2020年、幅広い世代から愛されたマンガ『鬼滅の刃』。作中に登場する「無限列車」を舞台に、宿敵と激しい戦いを繰り広げる鬼殺の剣士の装いをハイモードに昇華したら? 黒煙を吹き上げながら走る列車で、正義と己の情熱のために刀を振るう新時代のニューヒーローに思いを馳せて――。
鬼殺の剣士として修業を終えた心やさしい主人公、竈門炭治郎。仲間である禰󠄀豆子、善逸、伊之助とともに向かった任務の地は、漆黒の闇の中を妖しげに疾走する「無限列車」。次々と事件が起こる車内で彼らを待ち受けるのは、特殊な力を操る強大な鬼、“下弦の壱”魘夢だ。「鬼殺隊」最強の剣士の一人である炎柱・煉󠄁獄杏寿郎とともに、列車で起こった事件を解決するため、いざ出発!
弱きものを守る圧倒的な存在感。見るものすべての心を熱く燃やす
「鬼殺隊最強」の〈柱〉のひとり、炎柱・煉󠄁獄杏寿郎。堂々とした彼の佇まいを、より力強く演出するのは柔らかなシルクを幾重にも重ね、ドレープをきかせたドレス。大小異なるグラフィカルな柄は70年代に登場したユベール・ド・ジバンシィのアーカイブドレスから着想を得たもの。歩を進めるたびに大胆に躍動するシルエットだ。紅炎のごとく燃え上がる情熱と正義感とともに、多くの剣士を導き、勇気づけてきた彼の姿にマッチする。
"鋭い爪"は大切なものを守るために。彼女を彷彿とさせる暖かな桃色がやさしく包み込む
鬼としての業に抗いながらも、兄である炭治郎とともに人間に戻る方法を模索するヒロイン、竈門禰󠄀豆子。鬼殺の剣士をはじめ、無限列車での争いに巻き込まれた人々を守りながらも、懸命に戦う慈愛に満ちた少女だ。そんな彼女の心を映すペールピンクのドレスとラムのファーコートはワントーンでまとめて。装飾をそぎ落とし、洗練されたミニマルな佇まいに、芯のあるフェミニニティをさりげなく薫らせたい。
自在に流れる"水"のように。凛々しい姿に宿る不撓不屈の精神
水の呼吸の使い手である竈門炭治郎は敵である「鬼」にも慈愛に満ちた視線を向ける心やさしい鬼殺の剣士だ。鬼化した妹を救うために、奔走する。彼がまとう市松模様の羽織をイメージさせる、深いグリーンのドレスをまとって。あえて前後の身頃を反転させたモダンなデザイン。ジャカード織のシルク地にはさりげなくフラワーモチーフがほどこされている。ボリュームのある裾が動くたびに揺れ、凛とした少年の姿をドラマティックに演出する。
瞳を閉じれば、まるで"雷神"。稲妻色を味方につけて
ときに"臆病者"と呼ばれる雷の呼吸の使い手、我妻善逸。その彼の本質は、まぶたを閉じて眠れば、鋭い剣技を電光石火の速度で繰り出す居合の達人。彼の身を包むのは、雷光を彷彿とさせるビビッド・イエローのコート。ハリのあるウールギャバジン素材が採用され、大胆に膨らむ袖と、スリムなウエストラインが着る人をエレガンスの極致に誘う。
"マスク"の下でたぎるパッションと野性。仲間のために縦横無尽に駆け抜ける
炭治郎と行動を共にする大胆不敵な剣士・嘴平伊之助のパワフルな"野性"を象徴。二振りの刀を使いこなし、内に秘めた情熱を爆発させ、鬼と対峙する。粗野な振る舞いをする一方で、猪のマスクの下は端正な顔だちが隠されている少年へのオマージュだ。身頃がたっぷりとしたエコファーに覆われたコートは、ワイルドな伊之助の装いにリンクする。揺れるビジューで彩られたシアーな素材のスカートからのぞく健康的な素肌が、激しい戦闘を繰り広げた、アクティブな彼の姿を思わせる。
狂喜に満ちたスーパー・ヴィラン。夢の中では、彼の囁きにご用心
炭治郎一行を無限列車で待ち構えていたのは“下弦の壱”魘夢。その正体は長年、隊士が追い続ける宿敵・鬼舞辻無惨が擁する精鋭の鬼だ。クラシカルな空気を薫らせるベルベットのテーラードジャケットを主役に。胸元では同素材で作られたフラワーモチーフのネックレスが妖しげに躍る。ジェントルな装いに、さりげないユーモアを感じさせる。「夢」を武器に戦う彼のムードを表現する幻想的なルックが完成。
SOURCE:SPUR 2020年12月号「無限列車で、どこまでも」
photography: Tatsunari Kawazu 〈S-14〉 styling: Yuuka Maruyama 〈makiura office〉 hair: KOTARO for SENSE OF HUMOUR make-up: KIE KIYOHARA 〈Beauty Direction〉 model: Eriko Harako, Mia Louise, Marine, Asya, Embrey, MARINA special thanks: Omiya Railway Museum