SHEROとは、他者を励まし、勇気をくれるだけでなく、時に仕事や人生にインスピレーションを与える存在。気鋭のアクティビスト、永遠のアイドル、そしてクリエイティブの偉人。3人のスタイリストが、敬愛するMY SHEROをスタイリング。彼女たちの憧れは、また誰かの新たなパワーになる
カナリアイエローの詩人 丸山佑香
言葉は大事。パンデミック以降、心底そう思うようになりました。Zoomの打ち合わせやインスタライブなど、オンラインで話す機会が増えたことで、一言一句の大切さ、短い時間の中で的確に意思を伝えることの必要性を痛感します。そんなときにアマンダ・ゴーマンのことを知りました。バイデン大統領の就任式典で詩を朗読した、あの女性です。プラダのカナリアイエローのコートと、それに負けないくらいキラキラ輝く存在感。私は詩については詳しくないけれど、みんなが耳を傾けたくなるような、そんなパワーが彼女には間違いなくある。正直、最初は「今、この時代に詩人⁉」と驚きましたが、彼女が世界を変えようとする手段が言葉なんだな、と。政治や社会的活動とファッションは、一昔前ではまるでつながらなかったけれど、彼女はすごくおしゃれでキャッチー。今年23歳、この年齢で自分の見せ方をこんなにもわかっていて、自分の生きる道をこんなにも確立している。心から尊敬するし、彼女の今後に注目していきたいと思っています。
イエローとシルバーのビジューがちりばめられたシャイニーなジャケットは、若き詩人のユニフォーム。
「華やかでキャッチーだけど品のあるファッションがアマンダの特徴。就任式のときに彼女がリングで身につけていた鳥モチーフを、ピアスで取り入れてみました」。
世界中に鮮烈な印象を残した、アマンダのカナリアイエロー。彼女を朗読者に推薦した大統領夫人ジル・バイデンが、以前アマンダが着ていたイエローを褒めたという経緯があり、その色を選んだという。ふわりと広がるドレッシーなベルテッドコートに、トレードマークのカチューシャや白い花弁のようなベルトをあしらってドラマティックかつプレイフルに。
styling: Yuuka Maruyama〈makiura office〉 photography: Hiroki Watanabe〈TRON〉 hair: KURUSHIMA〈Y’s C〉 make-up: Machiko Yano model: Gray Del Fierra cooperation: BACKGROUNDS FACTORY
いくつになってもSHERO 山本マナ
北海道の田舎町に育った私にとって、ワクワクはいつもテレビの中にありました。幼い頃の憧れはかっこいいヒーロースーツの戦隊物、学生時代はキョンキョンや吉田美和さん、YUKIさん。彼女たちのキラキラしたステージ衣装や凝ったヘアメイクを見るのがいつも楽しみで、パワフルさと強さに元気をもらっていました。まるでヒーローが変身するように、ファッションを通して夢を与えてくれる存在。それが私にとってのSHERO像そのもので、その夢を忘れられないでいるから、私はこの仕事をしています。そして今、このコロナ禍にあって、「SHEROは終わっちゃいけない」と強く思うんです。変身するって楽しいし、やっぱりファッションは夢や元気をくれる。だから仕事でも自分の私服でも、もっと服を楽しもうという気持ちになりました。いくつになっても女の人はSHEROだし、私もSHEROを追いかけ続けたい。これからもずっと、スタイリストという仕事でその夢を表現したいと思っています。
ステージ衣装みたいなスパンコールジャケットを、古着のTシャツやフリルスカートとミックス。
「クールにかっこよく、というよりどこかはずした楽しさと、少女の頃の気持ちを入れたくて。大好きなモデルのSUZIもまた、私にとってのSHEROのひとりです」。
SUZIと同じジャケットを、キッズモデルのGraceが着用。
「昔の服を今また着るのが当たり前のように、子どもの頃の気持ちは今の自分につながっている。年齢を重ねて、だんだんわかってきたことです。このつながりを表現したくて、あえて同じ方向性でスタイリングしてみました」。
styling: Mana Yamamoto photography: Masaya Tanaka〈TRON〉 hair & make-up: Hiroko Ishikawa〈eek〉 model: SUZI, Grace HILL
石岡瑛子の「私は私」 浜田英枝
同時期に開催されていた石岡瑛子さんの展覧会『血が、汗が、涙がデザインできるか』と『SURVIVE - EIKO ISHIOKA /石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか』を見て、ガツンと衝撃を受けました。スタイルや容姿が素敵だから憧れるわけではなく、「私は私」という圧倒的なSHERO観を体現していたからです。特に《あゝ原点。》というPARCOの広告には、まさに私の原点をも再確認させるインパクト満点。アートディレクターや衣装デザイナーとして活躍された石岡さんの仕事に対する熱量やパッションが作品からあふれていて、活力をもらいました。自分の感情や信念と向き合い、葛藤していくことを止めなければ次の道が開けていくということなのだと。偉大すぎるお題ですが、石岡さんをまねてもしょうがない。彼女から受け取ったエッセンスから、このふたつのコンセプトを導き出しました。ひとつは静かな夜明けを背景に"信念を曲げない強さ" を表現したモデルとメゾン マルジェラの服。この服は体の中を血液が循環する様をグラフィカルに表現しているようで、ピンときました。そして、もうひとつバケラのコレクションから2体。白と黒を背景に、造形的でダイナミックな要素が欲しくてカムフラージュ柄をチョイス。誰かとではなく、自分との精神的な闘いを鼓舞する"闘うドレス" です。
NYの新進気鋭ブランド、バケラの力強いコレクションを浜田さんはピックアップ。
「石岡さんの作品の中で、映画や舞台衣装を作っていた後期のムードをイメージ。白と黒が補完し合う、陰と陽の緊張感ある関係性を思い描きました。大胆さのぶつかり合いのような今季のバケラはまさにぴったり」。
「石岡さんは海を官能的なものと捉えていたようです。このドレスはタンゴを着想源に、互いの直感と信頼が不可欠なダンスの情熱と協調を表現しています。幻想的でパッションのあるアイテムです。遊び心のあるエロスというか、まだ切り開いていきたいという色気や生命力をこのドレスの表現に見いだしました」。
SOURCE:SPUR 2021年6月号「愛と尊敬を込めてプレゼンテーション スタイリストのMY SHERO」
styling: Fusae Hamada photography: Bungo Tsuchiya〈TRON〉 hair: Koichi Nishimura〈VOW-VOW〉 make-up: Masayo Tsuda〈mod’s hair〉 model: MANAMI edit: Michino Ogura