バラエティ番組をはじめ、多方面で活躍するハリセンボン・近藤春菜さん。新たなフェーズへと一歩を踏み出す今、「私は幸せ」と語る言葉とともにパーソナルな"幸せの瞬間"をビジュアル化すると……。恋愛をしても、しなくても。幸せのあり方は、いつでも自分で決めたい
Haruna Kondo
1983年、東京都生まれ。2003年、箕輪はるかとともにお笑いコンビ・ハリセンボンを結成。現在、バラエティ番組などで活躍するほか、連続テレビ小説「花子とアン」出演など女優としても活動。
比べない楽しさに気がつけば、生きていくのも楽になる
「何が幸せか」は自分で決めるものだと思う
「これ、大丈夫ですかね」
慣れないファッションシューティングに少し照れながらも春菜さんは撮影を無邪気に楽しんでいた。人のよさがにじみ出たような笑顔。どこかほっとさせられる人柄。業界内でも信頼を寄せる人が多いのはうなずける。そんな彼女が昨年、情報番組「スッキリ」で、珍しく声を荒らげて怒ったことが話題となった。アラフォー独身女子の彼女は「幸せではない」という前提で企画が作られていたことに毅然と異論を唱えたのだ。
「誰かとつき合っているから幸せって誰が決めたんですか?」「結婚してるから幸せって誰が決めたんですか?」
それは同世代を生きる女性たちの心の叫びでもあり「そのとおり!」とSNS上ではたくさんの賛同の声が上がった。
「あのときは、思わず怒りながら発言してましたね。もちろん冗談とわかっているし、つっこむ意味で言ったんですけど。私は今38歳で結婚もしていないし、子どももいない。でも、すごく幸せだと思っているので。『幸せって他人が決めるものじゃなくて、自分で決めるものじゃない?』っていう思いからあの発言になりました。そもそも結婚していれば幸せなのかといえば、必ずしもそうじゃないですよね。それなのに今の日本は幸せのかたちがあまりに固定化されていて、みんなが窮屈になっているような気がします」
もちろん春菜さんも最初から自信を持って自分の人生を肯定できたわけではない。以前は、固定観念に縛られて苦しんでいた時期もあった。
「30歳近くなったとき、自分自身は焦ってなくても『結婚はどうなの?』『おつき合いしている人はいるの?』ってよく質問されて、うんざりしたことがありました。結婚したくないとか、そういうことじゃないです。結婚も恋愛も素敵なことだと思うし、チャンスがあれば私もしたいです。でも、自分の好きな仕事をして満足してるのに、結婚というルートをはずれると幸せじゃない人生みたいな扱いになるのがすごく嫌だったんですよね。結婚して、親を安心させたいという気持ちも自分の中にあったかもしれません。うちの親は、私が芸人になりたいと言ったときも反対せずに応援してくれました。特に私、おばあちゃんっ子なんです。そして、祖母にとって私は可愛い孫。『彼氏はいない』と言っても『本当はいるんでしょ?』って信じてくれないんですよ。『おばあちゃんには嘘つかなくていいのよ』みたいな(笑)。期待に沿えなくて申し訳ない気持ちになったこともありました」
でも今はそこから突き抜け、「人は人、自分は自分」と考えられるように。
「人間、どうしても人と比べがちですけれど『比べてどうするの!?』って気づいたんです。比べない楽しさに気がつけば、みんな、生きていくのがどれだけ楽になるかなって思います」
ひとりよがりの生き方では幸せの幅を狭めてしまう
では、春菜さんはどうやってその境地に達することができたのだろか。
「悩んでいた時期に、とにかくいろいろな人に会って話を聞きました。そしてたくさん話を聞く中で、気づきがあったんですね。たとえばアパレル関係の60代の女性は、お子さんが生まれたとき、初めて自分より大切な人ができたそうです。でも、子どもが20歳になって、ひとり立ちしたとき、また自分が一番好きになったって。『自分が好きって、こんなに楽しいことないよ』って言うんです。いい意味で自分本位なら、何かを失っても悲しくないし、人との別れも『あなたはそういう選択をしたのね』と受け入れることができる。大事な人が亡くなってハグとかができなくなっても『感覚はすべて脳みそに残っているから寂しくない』って。それを聞いたとき、結局自分を愛するって、相手のこともめちゃくちゃ愛するってことなんだなと。だとしたらその人生はすごく楽しいだろうし、とてもかっこいいなって思えるようになりました」
