーナッツとのコラボレーションを実現したことだろう。

Schottとコラボレーションしたピンクのジャケットに、シルクパジャマを合わせた全身ワントーンのスタイル。質感の対比をきかせる

「もっともこだわったのは、本物を追求するということ。つまり“ピーナッツっぽい”ものは作りたくなかったから実際に声をかけたんだ。ピンクのモーターサイクルジャケットも絶対に欲しいと思ったから、Schottと一緒に完璧なものを作った(3)。ただ『THE』では、コラボレーションだけを展開したかったわけじゃない。全体のさまざまな要素の一部としてピーナッツのアイテムがある、というのが理想的だった。いろいろなピースを合わせたときに、より折衷的で、スタイルを重視したコレクションになるようにね」

 
個性を浮き彫りにするミックススタイル

4 年代もさまざまな双子が登場するキャンペーン。撮影は気鋭のフォトグラファー、Hugo Scott
5 グランジライクなセーターに加えて、やわらかなカラーのコーデュロイパンツもマークのお気に入り

みんなが大好きなマークのアイテムを集めた「THE」。新たな視点をもたらす重要な役割を担ったのは、ロッタ・ヴォルコヴァによるキャンペーンのスタイリングだった(3〜5)。

「彼女はすごくクールだよね。バレンシアガでの仕事を知っていたんだ。僕もチームのみんなもすでに自分たちの言語を熟知している。だから別の視点を持った人と仕事してみるのはよいと思って。たとえば『2色のカラーストッキングを作るのはどう?』とかね。シンプルな提案から、クールで新しい視点を生み出してくれる人。それによってナイスなエッジが生まれる。彼女がいなかったら思いつかなかったようなことがたくさんあった」

それでは、マークが考える「THE」を着こなす理想の女性像とは?

「僕らがやりたかったことは、さまざまな年代の双子をキャストしたビジュアルにも表れていると思う。大事なのはパーソナリティなんだ。いかに自分のスタイルをつくり上げるのかということ。キャンペーンでは、ダイバースな視点を持って、個性を服に反映することを実験してみたかったんだ。だから、このコレクションにおける僕の理想は、ランウェイピースのコートに、スヌーピーのスウェットシャツを着てくれるようなことかな。そのほうが面白いし、若々しいし、コンテンポラリーだから。僕は常にミックスするのが好きなんだ」

ちなみに、彼自身のお気に入りアイテムは、やはりグランジに回帰する。

「僕が一番好きなルックは、裾がグランジらしい、ストライプのセーター(5)。カート・コバーンが着ていた古いセーターに似ているんだよね。僕自身も昔こういうセーターをよく着ていた。もうオーダーして、受け取って、本当に大好きなんだ(笑)」

 
永遠に守り抜くもの、変わり続けるもの

羽根が舞うドレスなどなどますますクチュールライクに美しく進化した2019-’20年秋冬コレクション

最近のランウェイコレクション(6)はとりわけ絶賛されているが、新たな表現の場があることで、ランウェイへの視点もさらに定まったのだろう。

「ランウェイはもちろん僕が一番好きな場所だ。もっともルールがなくて、もっとも夢が見られる場所だから。音楽で、モデルのキャスティングで、ビジョンを創造することで、ルックで、ファンタジーを表現できる。ランウェイはクリエイティビティという意味で、もっとも抑制のない自由がある場所。『THE』のようなことができる限りは、ランウェイはスペシャルなものであっていいと思うんだ」

またファストファッションが当たり前のように存在している今、「僕がやりたいからだけではなくて、ランウェイを保存していく責任があると心から感じている」とも語る。

マーク・ジェイコブスは、世界観を通して今では多くの人が口にする“ダイバーシティ”を、誰よりも先に提示していたのだと思う。それが今回、より明確になったような気がする。

