2022.02.21

アルベール・エルバスに愛を込めて Love Brings Love

2021年4月に他界した、アルベール・エルバス。デザイナーとしての彼の偉業と、愛に尽きるその人生哲学を、追悼ショーと数々の証言を通じて振り返る。そして、彼の新ブランドAZ Factoryの未来を見つめたい

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美しく、かつハートウォーミング。アルベール・エルバスの世界観にSPURは夢中でした。2006年、来日したアルベールと当時人気の"忍者レストラン"で意気投合。取材が終わったあと、もっと話そうとおしゃべりが盛り上がりました。日本の若者の服装や旬なスポットなど、止まない会話はこちらが逆取材を受けているかのよう。チャーミングでありながら知性にあふれる彼だからこそ、思想のある服を届けてくれたのだと感謝の念に堪えません。ご冥福をお祈りいたします。
SPUR編集部

 

Profile
アルベール・エルバス
1961年モロッコ生まれ。イスラエル・テルアビブで育つ。同市郊外のシェンカー・カレッジでファッションを学び、後にNYへ移住。ジェフリー・ビーンに師事。1996年にパリに移り、ギ・ラロッシュ、イヴ・サンローランのデザイナーを務めた。2001年から14年間はランバンのアーティスティック・ディレクター。2021年1月に自身のブランドAZ Factoryをローンチ後、同年4月24日に新型コロナウイルス感染症が原因で他界。の言葉は彼の愛とユーモアを感じる名言の一部。

photography: Alex Koo 

 

初公開写真と秘話で綴る、アルベール・エルバスの素顔

早くもデザイナーとしての才能を見せた幼少期から、キャリアの初期、そしてAZ Factoryの立ち上げまで。元パートナーのアレックス・クーが語る

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1 アレックス・クー(右)とアルベール・エルバス。1993年、ふたりが出会った直後の思い出の写真。ニューヨークにて
2 ジェフリー ビーンでのデザイン画

「僕たちは28年も公私を共にしたんです。アルベールは僕の家族、腹心の友。僕のすべてでした」

アレックス・クーがアルベール・エルバスの作品を知ったのは、1991年のこと。ソウルに生まれ育った彼は当時NYに移り住み、バーニーズのアシスタント・バイヤーとしてキャリアをスタートしたばかり。仕事で出向いたジェフリー ビーンのショールームで、あるドレスにひと目惚れした。「シンプルな黒のジャージに、透明のチューブのホルターネック。そのモダンさに感銘を受けました」。ドレスの作者は、他でもないアルベール。NYに渡り、ウェディングドレスのアトリエで働きながらハイファッションの職を探していたアルベールがビーンの右腕となって、約2年がたっていた頃だ。

ふたりが実際に会ったのは、さらにその1年半後。以来離れることはなく、3年後にアルベールがギ・ラロッシュに抜擢された際は、アレックスも一緒にパリへ。その後、イヴ・サンローラン、クリツィアを経て2001年にアルベールのランバンへの起用が決まると、アレックスはメゾンでのマーチャンダイジングを務めるようになった。

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3 勤勉だった、幼少期のアルベール
4 2016年の世界旅行の際、サンフランシスコ近郊にあるローレン・パウエル・ジョブズ(スティーヴ・ジョブズの妻)のオフィスにて。その場で撮ったツーショットを、大型プリンターで出力してもらった
5 小学生の頃に描いたスケッチ

女性たちへの愛を育み、絵の才能を見せた子ども時代

さて、アルベールはどんな子どもだったのか? 「彼は喘息持ちで、屋外での活動ができなかったと聞いています」。彼の家族もよく知るアレックスならではの逸話は続く。「だから、放課後は家で過ごすことが多く、チェスの駒に服を作って着せていたとか」

これはまさに、追悼ショーの着想源となった「モードの劇場」に共通するものがある。詳細はページ下部、オマージュ・ショーの舞台裏に譲ろう。また母親が画家だったことから、小さな頃から絵の才能を見せていた。

「学校の先生を描写したり、またはイヴニングドレスを想像して描いたり。学期末にはこれらのスケッチを先生たちにプレゼント。周りの女性たちをとても大切にしていたそうです。母親はもちろん、姉妹たち、数人の叔母、そして看護婦など、女性たちに囲まれていましたから」。そして万人に愛されていたというアルベール。「彼は生まれつき、コミュニケーションの天才。ビジネスマンからタクシーの運転手まで、誰とでも気軽に話し、笑わせ、楽しませていました。とても人間らしく地に足がついていて、表裏がない。だから、ジャーナリストたちからも人気があったんでしょうね」

