「シャネルはシャネルである」コロナ禍中でのコレクション発表に込めたブランドメッセージ

多くのブランドがクルーズコレクションの発表を見送る中、実際のショー形式ではなくデジタルを通じての発表へと踏み切ったシャネル。その意図は何なのか? コロナ禍を受けてファッション業界が激震する今、同社ファッション部門の責任者であるブルーノ・パブロフスキーに、シャネルのこれから、そして生き残るための戦略について聞いた


 6月8日、シャネルはデジタルを通じて2020-21年クルーズコレクションを発表した。発表の前日、ファッション部門の責任者ブルーノ・パブロフスキーが、パリと東京を繋ぐオンラインインタビューで、コロナ禍においてクルーズコレクションを発表する意義、そして今後シャネルが打ち出す姿勢について語った。

CHANEL Cruise Collection 2020-21 from YouTube

―― どのような方法で、クルーズコレクションを発表するのでしょうか?

 シャネルとして初めての試みになりましたが、ショーを行わずにデジタルを通じてコレクションを発表します。コロナ禍によりショーを開催することはできませんが、私たちにとってクルーズコレクションはとても重要です。ただしこれは今回限りのことで、将来的にはショーを復活させるつもりです。ファッションショーは我々のメッセージやコレクションの背景にあるエモーションを伝えるために必要なものです。11月には全世界のブティックでクルーズコレクションを展開するので、それを見ていただければ製品に込められたクリエイティブなエネルギーも直に感じ取っていただけると思います。ブティックでクリエイションのエネルギーを感じていただくことこそ、シャネルにとって最も大事なことなのです。

画像1: 「シャネルはシャネルである」
コロナ禍中でのコレクション発表に
込めたブランドメッセージ

―― 新型コロナウィルスの出現は、ショーのテーマに影響を与えましたか?

 発表形式に変更は生じましたが、テーマの変更はありません。当初は、イタリアのカプリ島で発表する予定でした。ヴィルジニー(・ヴィアール=アーティスティック・ディレクター)は、地中海をインスピレーションソースにその光や色、花、海を表現しました。私たちは実際にそこへ旅することはできませんが、プレゼンテーションを通じて、そのエモーションを伝えることはできます。

 クルーズコレクションは、シャネルにおいてとてもユニークなものです。2000年に立ち上げて以来、ファッションウィーク期間中に他ブランドとともに発表するプレタポルテと異なり、メティエダールコレクションと同様に、”シャネル・モメント”を体験していただける特別なものとして発表してきました。顧客とプレス、ファンが繋がる絶好の機会であり、だからこそ、難しい時期ではありますが今回の発表に踏み切りました。

―― コロナ禍を受けて、シャネルはどのようなメッセージを発信してゆくのでしょう?

 このような状況下において重要なのは、ブランドの基本に立ち返ることです。シャネルの根幹にあるのはクリエイションです。ですから、ヴィルジニーにクルーズコレクションを通してブランドのビジョンを表現してもらうことが大事なのです。パリはロックダウンで2カ月間大変な時期が続きましたが、コレクションを発表することは、製造業に携わる人たちが今後受注を受けることを示すサインでもあります。仕事を失うかもしれないと心配している人たちに参加してもらうことで、シャネルは製造業全体をサポートしていることを伝えることができます。 

―― ファッション業界では、コレクションを春夏、秋冬の年2回の発表へと切り替える動きもあります。コレクションのスケジュールを変更する考えはありますか?

 全くありません。シャネルの強さとは、ブティックで2カ月に一度、計6回のコレクションのエネルギーを顧客へ伝えられることです。多くのコレクションを発表することは、顧客により多くの選択肢を与えることにつながります。もちろん、ファッションウィークで年2回プレタポルテのショーを開くことも続けます。ファッションウィークは、ファッション、そしてラグジュアリーワールドからの注目を集める重要な場です。パリがクリエイションの首都であることを示す機会であり、ブランドやメティエ(職人の技能)を守るためにも続けてゆくつもりです。こうした姿勢こそ、シャネルが他ブランドとは異なることを顧客に示すものになります。

画像2: 「シャネルはシャネルである」
コロナ禍中でのコレクション発表に
込めたブランドメッセージ

―― シャネルは3月に気候変動に関する取り組みとして「シャネル ミッション1.5」を発表しました。コロナ禍はこの取り組みに影響をもたらしたのでしょうか?

 クルーズコレクションでは、独自開発したサスティナブルファブリックを用いた14ルックを発表します。「シャネル ミッション1.5」の一つにも掲げている、糸の段階からのトレーサビリティを初めて示せるものとなります。二年前から、エキゾチックレザーの使用をやめ、ノンケミカルレザーの開発にも努めています。クルーズコレクションは、この指針を実現するための最初のステップであり、シャネルの将来の展望を示すものともなります。

 私たちは、サスティナビリティを長い間にわたって追求してきました。小さな規模のサプライヤーが新しい展開に踏み出すのは難しく資金も必要となりますが、彼らをサポートすることでもサスティナビリティを実現できます。簡単に結果が出るものではありませんが、我々はインパクトを与える形でサスティナビリティを追求したいと思いますし、それを顧客の方々は支持してくれると信じています。

―― ファッション界でも生き残りをかけた戦いが始まっています。生き残るために必要なことは何だと考えますか?

 シャネルのインスピレーションソースはブランドのDNAであり、それこそが私たちを強くしてくれます。ヴィルジニーが行うのは、そのDNAに現代性を組み合わせることです。必要なのは変革と新しさであり、それを追求してゆきたいと思います。

画像: PHOTOGRAPHS: COURTESY OF CHANEL

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF CHANEL

―― シャネルのDNAとは何でしょう?

 最も重要なのはクリエーション。ガブリエル・シャネルは、当時ではありえなかったコスチュームジュエリーとファインジュエリーを一緒にスタイリングし、男性服の生地を女性服に転用もし、モダンなコレクションを発表しました。何の制約も設けずに、自分の意思を貫き、そして時代に適応する形でコレクションを作り続けました。彼女の抱いたビジョン、その現代性こそが、今のシャネルを築くものです。それを今後も続けてゆくことが大事で、だからこそシャネルにとってサスティナビリティは重要な要素となります。

将来に向けてクリエイションを持続してゆくことは、今の状況に適したインパクトを与えます。どんな時でも、ディテールに至るまでクリエイティブであることが重要です。ガブリエル自身もまた、ディテールにこだわり、変化を恐れませんでした、その精神をカール・ラガーフェルド、ヴィルジニー・ヴィアールは引き継いでいます。三者の間には一貫性があります。ブランドの価値を守りつつ、現代性を持たせながら将来へとつないでゆくのです。

画像: BRUNO PAVLOVSKY(ブルーノ・パブロフスキー) シャネル ファッション部門兼シャネル SASプレジデント。フランス生まれ。2004年よりファッション部門プレジデントを務める。18年よりシャネルSASプレジデントを兼任 PHOTOGRAPH BY FRÉDÉRIC DAVID

BRUNO PAVLOVSKY(ブルーノ・パブロフスキー)
シャネル ファッション部門兼シャネル SASプレジデント。フランス生まれ。2004年よりファッション部門プレジデントを務める。18年よりシャネルSASプレジデントを兼任
PHOTOGRAPH BY FRÉDÉRIC DAVID

SOURCE:「CHANEL CRUISE 2020-21 COLLECTIONBy T JAPAN New York Times Style Magazine:JAPAN BY JUN ISHIDA JUNE 10, 2020

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