ダンディズムと、宝石と 「千葉雄大 ロマンスの騎士」

名作『リボンの騎士』に着想したスタイリングを千葉雄大がまとうなら……? 美意識に貫かれた貴族的ムードとロマンティシズムが溶け合う唯一無二のナイトが現れた。極上の宝石も、気負いなく身につけて。

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ネックレス〈K18WG、あこや真珠、ダイヤモンド〉¥4,290,000、リング「ミキモト M コレクション」〈K18WG、白蝶真珠、ダイヤモンド〉¥836,000、ピアス(セット)〈K18WG、ダイヤモンド〉¥473,000/ミキモトカスタマーズ・サービスセンター(ミキモト) ジャケット¥319,000、シャツ¥85,800、パンツ¥154,000、ローファー¥159,500/マルジェラジャパン クライアントサービス(メゾン マルジェラ)ソックス/スタイリスト私物

ラッフルつきのジャケットとパンツのエレガントな装いに、パールのボウでドレスアップ。「プライベートでも真珠のネックレスは愛用しています」。

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ネックレス(上から)「ローズセレスト」〈K18YG、K18WG、ダイヤモンド、マザーオブパール、オニキス〉¥693,000、「ローズ デ ヴァン」〈K18YG、ダイヤモンド、マザーオブパール〉¥2,750,000(予定価格)、「ローズ デ ヴァン」〈K18YG、ダイヤモンド、マラカイト〉¥1,595,000、リング「ローズ デ ヴァン」〈K18PG、ダイヤモンド、オニキス〉¥396,000(すべてディオール ファイン ジュエリー)、花柄シャツ¥176,000、中に着たトップス¥115,500(参考価格)、ベルト¥95,700(すべてディオール)/クリスチャン ディオール 手袋/スタイリスト私物

アーティなメンズのルックにファインジュエリーを特別にミックス。宝石の輝きに性別は関係ない。

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ジャケット¥286,000、シャツ¥71,500、パンツ¥165,000、帽子¥82,500、ネクタイ¥28,600、イヤリング(セット)¥49,500、ネックレス¥170,500、ブローチ¥90,200/グッチ ジャパン(グッチ)

私服でも取り入れているというグッチ。袖のサルトリアル ラベルが印象的なジャケットを主軸にヴィンテージライクなコスチュームジュエリーを盛り込んで。極端なデコレーションを、とことん楽しむ。

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クリップ(大)「ローズ ド ノエル ミディアムモデル」〈K18YG、ダイヤモンド、マザーオブパール〉¥1,861,200、クリップペンダント(小)「コスモス ミディアムモデル」〈K18WG、ダイヤモンド〉¥2,904,000(チェーンつき)/ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク(ヴァン クリーフ&アーペル) ジャケット¥260,700、パンツ¥83,600/アレキサンダー・マックイーン

「アレキサンダー・マックイーンの服は初めて袖を通しましたが、すごく気に入りました」。スポーティなジャケットを、帯のような真っ赤なボウがドラマティックに演出。襟元に咲く小花に秘めたる想いを託して。

ジュエリーやパールをまとうのは自然なことだし、気分がいい

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ファッションは自分のためのエンターテインメント

 その日、千葉雄大さんは撮影のテーマに合わせてサスクワァッチファブリックスの繊細な白のレースのシャツに、黒の革ジャンを着て現れた。サンローランのブーツ、耳には銀のピアスをつけ、まさにハードで甘い美しさ。それは言葉が喚起するイメージを、自分なりに形にする能力であるとも思った。
「このシャツ、今日初めて着たんですよ。でもそれだけだとあまりにも、と思って、レザーのジャケットを合わせました。デニムはアクネ ストゥディオズです。形がきれいですよね。ファッションが大好きなんです」
 おしゃれはエンターテインメント。そして彼にとってのエンターテインメントとは、人を楽しませること、そして自分も楽しむこと。この1年、家で過ごすことはそれほど苦にならなかったというが、ファッション好きなら誰でも感じるような欲求不満は、やはり少しあるようだ。
「オンラインでも、いろいろ楽しむ方法は見つけてるんですけどね。たとえば“オリエント”みたいなテーマやドレスコードを決めて、オンラインで友達と会ったりもしました。4分割画面で、それぞれがテーマに合わせた格好をして。でも服って、やっぱり……。先日、久しぶりに買い物に出かけて、『ああ、ほんとに楽しい』って思ったんです。着るものもこれまでは、仕事に行くときはそんなにこだわっていなかったんですけど、いまは毎回『今日は何着ていこう?』と考えるようになった。人の目に触れる楽しみ、じゃないですけど(笑)」
 彼の着こなしは、たとえばハリー・スタイルズやティモシー・シャラメ、Kポップのスターたちがメンズウェアの概念やステレオタイプを超えて、カラフルな色や柄、ジュエリーを身につけることとも共鳴している。それは新しい世代が従来の男性像を壊し、変えていく大きなきっかけになっているように思えるが、本人はそんなことは意識していないという。
「僕にはないですね、壊すとか、そういう気持ちは。好きなものを、好きなときに身につける感じ。あんまり“壊す”とか“改革”とか、そういうものには興味がない。ジュエリーやパールも普通に自分が身につけていて気分がいいとか、『今日はあそこに行くからつけていこう』とか。ほんと、エンターテインメントなんです」