「出会いに導かれて今がある」という春菜さん。人との関係性の中にこそ、たくさんの「幸せ」があるのだと確信している。
「人間関係の中では嫌なこともたくさん生まれますよね。人が一番傷ついたり、苦しんだりするのも人間関係だと思う。でも一方で、つらいときに支えてくれるのは人だし、笑わせてくれるのも人だし、人とかかわらなければ何も生まれないと思うんですね。ひとりで生きていたら自分の考えに凝り固まって幸せの幅を狭めることになるけれど、そこに他人の視点が加わることで、『あ、そういう考え方もあるんだ』って視野が広がっていく。自分が分厚くなっていくと思うんです」
彼女にとって、人との出会いの場は、大切な学びの場でもあるのだ。
「自分の考えなんてころころ変わるものだし、変わっていいと思います。今はコロナ禍で、会食などは難しいですけれど、人と出会わないと、自分が変われるチャンスを逃してしまうので、できるだけフットワークは軽くしようと心がけていますね。自分から心を開けば、相手も心を開いてくれるんじゃないかと信じています」
女芸人といえども嫌なものは嫌と声を上げることが大事
「子どもの頃から『可愛い』より『面白い』って言われるほうがうれしかったんですよね(笑)。そして今、ありがたいことにやりたかった仕事ができていて、夢に描いた世界にいるので、本当に自分はラッキーだと思います」
芸人としてのキャリアは早16年。最近は、女優としても活躍するなど、順調に活動の幅を広げている。
「仕事が安定してるなんて思ったことはないですね。波があるし、先が見えなくて落ち込むこともあります。だけど裏を返せば、どん底にいるときって、いいことへの助走期間でもあると思うんですよね。『今最悪っていうことは、このあと、すごくいいことがあるんじゃない?』ってポジティブに考えるようにしています」
女芸人のあり方についても未来志向だ。
「女芸人はこうあるべき、みたいなイメージは、昔からあったと思います。不幸話をするとか、モテない話をするとか、いじられて笑いをとるとか。私もそれでやってきましたけれど、その感覚では、今はもうウケないという時代の変化は、敏感に感じ取らないといけないと思います。たとえば芸人はコンプレックスが武器になる世界ではあるけれど、容姿いじりにしても言っていいラインというものがあるし、いじるのに愛情を感じなければそれはいじりとは言えないですよね。だから女芸人といえども嫌なものは嫌なんだと、声を上げることはとても大事だし、声を上げられる環境になったということは素晴らしい変化だと思います」
では、彼女の持ちネタ「○○じゃねーよ!」はアリなのだろうか。
「もちろんアリです!(笑) 私の『じゃねーよ!』の裏には、角野卓造さんしかり、マイケル・ムーアさんしかり、『あんな素晴らしい方々には到底及びません』というリスペクトがあるし、それを許してくださる方々の懐の深さに支えられているネタなんです。だから感謝しかないし、角野さんに似ているなんて光栄すぎると思いながら否定しつづけています(笑)」
最近は「徳川徳男」なるユニークなキャラクターに扮してのコントも展開。YouTubeやTikTokで発信するなど、新たな盛り上がりを見せている。さて、これから先、近藤春菜はどこを目指していくのだろう。
「今、新型コロナウイルスもあって、生きづらさを感じている人はたくさんいると思います。そういう方々に寄り添って、私を見ているときはいろんなことを忘れられて笑ってくれたら最高ですし、春菜も楽しそうに生きているからこの先大丈夫かも、なんて思っていただけたらうれしいです。もちろん恋愛もしたいですし、誰かと一緒に暮らしてもみたいですね。これまで誰かを好きになっても自分から行くことはなかったんですが、今度好きな人ができたら、自分から『好き』と言いたいです。恥ずかしげもなく、思いがあふれて、声に出てしまうような恋愛がしたい! 今年こそは何かあるような気がします……って、毎年、言っているんですけどね(笑)」
ほかほかの布団に包まれる至福
