ANNA SUI●デトロイト生まれ。パーソンズ美術大学でファッション・デザインを学び、1991年にコレクションデビュー。ロックのリズム感あふれる万華鏡のような世界観は唯一無二。アメリカを代表するデザイナーとして、高く評価されている。BATSHEVA HAY●ニューヨーク生まれ。デザイナーになる前は、弁護士として活躍。着たい服は自分で作るしかないと、5年前に自身のブランドを設立。ヴィクトリアンをはじめとするヴィンテージムードのドレスが注目され、一躍人気ブランドに。
B あなたはコレクションごとにきちんとムードボードを作って製作していくでしょ。私にはできないわ。あなたのアトリエはすべてがオーガナイズされていて、何がどこにあるのかすぐにわかるようになっている。私はいつもごった煮状態。それに、大成したデザイナーの中にはエゴの強い人がいるけれど、あなたは本当にエゴのない人。一緒に仕事をしてすごく新鮮だったの。私はデビューしてまだ5年目で、経験不足だから、あなたがファッションやビジネスの経験を惜しげもなく教えてくれて本当に感謝しているし、うれしい。
A 私はあなたから今の時代のビジネスやマーケティング、インスタグラムの活用法とか、いろいろなノウハウを教えてもらっているからお互いさまよ。だってファッション・ビジネスは時代とともに変化をしていて、今までと同じやり方では追いつかない。あなたを見ているとすごくリフレッシュされるの。というのは、今の時代のつかみ方がわかるというか、新しい世代が求めているものがわかるようになる。
B 今の若い人たちは、ファッションでも何でも、何か限定的なものを少しだけ提供されるのが好きだと思う。だから今回も期間限定で少数にしている。
A まさに新しい形のエキサイトメントだと思う。すべてが限定ということは、買い逃がしてしまったらおしまい。でも今の時代には合っている。
B ところで、私たちの服はパーソナルスタイルから生まれているでしょ? 今の風潮だと、いろいろなボディタイプの人に幅広く愛される服作りが大切と言われるけれど、私は自分が着たいものしか作れない。
A 私もそうよ。自分が作ったものが着たい。着たいから作る。
B あなたの服の魅力は見栄をはったところがなくて、明るく楽しいところ。ちょっと風変わりなところがあるのだけど、それがたまらなく魅力的。ソフトな感じが必ずある。
A そう言ってもらえるとうれしいわ。 私はね、着心地が一番だと思うの。精神的にも肉体的にも締めつけられるのは嫌だし、特に今は必要以上に作りすぎた服は着たくない。あなたの服を見ていると、服に求められる新しさとは何なのだろう?って、考えさせられるの。これまで言われてきた「新しい」という感覚ではないもの。ヴィンテージっぽくてクラシックな印象だけど想定外だったところにある気がする。つまり想定外が新しい、というか。
B 確かに、そうかもしれない。ヴィンテージが好きだけど、着てみてウエストの位置がおかしい、フリルがつきすぎているとか、細かなところを自分で修正していたから、それが今の服作りにつながっている。服のイメージも子どもの頃のドレスの記憶だったりして。自分のために夢のドレスを作っている、という感じかな。
A 私たちの共通点はまだあるわ。年齢に関係ない服作りをしていること。よくどんな女性に向けて服を作っているかと聞かれるけれど、私はいつも年齢ではなく着る人のスピリットが大切、と答えている。ヴィンテージ・ファッションを愛して着飾るのが大好きな人たち。私たちの服は大衆的じゃないけれど、お金をちょっとセーブして、きれいな柄やディテールが気に入って、目あての服を買う人たち。今回の服はいつものアナとちょっと違う、でも好き、と言ってもらいたい。
B ファッションは年齢ではなく、その人の心に響いたら着ればいい。
A ファッションには、自身のパーソナリティを見せたり、意思を表現したりする役割がある。言葉と同じように。
B そして人間の一番外側の皮膚なのね。また、人柄や職業を表すものだと思うし、気持ちを引き締めたり、気分を爽快にしたりもする。
A 毎日の暮らしのモチベーションになるってことね。私は寝る前に、「明日は何を着ようかな?」って考えるのが好き。ワクワクしてくるから。
B 実は、昔はファッションの大切さを考えたことがなかったの。デザイナーになる前は弁護士だったから。ファッションに何の意味があるの?もっと重要なことがあるでしょう?みたいに思っていた。でも今は、ファッションは人々の日々の暮らしに必要なベーシックだと考えるようになった。ファッションは私のアイデンティティを表す重要なもので、その時々の自分の内面のムードづくりをするのに欠かせないものだということを知ったわ。