2022.01.20

音楽視点で"聴く"ランウェイ【2022 S/S WORLD COLLECTION】

誌上でとことんディグり隊! 話そう、ランウェイ新世界

リアルでのショーも増え、活気が復活した2022年春夏ワールドコレクション。メゾンのインスピレーション源や、オフランウェイの生の声、アジアのフレッシュな才能――。ニッチな
切り口で、とことん掘り下げれば、新時代のモードのあり方が見えてくる。



音楽視点で"聴く"ランウェイ

ショーの世界観を形作るランウェイミュージック。音楽に精通する2組がその多様な表現を分析する。

ミュージシャンの耳とモデルの目で、モードと音楽の関係を探る

by 樋口可弥子&若林 純(お風呂でピーナッツ)
ひぐち かやこ&わかばやし じゅん●神奈川県出身。高校在学 中、「お風呂でピーナッツ」を結成。ジャズやR&Bの影響を消 化したデビューEP『スーパー銭湯』を2021年7月にリリース。

お風呂でピーナッツは、今季もヨーロッパで数々のランウェイを歩いたモデルの樋口可弥子さんと、音楽プロデューサー/ギタリストである若林純さんのデュオ。初めてショーの音楽を意識したという若林さんと「ランウェイでは音楽を聴くとスイッチが入る」と語る樋口さんがともに着目したブランドのひとつは、全編でデュア・リパのヒット曲を使い、彼女がモデルも務めたヴェルサーチェだ。
「若者層に、あのゴージャスなイメージをイケてる感じで継承していくのは難しい。そこでデュアを前面に押し出したわけですから、ブランディングに長けています」(樋口さん)。

同じくトム フォードもヒット曲の数々を、ひとひねり加えてちりばめた。「スティービー・ワンダーなどの有名な曲を選び、ラップを乗せてマッシュアップしていて、見事にハマっていました」(若林さん)。

樋口さん自身が出演し、プレゼンテーション形式をとったバーバリーにも賞賛を寄せる。「環境音を巧みに用いていて、無音の時間も多く、異空間のような映像ならではの表現ですね」(若林さん)。
「収録中はクラブの場面に使われた曲が終始鳴っていただけに、意外な仕上がりでした。音楽とファッションともにリカルド・ティッシの見せ方はすごく多面的で、毎回驚かされます」(樋口さん)

1 60~70年代のソウルと90年代以降のヒップホップをマッシュアップしたファンキーなサウンドは高揚感あるネオンカラーに似合う

2 フロアに響くヒールの音や鳥のさえずりといった環境音が効果的に配置され、想像力をかき立てる。ケニア人プロデューサー、スリックバックの曲「Ascension」のインパクトも絶大

3 80年代のサウンドをモダンにアップデートした、デュア・リパの世界的大ヒット・アルバム『Future Nostalgia』の収録曲は、グラマラスなスタイルと同調

♪REMIX (We Can Work It Out /Stevie Wonder &That Thing /Lauryn Hill)ほか

♪Ascension /Slikback

♪Hallucinate /Dua Lipaほか



新しいフォーマットに進化の可能性を見出す

by Licaxxx(DJ)
りかっくす●1991年、東京都出身。2010年にDJをスタートし、海外を含め多数のクラブイベントやフェスに出演。国内ブランドのショー音楽も手がける。

「全体的にフィジカルなショーよりプレゼンテーション形式のほうが面白い試みがあったように思います」と今シーズンを総括するのは、DJのLicaxxxさんだ。
「たとえばメゾン マルジェラは、映像を見ていると、両サイドから全然違う曲が聴こえたり、音を動かして遊んでいたんです。エンジニアリングの面ですごく凝っていて、曲もコラージュ的に作り込んでいました」。

ランウェイショーでは、実験的エレクトロニック音楽でまとめたプラダと、映画『ブレードランナー』(’82)の「愛のテーマ」で幕を切ったシャネルに注目したという。
「プラダは毎回統一感のある選曲で世界観を強く打ち出していますし、共同クリエイティブ・ディレクターになったラフ・シモンズのテクノ好きという嗜好が引き継がれていますね。そして『ブレードランナー』のサントラは過去にも多くのブランドが繰り返し使っていますが、いかにもパリ!という華やかな選曲が多いシャネルでは意外性がありました」。

またLicaxxxさん自身が音楽を手がけたYOSHIOKUBOのショーでは、デザイナーの希望もあり観客にヘッドホンを提供。立体感を醸すバイノーラル録音という手法で曲を制作したとか。「今ではフィジカル形式でもプレゼンテーションのような面白さが求められている気がします。技術も進化する中で、ポジティブな傾向ですね」

4 コロナ禍を受けて招待者数を絞ったことで、ヘッドホンを提供するという試みが可能に

5 コレクションがはらむエネルギーを映す、粗削りなロックを柱にした音楽は、映像作家でもあるオルヴォン・ヤコブが構築

6 Seduction, Stripped Down(そぎ落とされた誘惑)"というテーマに、センシュアルな女性ボーカルを組み合わせた

7 映画『ブレードランナー』(’82)のサントラのノスタルジックな響きが、今シーズンのインスピレーション源である80年代の気分を醸す

♪Dangerous Man /Elliot Dahanほか

♪Misericord /Insidesほか

♪Love Theme 『Blade Runner』OSTほか

SOURCE:SPUR 2022年3月号「話そう、ランウェイ新世界」

photography: AFLO interview & text: Hiroko Shintani

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