ゲストデザイナーとのコラボレーションに、サステイナブルな手法での表現方法。それぞれの形でクチュールの新時代を築く4メゾンの珠玉のルックを撮りおろし。デザイナーたちに現代での意義もインタビュー。
※オートクチュールは注文制のため価格は非表示です。
JEAN PAUL GAULTIER × SACAI by Chitose Abe
ジャンポール・ゴルチエの1994年のプレタポルテ・コレクションから着想を得たルック。「ヴィンテージ・デニムをリメイクしコレクションに使うことは、当時とても画期的でした」と阿部。このルックでは前から見るとストレートなシルエットのデニムのセットアップ、後ろ姿は19世紀風バッスル・スカート。スカートの内側には幾重にもオーガンジーのフリルが縫いつけられ、フープでボリュームを出している。まさに、ストリートとクチュールが融合したゴルチエ・スタイルを、モダンに仕上げた一着だ。
ドレス・ブーツ/Jean Paul Gaultier
ジャンポール・ゴルチエの象徴的なモチーフから阿部が迷わず選んだもののひとつが、ゴルチエ自身のユニフォームでもあるボーダーだ。ただしTシャツ風ではなくシルクサテンで、スレンダーなシルエットで取り入れて。そこにテープ状にカットした切りっぱなしのサテンやチュールが翻るタータンチェックのスカートとつなぎ合わせ、ハイブリッドなドレスが完成した。
2020年1月にフェアウェル・ショーとともに引退を宣言したジャン=ポール・ゴルチエが、毎年異なるゲストデザイナーを招いてのクチュール復活を告知したのは、翌年のこと。その第一弾が、阿部千登勢とのコラボレーションだ。
「私が20代のときに見た彼のアイコニックなルックの数々が頭の中にあり、お話をもらった当初からたくさんのアイデアが浮かびました。オートクチュール独特のルールに当初は疑問を持っていましたが、実際に始めてみて実感したのは、メゾンのヘリテージを残していく素晴らしさ。クリエーションの過程や物作りに対する考え方は、プレタポルテとはまったく違いますね。しかも量産する必要がないので究極のサステイナブルだと思いました」
阿部千登勢●数社でパタンナーを務めた後、1999年に「サカイ」を設立。ウィメンズに続きジュエリーやメンズも展開をスタート。約10年前からコレクション発表の場をパリに移し、国際的に注目を集めている。
CHARLES DE VILMORIN by Charles de Vilmorin
ビーズのフリンジに縁取られたトップスは実は極端に長い、スカーフ状の布。これを首から腰まで、自由に巻きつけて。トップスと同じくタフタで仕上げたスカートの裾にはシルクのプリーツ。「今シーズンの他のルックのデザインがはっきりとして構築的なのとは対照的に、混沌として、漠然としたシルエットを作りたかった」と、シャルルは語る。スカートも実はとても長いリボンを腰で結ぶエプロン状。着る人が自由に解釈できるピースをあえてクチュールで提案するのは、新世代のデザイナーならでは。
アートピース/CHARLES DE VILMORIN その他/スタッフ私物
帽子でもトップスでもない、かぶり物。綿入りのタフタで仕立てた円錐形の表面には、顔が刺しゅうされている。アイラッシュに見立てたのは、雄鶏の羽根だ。「怪物の顔を作ったのは、僕の世界観に近いストーリー性のある一点を、というアイデアから。インパクトがあり、まるで彫刻のような何かを作りたくて」と、シャルル。奇妙で、ちょっと怖さもあるけれどどこかユーモラスなシャルルの作風が、ここでは顕著だ。
色が炸裂し、遊び心のあるデビュー作で、昨年モード界の話題をさらったシャルル・ド・ヴィルモラン。最新コレクションは、これまでとは打って変わって、オンリー・ブラックで構成されている。
「このコレクションは、強く神秘的な、戦う女性を物語っています。これまでよりダークでよりドラマティック。オートクチュールはプレタポルテとは目的が違い、感受性が高い人々に夢を与え、ストーリーを語り、普通とは違う提案をする手段なのです。これまで以上にオートクチュールは、今日僕たちが抗うべきこと、闘うべきことに直面したとき、支えになると信じています。そして、"闘い"に向き合うことによって、よりよい未来につながっていくのだと思います」
シャルル・ド・ヴィルモラン●24歳。ファッションを学んだのは、パリのオートクチュール協会の学校にて。2020年秋、オンラインで初のクチュール・コレクションを発表。この秋からは、フランスの老舗ロシャスも手がける。
RVDK by Ronald van der Kemp
