マルベリーのクリエイティブ・ディレクター、ジョニー・コカによる、英国の伝統と革新を落とし込んだデザインに欠かせないのが“クラフトマンシップ”だ。この夏、マルベリーによりロンドン各地で開催中のパブイベント“The My Local Series -マイローカル シリーズ”とともに東京にやってくる、ブランドが誇る技術と職人たちに出会うため、イギリス南西部にあるサマセットへと向かった。
英国らしさにこだわるマルベリーのルーツはサマセットに
ロンドンから電車で2時間、ジョージア調の美しい街並みと、“BATH(お風呂)”の語源となったことで有名なバースに到着。さらにそこから丘陵地帯を車で走ること20分、豊かな緑の中に1989年開設の工場「The Rookery」が見えてくる。
1971年に創立されたマルベリーのルーツは、ここサマセットにある。創業者ロジャー・ソールは、母からもらった500ポンドを元手に、キッチンテーブルの上でブランドをスタート。そして姉が描いた木のイラストが、かつてのトレードマーク(現在はパッケージなどに使われている深い緑で表現)になった。それはロジャーが毎朝通学の時に前を通ったマルベリーの木で、ブランド名の由来にもなっている。
マルベリーにとって、“ルーツ”は重要なのだ。昨今、アジアに生産拠点を移すラグジュアリーブランドが多い中、ブランドのアイデンティティを重視し英国産にこだわる。実際に2013年には同じくサマーセットで、2つ目となる工場「The Willows」を始動させている。
ブランドを支えるクラフトマン/ウーマンたち
「The Rookery」に足を踏み入れると、クラフトマンとクラフトウーマンたちが笑顔で迎え入れてくれた。女性が思いのほか多いのも特徴かもしれない。流れるような生産ライン、最新鋭の機械も見える。現代の工場らしくオートメーション化された部分もあるが、ほとんどの工程で職人の目と技が必要になってくる。センサーでレザーの形状を記憶し、バッグのパーツを切り取る巨大な機械。すべてお任せで進むかのように見えるこの作業にも、職人が必要なのだ。レザーの一部が薄かったり傷がついていたりすれば、製品に使うことはできないし、そこから切り取ってしまえば、革一枚が無駄になってしまう。それを見極め微調整をするのが職人の役目なのだ。
続くのがレザーの厚みを調節する工程で、バッグ作りの中でも最も技術のいる作業の1つ。“splitting”では革全体をふさわしい厚さに、“skiving”ではパーツの縫い代となる部分のみを削り、全体と縫い合わせた部分のバランスを整える。どちらも失敗すれば取り返しがつかない。
そしてもうひとつ重要となるのが、バッグ作りの最終段階である“inking”。縫い合わせたレザーのエッジを透明と有色、二度に渡るインク染めで仕上げていく。この美しさで製品のクオリティが決まると言っても過言ではない。実際に“inking”を体験させてもらったが、インクがのった回転するローラーとの距離感やレザーを動かすタイミングなど、非常に難しい。結局、レザーも手もインクまみれになってしまった。新しい職人は個々にあったラインに加わる前に、5週間の徹底トレーニングを受けると聞いて納得だ。
スペシャルプロダクトを作る“artisan studio”を物色している時に、プロダクトの横に値段がおもむろに記されているのにも気がついた。それにより職人たちは、自分たちが制作しているバッグの価値を知るだけでなく、自分たちの作るものに対して誇りを持つ手掛かりにもなっているようだ。
工場のもうひとつの顔とは?
この「The Rookery」にはもうひとつの顔がある。商品の生産だけでなく、新しいコレクションのサンプリングも行われている。ゆえに現在マルベリーを指揮するジョニー・コカもよく工場に足を運ぶという。2015年にクリエイティブ・ディレクターに就任したスペイン人のコカは、ブランドアーカイブや英国の伝統を新しい尺度で捉えデザインに落とし込んでいる。2019-20年秋冬シーズンはまさにそのアプローチを現しており、“Keeley”ではレトロ調のシンプルなバッグに、スタッズのような開閉具とチェーンでパンク魂を加えていた。
そんな新作を開発しているのが、“The Development Centre”だ。 レザーに近い人工素材でデザインを立体的に仕立て、アジャストを数回繰り返し、プレゼンやショールームに並ぶサンプルとして送り出されていく。
最近導入したという日本製の刺しゅうの機械にも巡り合った。デジタルで取り込まれた複雑な絵柄を、刺しゅうだけでなくスパンコールでも表現可能。これからのデザインやパーソナライゼーションにも実力を発揮しそうだ。
まるで家族のよう?本当に家族なのです
今回訪れた「The Rookery」には総勢300人が働く。「まるで家族のよう」と、思いきや、実際に親子や兄弟、親戚が同僚、ということも多いらしい。いかにマルベリーが地元に“ルーツ(根)”を張っているかだけでなく、工場周辺の職を生む役割を果たしているのかがわかる。
そんな中に面白い人物がいる。サマセットで生まれ育ったハリソンは、ブリッジウォーター大学の見習いプロジェクトを経て「The Rookery」に入り、今ではDevelopment Specialistの職に就いている。デザインチームと密に働き、アイデアを形にする。プロトタイプを作り、プロダクションラインにのせるまで、変更を加えるのも彼の仕事だ。
そう、マルベリーの持つブランドの伝統や技術は、“ルーツ”であるここサマセットで、次の世代へと確実に受け継がれているのだ。
INFORMATION
一人一人がお気に入りを持っているほど、英国人にとって心のよりどころと言っていいのがパブ。この夏、ロンドン各地のパブで開催しているイベント“The My Local Series -マイローカル シリーズ”を引き連れて、マルベリーが東京にやってくる!8月22日(木)~24日(土)の3日間、表参道で英国のミュージック、カルチャー、クラフトマンシップ、そしてパブを体験できる貴重な機会。
また、伊勢丹新宿店でも8月21日(水)からの一週間、マルベリー初の東京でのグローバルイベントを祝して発売されるカプセルコレクションを扱うポップアップストアを開催。“英国らしさ”を表現するタータンチェックのシリーズをバリエーション豊かに展開し、バッグのほか、ポーチやコインポーチなどスモールレザーグッズもラインナップされる予定だ。
“The My Local Series -マイローカル シリーズ”詳細はマルベリー公式ウェブサイト、および公式LINEにて随時更新中。