「この冬毎日湯船につかるようにしたら、それがすごく幸せで……」という春菜さん。「好きな音楽をかけたり、考え事をしたりします。お風呂上がりにはすぐスキンケアをして、髪を乾かして。その間に布団を乾燥機でほかほかに温めておいてアラームが鳴ると同時に潜り込む、という(笑)。1日を終えた自分を頑張ったねって包んでもらう感覚です。"温かい" ってすごい力だし、それに飢えてたんだな、とも思いました。仕上げにTWICEやNiziUといった推しの動画を見たりして。幸せなものを摂取して寝るときの多幸感ったらないです!」
鮮やかなパターンのセットアップで、心地よい睡眠へと誘われたい。
パジャマ(上下セット)¥368,500・サンダル¥132,000/グッチ ジャパン(グッチ) メガネ¥38,500/プライベートアイズアンドトラッカーズ(ネイティブサンズ)
笑顔でいれば、自分自身も楽しくなる
「幸せでいるために心掛けている行動や仕草は?」という質問には「よく笑うこと」と答える。「芸人になってから、笑うことを人に見られるっていう意識をし始めたかもしれません。私はへの字口だから、普通にしていたらちょっと怖く見えるみたいで。親しみやすいイメージがあるからこそ『話しかけていいですよ』という空気をさらに出すようにしています。そうすると不思議と自分も楽しくなったりして、笑顔の効果って偉大です。一緒にいる人も気構えずにいてくれるのかなとも思いますね」。撮影も、ふわりと朗らかなムードをまとって。
頰の色と呼応するような、春らしいピンクが気分。
フーディ¥203,500(予定価格)/プラダ クライアントサービス(プラダ) メガネ¥38,280/ルックスオティカジャパン カスタマーサービス(プラダ)
誰かとたくさん話す時間が幸せ
インタビューでも語ったように「人の話を聞く、人に話を聞いてもらう」ことは、春菜さんがもっとも大切にしていること。「電話も結構します。コロナ禍という状況になる前から、友達とよくビデオ通話をしていました。顔を見せ合いながら、1〜2時間とかしゃべるんです。だから、話してないことがむしろあんまりないんじゃないかというくらい(笑)」。これまで対話してきた人も数多い。「人生の先輩方と呼べる人は職業も年齢もバラバラです。『自分』をしっかりと持っている人たちに話を聞くと、その都度気づきがあるんですよね」
レトロな電話を抱えて。ピッチの細い縦縞がリズミカル。
ブラウス¥53,900/ビューティフルピープル青山店(ビューティフルピープル) パンツ¥20,900/MACH55 Ltd.(MASTER&Co.) メガネ¥55,000/アイヴァン 7285 トウキョウ(アイヴァン 7285)
ブルーは、清らかで澄んだ気持ちになれる
「幸せを感じるファッションは?」という質問への答えは、ブルーの服。「青は清潔感があってきちんとした印象もあって、着ていて気持ちいいんです。きっかけはとある占い師の方に『あなたのラッキーカラーは青よ』と言われたこと。これまでコンビのイメージとしてはるかが静、私は動だから自分は暖色だ!と思い込んでいて。それを聞いて、逆に意識しすぎていたなと。今日もブルーのコートを着てきました!」。昔からずっと好きだという、ボーイッシュでアクティブな雰囲気を体現するパンツルックで。リムの太いメガネを選び、遊び心をひとさじ。
爽やかな水色を重ねたワントーンスタイル。足もとはホワイトで知的に。
コート¥81,400/オーラリー シャツ¥19,800(トラディショナル ウェザーウェア)・靴¥42,900(トラディショナル ウェザーウェア×ビューティフルシューズ)/トラディショナル ウェザーウェア二子玉川ライズ店 パンツ¥25,300/イルイマジン ランドスケープ(アダルト オリエンテッド ローブス) メガネ¥38,500/プライベートアイズ アンドトラッカーズ(ネイティブサンズ)
SOURCE:SPUR 2021年6月号「恋をしても、しなくても 近藤春菜と幸せのかたち」
photography: Masumi Ishida styling: Sumire Hayakawa〈KiKi inc.〉 hair: HORI〈bNm〉 make-up: Nao Yoshida〈VOW-VOW〉 interview & text: Hiromi Sato