アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」の主役・空条徐倫を演じる、声優・ファイルーズあいが登場。役者を志すきっかけとなった「ジョジョ」シリーズに念願かなって、参加することになった彼女。どんな苦境に立たされても決して諦めず、強くてしなやかな精神を宿す徐倫のスタイルにオマージュを捧げて。新時代を切り拓くパワフルなふたりの共通点を探る冒険の旅に、いざ出発!
ファイルーズあい 戦う彼女は、星を見る
30年以上も連載が続く『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズにあって、第6部「ストーンオーシャン」はひときわ異彩を放つ存在だ。その特徴は、主要キャラクターの多くが女性であり、彼女らが全力で"どつき合い"を展開するところにある。作者の荒木飛呂彦にとって念願だった「タフな女の子」を描くこの物語は、声優のファイルーズあいにとっても長年の夢であった。
「私が声優を目指したきっかけとなったのが『ジョジョの奇妙な冒険』。中でも『ストーンオーシャン』の主人公・空条徐倫は一番の憧れでした。でも、演じたいと思っていたのは、"徐倫を助ける役"だったんです。それがまさか徐倫本人なんて! 最初は恐れ多すぎて口をパクパクさせてしまいました」
そんな徐倫との出合いは些細な勘違いが契機だったという。
「中学1年生くらいのときですね。当時からインターネットをよく見ていたので、『オラオラオラオラ!!』とか『無駄無駄無駄無駄』とか、そういうジョジョ由来のネットスラングは知っていたんです。その元ネタを調べたのがきっかけですね」
さっそく書店に行くと、たくさんの単行本が並んでいた。その中で1巻だとおぼしきものを手に取り、買って帰ったのだが、なにを隠そうそれが「ストーンオーシャン」の第1巻だったのだ。
「『ジョジョの奇妙な冒険』って『ストーンオーシャン』で一度巻数がリセットされているんですよね。だから、てっきりシリーズ全体の最初の1巻だと思って買ってしまったんです」
なにも知らなかった中学生の心をわしづかみにした徐倫の魅力
『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズには読むにあたって、"スタンド"という概念や、主人公一族であるジョースター家にまつわる歴史的背景など、共有しておくべき設定がある。これまでのジョースター家と、宿敵・DIOとの因縁が集約される第6部を、「ジョジョ」ワールド未経験の中学生がいきなり読むのは、なかなかに困難だったことだろう。
「読み始めた当初はストーリーをまだ深く理解できていなかったと思います。それでも、この徐倫という女の子が力強くて、出合ったことのない魅力的なキャラクターであると体感できた。彼女のことをもっと知りたいと思って、お小遣いを貯めて、改めて第1部の1巻から買い始めたんですよね」
「ストーンオーシャン」の物語の冒頭では、監獄に囚われた徐倫が男の看守に自慰行為を見られたと嘆く場面。他に類を見ないインパクトがありすぎる登場シーンだ。「初登場シーンは本当に衝撃的ですよね。『なんなんだこの子は、すごい!』と、当時度肝を抜かれました」
読み進めると徐倫の置かれた状況が明らかになる。どうやら無実の罪で刑務所に収容されているようなのだ。
「自分とそう大きく年が変わらない女の子が、この過酷な状況にどうやって立ち向かっていくんだろう、『自分だったらどうしよう?』って考えました。でも彼女の行動すべてが、自分の想像を軽々と上回ってくる。強くて逞しいんですよね」
徐倫はファイルーズがそれまでの人生で触れてきた、どんな作品におけるヒロイン像とも異なっていたのだ。
「フィクションにおける多くの女の子のキャラクターの役割や性格は、清楚だったり、誰かに守られる側だったり。あまりアップデートされていない部分がまだたくさんありますよね。でも徐倫は違いました。しっかりと自立している点にすごく惹かれたんです」
荒木飛呂彦は長きにわたって少年誌を舞台に描き続けてきた作家だが、その作品には時に「少年マンガ」の枠を超えた女性キャラクターが登場する。ファイルーズには徐倫以外にも印象に残る登場人物がシリーズ内に多く存在するのだ。
「ホット・パンツ(第7部)とかトリッシュ・ウナ(第5部)とか杉本鈴美(第4部)とかが好き。もうキリがないです!それぞれの魅力を語るとまた止まらなくなっちゃうんですけど(笑)。共通しているのは、自我を持っているところ。周囲に流されず、常識なんてお構いなしに己の魅力を発揮して、自分らしく在ることに全力を注いでいる。凛としたその姿に胸を打たれました」
自信と、品格。「ジョジョ」のファッションが与えてくれたもの
現実世界でそんなスタンスを貫き通すのは至難の業。ファッションにおいても、突き当たる世間の壁がある。
「少しでも目立つ服装をすると、周囲の人々に理解されなかったり、悪意をもって笑われてしまうことがありますよね。そんなときは、自分らしく生きている『ジョジョ』の女性キャラクターたちのことを思い出すと、自信が持てるようになるんです」
そもそもファイルーズがファッションに目覚めたのも「ジョジョ」。しかもこの「ストーンオーシャン」がきっかけだった。
「高校生くらいまでは服装に対して無頓着で、"ブランドのものなんて高いだけでしょ"って思っていたんです。でも、『ストーンオーシャン』のキャラクターたちの名前の着想源がファッションブランドだと聞いて。やっぱり『ジョジョ』のことは、なんでも知りたいのでよく調べると、ただ"高いだけ"と思ってたのは、浅い考えだったことを痛感しました。堂々と衣装を身にまとうモデルさんの姿を見たときに、ファッションが持つ力を実感しましたし、装うことがよりいっそう好きになりました。そんな自分があったからこそ、今回の撮影のようなお話につながったのかな。『ジョジョ』に導かれて生きていると思います」
この撮影のテーマは作中の徐倫の名台詞、「もちろんあたしは星を見るわ…」に基づいている。過酷な状況にあっても、希望を見出し、突破しようとする徐倫の「強さ」を表現した。
「服を着て、メイクアップして、髪型をセットすることで、強い気持ちになれました。"服"というか、もはや"鎧"。ファッションって品はもちろん、タフな心も手に入れられると思うんです」
エネルギッシュで好奇心旺盛なファイルーズだが、念願かなって、この役が決まった後には、役作りに悩むこともあったという。
「私を選んでくださったスタッフさんたちは、私ならできる、成長の余地があると思って選んでくれたので、私なりの徐倫を力強く見せることが大事。徐倫と一緒に成長していくことが重要だと、改めて決意しました。役者としてというか、もう生き方で"スゴ味"を見せられるように……ッ! あ、いや、『ジョジョ』の作中に"スゴ味"って言葉があるんですよ(笑)」
日常生活でも「ジョジョ」の名台詞を多用し、「人生でここまで心を揺さぶられた作品はない」と断言するファイルーズ。アニメ本編で、彼女が演じる徐倫の"スゴ味"を堪能したい。
「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」
『ジョジョの奇妙な冒険』の第6部にして、2012年から始まったアニメシリーズの第5弾。シリーズ中でも異色の設定で、熱烈なファンも多い。昨年の12月よりNetflixで先行配信され、話題となっている。
©LUCKY LANDCOMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険 SO 製作委員会