「これは、私たちを取り巻く世界について考えよ、と警鐘を鳴らすルック。さまざまな生物が共存する野生の自然の中でまとうと、まるでカメレオンのように背景に溶け込みます。正方形にカットしたシルクのプリント地を構築的な形のジャケットに手作業で縫いつける新しいボンディング・テクニックを取り入れています。傘も同柄の素材で仕立てました」と、ロナルド。環境問題に取り組む彼の姿勢を、素材面とビジュアル面の両方で表現した、アイコニックなアイテムだ。
コートドレス/RVDK
まるでビッグバードのようなドレスにも、彼の自然への思いが込められている。残り生地のオーガンジーとジョーゼットを手作業でカットし、"羽根"状に。それをシルクタフタのオペラ・コートにハンドメイドで縫いつけました」。クチュールでしかできないクラフツマンシップを極めたドレスながら、強調された肩のラインが、コンテンポラリーで力強いムードを演出している。
「クチュールは、人々をインスパイアするもの!また、タイムレスで永遠に大切にできるもの。それは着る人の一部となり、パーソナリティを引き出します。私のコレクションではそれぞれのルックが、それ自体で完結しています。とてもパーソナルで、唯一無二のクリエーションなのです」。
情熱的なロナルド・ヴァン・デル・ケンプは、自身の物作りをこう語る。彼は早くからサステイナブルなアプローチを提唱するだけでなく、人道的、倫理的な活動にも積極的。つまりオピニオン・リーダーでもある。昨年のコロナ禍では、ドレスとマッチングしたオートクチュールのマスクを発表し、後日難民援助のためにそれらをオークションにかけて資金を集めた。
ロナルド・ヴァン・デル・ケンプ●拠点はアムステルダム。25年以上もビル・ブラスやギ・ラロッシュなどでデザイナーを務めた後、2014年に世界初のサステイナブルなクチュール・メゾンを設立した。
SCHIAPARELLI by Daniel Roseberry
メゾンに象徴的なテーマがシュールレアリスムであることから、目はアイコニックなモチーフのひとつ。ウェアに、小物に、と毎シーズン形を変えて、目は各所に取り入れられる。この大ぶりのイヤリングのベースは、金箔コーティングを施した真鍮。ブルーの瞳と、下部のピンクのアイラッシュは、ラッカー塗り。上部のアイラッシュにはブルーのしずく形の装飾を加えた。最下部で涙形のモチーフが揺れ、ドラマチックな表情を生む。
マタドール風ジャケット・パンツ ボディスーツ・帽子/Schiaparelli
中に着たボディスーツには右側に乳房形の立体モチーフ、左側にはフリンジが。製作に800時間を要したという構築的なジャケットは胸の部分が丸くくりぬかれ、2枚を重ねることでシルエットが完成するなんともシュールな二重構造。刺しゅうに使用されている素材は、エルザ・スキャパレリ自身が使っていたものだとか。「シルクの糸、ガラスビーズ、ゴールドラメ、クリスタル……。私たちは刺しゅう工房ルサージュのアーカイブスで、100年以上も前のオリジナルの刺しゅう見本に使われた素材を見つけたのです」と、ダニエル。ヘリテージをモダンに料理すること。それこそがクチュールの醍醐味と言えるだろう。
「オートクチュールはいわば、ファッションにおける"創造性の守護者"。今日、ファッションは"商業化"、"産業化"の方向に進んでいます。大きな創造的リスクを負う機会は、どんどん減っているのです。そんな中クチュールのおかげで、顧客もデザイナーも、"産業"というシステムから逃れ、ソウルフルで意義のあることへと向かっていけるのです」。ダニエル・ローズベリーの言葉はいつも哲学的だ。大手メゾンとは異なり、スキャパレリではプレタポルテを極力小規模に抑えてクチュールをメインとしているから、その意義や顧客との密な関係を語るのに適役のダニエル。彼と言葉を交わすたびに、クチュールへの慎重な取り組みが感じられる。
ダニエル・ローズベリー●テキサス出身。トム・ブラウンで10年間、メンズとウィメンズのヘッドデザイナーを務めた後、2年前より、1927年創業のクチュール・メゾン、スキャパレリのアーティスティック・ディレクターに。
SOURCE:SPUR 2021年12月号「次世代オートクチュールの幕が開ける」
photography: Laure Bernard realisation & text: Minako Norimatsu hair: Christos Vourlis make-up: Ai Cho model: Deila Deidei, Melyssa Dzomo Nkongo