「フレグランス、ビューティ、『THE』、そしてランウェイ。すべてがあって、MARC JACOBSの世界が完成するのが好きなんだ。それぞれが大事だし、すべてが揃ってパーフェクトであることも美しいと思う」

結婚も控えたこの日、最後にマーク・ジェイコブスの未来への展望を聞いた。

「今の目標は、ここで頑張ること。MARC JACOBSが今日どうあるべきなのかを考えて、実現のために一生懸命働くことかな。新しいフレグランスのローンチもあるし、リテイルやオンラインショップの位置づけも再定義したいね。世界の風景は、変わり続けるから。永遠なんてものはひとつもないし、過去のほうがよかったと言ったところでいいことはない。だから僕は、環境や世界の変化とともに進化したいし、それに敬意を表して生きたいんだ。自分なりに心地よい方法で関わっていきたい。あと個人的に大きな出来事は、来週結婚すること。家を買ったから改装しないといけないし、家具を見つけて、引っ越しもしなくちゃ。それに、また体を鍛えたい。ジムに通って、健康的な食事をして、筋肉のある引き締まった体になりたいね(笑)」

THE MARC JACOBSは夢を見る

マーク・ジェイコブスが「THE」で提案するのは、日常で着られるファンタジー。自由なスタイリングによって、装う人のパーソナリティを浮き彫りにする。ニューコレクションをいち早く日本でシューティング。

ドレス¥93,000・ヘッドバンド¥26,000・タイツ(参考色)¥14,000・ブーツ〈ヒール9㎝〉¥79,000/マークジェイコブス カスタマーセンター(マーク ジェイコブス)
ドレス¥93,000・ヘッドバンド¥26,000・タイツ(参考色)¥14,000・ブーツ〈ヒール9㎝〉¥79,000/マーク ジェイコブス カスタマーセンター(マーク ジェイコブス)

「THE PRAIRIE DRESS」と名付けられたドレスのノスタルジックな花柄プリントを主役に。STEPHEN JONESとコラボレーションしたヘッドバンドとレースアップのヴィクトリアンブーツを合わせて、力強いロマンスを描き出す。バイカラーのタイツがウィットに富んだ裏切りもプラス。凛とした立ち姿にモードの愉しみがあふれる。

ジャケット¥79,000・ミニスカート¥51,000(参考価格)・ヘッドバンド¥26,000・ベルト¥43,000・タイツ¥14,000(ともに参考価格)・靴〈ヒール10㎝〉¥51,000・手に持ったストール¥57,000/マーク ジェイコブス カスタマーセンター(マーク ジェイコブス)
ジャケット¥79,000・ミニスカート¥51,000(参考価格)・ヘッドバンド¥26,000・ベルト¥43,000(参考価格)・タイツ¥14,000・靴〈ヒール10㎝〉¥51,000(参考価格)・手に持ったストール¥57,000/マーク ジェイコブス カスタマーセンター(マーク ジェイコブス)

デニムセットアップのピーナッツのコミックから引用したプリントに心をくすぐられる。色褪せたような質感がヴィンテージライク。肩の立体的なフォルムと大きめのラペル、マイクロミニ丈が可憐な表情もひとさじ。拡張コードがモチーフのベルト、携えたピーナッツのロングストールでプレイフルな女性像をさらに堪能する。



SPECIAL MOVIE

PROFILE
1963年、NY生まれ。名門のパーソンズ・スクール・オブ・デザインを卒業後、1986年に自身の名を冠したブランド、MARC JACOBSをスタート。1997〜2014年はルイ・ヴィトンのデザイナーも兼任していた。

SOURCE:SPUR 2019年7月号「マーク・ジェイコブスの未来」
interview & text: Akemi Nakamura (interview) photography: Naoko Maeda (interview),John Clayton Lee  styling: Tamao Iida hair: KOTARO 〈SENSE OF HUMOUR〉 make-up: NOBUKO MAEKAWA 〈Perle〉 model: Marland 
FEATURE