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6 1998年、マラケシュにて。イヴ・サンローランのデザイナーに就任したばかりのアルベールが、インスピレーションを求めてサンローラン氏が愛した地を訪ねた旅に、アレックスも同行
7 アルベールのシグネチャー、黒縁メガネとボウタイ。手前は2016年にフランスの文化相から授かった、レジオン・ドヌール勲章オフィシエのバッジ。さまざまな分野でフランスに貢献した人に与えられる、国家功労勲章だ

新プロジェクトへの開眼、ふたりでの世界旅行

アレックスはもちろん、AZ Factory立ち上げの証人でもある。
「ランバンを辞めた翌年、僕たちは1カ月かけて世界中を旅しました。中でも衝撃的だったのが、シリコン・バレー」。元ランバンのCEOで、当時アップル社のヴァイスプレジデントだったポール・ドヌーヴ氏が、アルベールのためにハイテクの要人たちを集めたディナーを開いたのだ。「『僕は単なるファッション・デザイナーだけどこんなにスマートな人々に囲まれるなんて』と、アルベールはとてもナーバスでした。でも彼は持ち前の好奇心で、とにかく貪欲なまでに新しいことを知ろうとしましたね。彼自身デジタルの技術には精通していないけれど、それは問題ではなかった。人と人をつなぐ、というデジタルの役割に目覚めて、これをファッションに生かすにはどうしたらいいか、と考え始めたんです」

第一歩を踏み出したアルベールの新プロジェクト、AZ Factoryが形になり、オンラインでローンチを果たしたのは、2021年1月。その3カ月後に彼がこの世を去ろうとは、誰が予想しただろうか? どうか、安らかに。

 

想いはひとつ、アルベール・フォーエバー!

温かい人柄とユーモアのセンス、その感受性から生まれる、女性を美しく見せる服。元コラボレーターたちが想う、人として、デザイナーとしてのアルベールとは

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アニア・デステルさん(元ランバン コミュニケーション・ディレクター)

着てすぐなじむ、は彼の服の真髄

「アルベールはとても寛大で、常にスタッフたちのことを気にかけていましたね」。こう語るのは、アルベールのランバン着任の初日以来彼に寄り添ってきた、アニア・デステルさん。「彼が作る服はどれも、まるで私のためにデザインされたもののように思えました。もちろん彼は私をイメージしたわけではありませんが、多くの顧客が同様に感じていたんです。彼の服が、身につけるとすぐに着る人の心にも体にもなじむものだったことの証しです」。自身の引退後も友人として頻繁に連絡を取っていたアニアさんにはAZ Factoryから声がかかり、追悼ショーのオーガナイズを手伝った。「フィッティングの際は、まるでランバン時代のようにことが進んでいるのに、彼がいないのが耐えられませんでした。彼が仕事をするのを見守るのが大好きでしたから……。ショーが無事済んだ今では、とても誇りに思い、ハッピーです。まるでアルベールがすぐそこにいるように感じられます」

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バベット・ジアンさん(スタイリスト、仏『Numéro』編集長)

愛と笑いの"共謀"関係よ、永遠に

アルベールとのつき合いは20年近かったという、バベット・ジアンさん。「彼とはきょうだいのような関係で、ちょっと視線を交わすだけでわかり合えたんです。長年のコラボレーション(ショーのスタイリング)は、たとえるなら、いたずらに興じる子どもたちの"共謀"。笑い出して止まらないこともよくありました。彼はいつも、何かに夢中になる子どものようでしたから。それに『愛は愛を呼ぶ』を口癖に、誰にも差別なく寛容で、感動するほど周りへ気配りしていましたね」。さらに、アルベールのもの作りをこう分析する。「女性の体を美しく見せることで、その魂を讃えたんだと思います。彼なりのサヴォアフェールを駆使し、息を呑むような美しいシルエットを作る様子は、詩人が言葉を選ぶようでした。そのカッティングや素材使いのセンスはシャープで、しかも遊び心たっぷり。彼の存在は、私の胸に永遠に刻まれています。とにかく、私は彼を愛していたんです」

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アミラ・カサールさん(俳優)

アルベールは、ずっと女性たちの味方!