パブリックイメージは必ずしも自分じゃない

 そう、若い世代がやっていることに意味を見つけようとしているのは、いつもむしろ周りの大人やメディアだ。ただ厄介なのは、本人にとっては自然なことでも、それによってパブリックイメージがつくられ、そこに押し込められてしまうこと。たとえば、ビリー・アイリッシュ。その独特なスタイルと、鬱などパーソナルな体験を音楽にするせいで、彼女は「新世代の声」にされた。ドキュメンタリー『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』(’21)でも、そのことばかり質問する年上の男性ジャーナリストに囲まれて、彼女が頭を抱えているようなシーンがある。
「かったるいですよね(笑)。それでちょっと図に乗ったような感じに見えると、今度はきっと『天狗になってる』って言われるだろうし、八方塞がり。だから、もう何も言わないのがいちばん波風が立たないんでしょうけど……それもめちゃくちゃにフラストレーションがたまる。本当に、そういう面倒くさい考え方はなくなってほしいなと思います」
 千葉雄大さんの場合、パブリックイメージは「可愛い」。でももうそれをコントロールしたり、あえて裏切るような仕事を選んだりしようとは思わなくなったという。実際、ドラマ「いいね!光源氏くん」のように、そのパブリックイメージを拡大して、はんなりした魅力を放つ、他にはないような役も演じてきた。
「仕事はやるんです。そこでは(パブリックイメージに)迎合します。ただそうじゃないところで僕自身を求められたときには、関係がない。取材で『やっぱり寝る前はホットチョコレートとか、ミルク飲むんですか?』って聞かれたりするんですよ。そうすると『いや、ビールです』って(笑)。うん、表現する際には、パブリックイメージが必要になることもあるし……ただ、昔はその部分でいろいろ思っていたこともあるかもしれないけど、いまはないです。イメージを裏切る役も、頂いたらやりますけど、あえて探そうとは思わない。単に面白ければ、なんでもやる。ただそういうパブリックなものがプライベートにまで侵食してきたら、僕にはちょっと無理ですね」

ロマンティックが、世界を変える
 いまの世代が世界を変える、というとき、ぱっと頭に浮かぶのは人種差別や気候危機を訴えるプロテストなど、社会的な活動だ。でも、変化はもっと広いところで起きている。カルチャーやアートがどんどんそれを促しているし、新しい美意識が物事を動かしている。そう、たぶんどんな世代においても、きっかけとなるのはロマンティックな精神だ。
 千葉雄大さんが好きなデザイナーに挙げるドリス・ヴァン・ノッテンも、ロマンティックな作風で知られる。同時にその美意識を貫くためにさまざまなビジネス上の決断をし、ファッション業界では異色とされた。彼を追ったドキュメンタリー『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』(’17)では、その側面も描かれている。
「僕、もともと『このブランドのデザイナーが変わって』とか、そういう情報には興味がないんです。ものがよければなんでもいいし、ものは大事にする。まあ、自分に知識がなくて、ついていけないだけかもしれないけど。ただ、ドリス・ヴァン・ノッテンは好きなんですよね。今日も着て来たいドリスのジャケットがあって、迷ったんです。ニューヨークで買った、ベロアの青い生地に刺しゅうが施されてる服。サイズ52で大きすぎるのに、買わずにはいられなくて。あのドキュメンタリー映画ではコメントを依頼されて、その仕事がすごくうれしかった。あのカップルが素敵だし、二人が暮らす家や庭も素敵なんですよね。あんな家に住みたい。それはパブリックな俳優、千葉雄大としてではなく、僕本人が住みたいです(笑)」
 では、俳優として憧れる存在は?と聞くと、出てきたのはグザヴィエ・ドランの名前。10代の頃からひりひりした人間関係を撮り続けてきたケベック出身の監督だ。情熱的でロマンティックな映画を作り、演じる人でもある。ここでも美意識は一貫している。
「グザヴィエ・ドランは作品が好きだし、彼の映画に出られたらうれしいなあ、って思う。最近の『マティアス&マキシム』(’19)もよかったんですよね。ドランが『君の名前で僕を呼んで』(’17)を観て、すぐにあれを作ったっていうところも潔い。少しでも近づくために、フランス語を勉強しようと思ってるんです」
 好きなもの、美しいと思うものに突き進むその気持ちが千葉雄大さんをどこに連れていくのか、興味は尽きない。それはきっと、思ったより速いスピードで彼だけでなく、周りの環境を変えていく、そんな予感がする。「ロマンティックは止まらない」のだから。

Profile
ちば ゆうだい●1989年3月9日、宮城県生まれ。2010年に俳優デビュー。前作に引き続き、日本語吹き替え版で主演を務める『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』が625日、沖田修一監督作『子供はわかってあげない』が820日公開予定。主演を務めるドラマ「いいね!光源氏くん し~ずん2」( NHK総合)が6月7日スタート。日本テレビ系の音楽番組「MUSIC BLOOD」にレギュラー出演中。

※この特集中、以下の表記は略号になります。YG(イエローゴールド)、WG(ホワイトゴールド)、PG(ピンクゴールド)

SOURCE:SPUR 2021年6月号「ダンディズムと、宝石と 『千葉雄大 ロマンスの騎士』」
photography: Mitsuo Okamoto styling: Tomoko Iijima hair & make-up: Yusuke Morioka〈eight peace〉 interview & text: Mari Hagihara

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