栗原たお氏が語る、新生tao
Profile
栗原たおさん
ロンドンのセントラル・セント・マーチンズを卒業後、1998年よりコム デ ギャルソン社に入社。2002年渡辺淳弥氏から引き継ぎ、トリコ・コム デ ギャルソンのデザイナーに就任。以来、同ブランドを担当。
自分らしい表現をするための「タオ」としてのリスタート
40年以上の歴史を持つトリコ・コム デ ギャルソンが名前を変え、新たなスタートを切る。ブランド名はタオ。同ブランドを手がけてきたデザイナー栗原たおさんの名前を冠し、社名のコム デ ギャルソンを取り去った形だ。
「長く経験を重ねてきたことで、そろそろ自分のブランドとしての色を濃く打ち出していかなくてはいけない。前回のトリコのコレクションを終えた頃から考えていました。その気持ちを強く、クリアに表現するためには、名前を変えるのがいいと思いました。」
改名に至った理由をこう語った栗原さんは、トリコと兼任して2005年に自身の名前の入ったタオ・コム デ ギャルソンを立ち上げパリ・コレクションで発表していたが、2011年に終了。その後はトリコの制作に専念していた。
「タオ・コム デ ギャルソンはパリでイメージを凝縮させたコレクションとして表現していましたし、トリコ・コム デ ギャルソンはより幅広いお客さまに向けて洋服を作っていく"大きなブランド"という意識がありました。次のタオというのは、トリコの規模感を保ちつつ自分の色が強く出るものと捉えていて。手がけてきたブランドの地続きにはあるものの、新しい存在であり、新しい挑戦とも言えます。」
始まりを飾る2022年春夏コレクションのテーマは"MY WHITE"。プレス向けの資料に記された「タオらしさをさまざまな"白"で表現しました」という言葉どおり、クリーンなホワイトからオフホワイト、アイボリーといったさまざまな白で彩られたルックが発表された。
「ブランド名が変わってタオらしい表現を、トリコとは違う形で発信していかなくてはいけないと考えたとき、自然と白という色が浮かび上がってきました。もともと自分らしい見せ方ができる色という思いもあって、白を軸にいろいろな表現ができたら、と早い段階でスッと決まりました。」
ショーではギャザーやフリル、ラッフルをふんだんに用いたボリュームのあるシルエット、可憐な花柄のプリントや繊細なチュール、ひと目見れば心躍る愛らしさが詰まった世界観で観客を魅了。ベーシックなワードローブが豊富だったトリコ・コム デ ギャルソンとは違う、栗原さんらしいブランドのカラーを私たちに印象づけた。
「トリコで培ってきた"着やすさ"を意識しながらも、今回のコレクションではよりデザイン性を追求した表現も行なっています。着やすさと見た目の美しさが調和したアイテムがあり、見せたいものに集中して作ったアイテムもある。全体でバランスを取りながら、一元的ではない奥行きのある白の世界を作り上げていきました。」
ふたつの対話から生まれる、栗原たおさんのクリエーション
インタビューを進める中で、栗原さんのクリエーションは"ふたつの対話"の先に生まれることがわかった。ひとつめは服づくりをともにする”他者との対話”。チームとしてスタッフを擁するが、栗原さんは生地づくりや刺しゅうを担う協力者のもとへ実際に足を運び、直接話をする。ほかの誰かに任せることなく、自分自身で行うことを重視している。
「自分で伝える、自分で聞くことは、やはり大事だと思います。刺しゅうや生地を製作する現場におじゃますると秘密基地をのぞかせてもらうようで気分が高揚しますし、みなさんと話が弾んでいく中で大きなエネルギーが生まれるのを感じます。いいお話ができた日は興奮して寝られない、なんてこともあります。そしてタオのコレクションを作る中で日本の技術の素晴らしさを改めて感じたので、これからも一緒に発信していきたいと思っています。」
日本の技術を守り、広げたい。そう語り他者とのコミュニケーションを尊重する栗原さんだが、一方でそのクリエーションのスタート地点には必ず"自分自身との対話"がある。ある作品に着想を得る、社会や顧客の声を聞く、デザインにはさまざまな始まりがあるが、そのどれでもない。自分の内面から生まれてくるものを形にしていく。
「日々の積み重ねで感じることがいっぱいあって、特にこれというものがあるのではなく、少しずつ積み上がってきたものが最後の最後でまとまるという作り方で。制作過程でどちらが好き?といった投げかけはありますが、深いところは自分で決めないと進まない。これからはタオとして発信していくので、より自分が欲しいと考えるものをアウトプットしていかなくちゃいけないと思っています。」
それはとてもシンプルで、同時にとてもストイックな方法に思える。ひたすら自分と対話し、自分らしい表現を追求する原動力はどこからくるのか。
「川久保(玲)のモノづくりをずっと見ていますから。発表されたものを見ていつも美しいと思う、そしてそれまで持っていた"美しい"という概念が壊される。そこに刺激を受けます。同じやり方はできないですがついていきたい、その一心かもしれないです。」
これからも自分らしさは何かを問いかけながら服づくりを続けていくという。栗原さんの思いが詰まったコレクションは、2月より店頭に並んでいく。
「毎日の中で、おしゃれをするとか洋服を着て楽しむってすごく大事なこと。自分の表現のひとつなので。そこの部分で共感していただけたらうれしいなという気持ちで作っています。」