映画『君の名前で僕を呼んで』(’17)での母親役で知られるアミラ・カサールさんは、AZ Factoryのローンチ・ビデオで司会を務めた。彼女はアルベールとの出会いに思いを馳せる。「カンヌ国際映画祭に向けてのフィッティングで本社に出向くと、デスクに座り、心理学者か医者を気取りつつちゃめっ気を隠しきれない様子の彼は、こう切り出したんです。『では診断を始めましょう……』。私は思わず『はい、私は看護師です』と切り返し、それ以来、これは内輪のジョークとなりました。彼とはこんなたわいのない冗談から人生論まで、さまざまな話をしたんですよ。彼は常に自身に疑問を投げかける繊細で敏感な人でもありました」。また、アルベールと女性たちについては「彼は女性たちの味方でした。試着する際『このドレスを着た自分が好き?』と聞いてくれたんです。彼がいなくなって、シェルターを失ってしまった感じ。でもアルベールのレガシーは生き続けるでしょう!」

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アンバー・ヴァレッタさん(モデル)

彼の私物のボウタイを身につけて感動

「素晴らしい才能、ユニークなデザイナー。しかもやさしくて面白く、アルベールのエスプリはまるで魔法でした! 女性を美しく賢く見せる、彼なりのやり方が大好きでした。彼の服を着ると元気が出て、自分が特別だと感じられたのです」。存在感があるモデルを好んだアルベールのお気に入りのひとり、90年代のトップモデルのアンバー・ヴァレッタさんはこう語る。「追悼ショーでは彼が愛用したボウタイをつけて別れを告げられ、とても光栄で感動的でした」

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菅野麻子さん(ファッション・ディレクター)

自信とときめきをくれる服に、感謝

職業柄、アルベールの仕事を追い続けただけでなく、自他共に認める日本一のランバン・ファンだった菅野麻子さん。「特にバイアスカットに魅せられましたね。生地の質を見極めて、ここまで人の体の動きになじむ服、女性の体をきれいに見せる服を作れたデザイナーは、他にいないと思います。私がけがをしたときも、デザイナーとしての全力投球が感じられる彼のドレスを着るだけで、自信を取り戻すことができ、心が躍ったんです。アルベール、ありがとう!」

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廣見真紀さん(元ランバン ジャパン マーケティング&コミュニケーション・ディレクター)

彼の天才ぶりを語る逸話は尽きず

「アルベールは奇想天外なことを思いつく、天才でした。それは服作りだけに限りません。2009年、国技館でのショーにあたり、パリでの演出にできるだけ近い大きなシャンデリアを探したのですが見つからず……。だったら小さなものを100個使おう!と彼の一声で、前夜にスタッフが奔走したのを覚えています。大変でしたが、おかげでショーは幻想的な雰囲気の素晴らしいものに」。12年も仕事を共にした廣見真紀さんのアルベールとの逸話は尽きない。

 

オマージュ・ショーの舞台裏

Love Brings Loveと名付けられた追悼ショー。2021年10月5日に行われた感動的な一夜を振り返る

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1 ショーのフィナーレでは、アルベールの遺影を、個々のコンパートメントに収まったモデルたちが囲んだ。遺影のすぐ右はバレンシアガ、左はヴァレンティノ、右上はオフーホワイトc/oヴァージル アブロー、上はトモ・コイズミによるもの
2 AZ Factoryのルック
3 ドリス ヴァン ノッテンの作品は、アルベールの姿を織り込んだアシンメトリックなコート

2021年9月末、アルベールのポートレートにLove Brings Loveの言葉を添えたポスターが、パリの街中に掲げられた。ショーのライブ配信の告知だ。コロナ禍以来初のフィジカル・ファッションウィークの締めくくり、そしてAZ Factoryの初めてのショーは、アルベール・エルバスへのオマージュという特別な形で開かれた。会場となったマレ地区のカロー・デュ・トンプルに詰めかけたのは、ジャーナリストやバイヤーはもちろん、オマージュ・ルックを提供したデザイナーたちやアルベールの近親者をはじめ、ブリジット・マクロン大統領夫人、パリ市長アンヌ・イダルゴら、多数のゲストたち。ランウェイではAZ Factoryを皮切りにアライア、ディオールやグッチなど大手メゾンから、Y/プロジェクトまで、45ルックがブランド名のアルファベット順に展開。誰もが、一点のドレスやスーツに、アルベールへの思いを込めた。ファーストルックと、45体に続いた25体は、AZ Factoryのチームによるアルベール讃歌である。

「アルファベット順にしたのは参加デザイナーたちに順位をつけ難いという理由もありましたが、AからZのすべて、というメゾンの哲学にも則っているんです」。こう語るのは、ブランドの若きCEO、ローラン・マレカーズ。ちなみにAZとは、AlberのA、ElbazのZからの命名だ。またコレクションの背後には、アルベールがいつかやりたいと夢見ていた「テアトル・ドゥ・ラ・モード」があった。1945年に当時のフランスの著名クチュリエたちが結集し、人形に各メゾンの代表作を着せる形で発表された、オムニバス展覧会だ。

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4 ドレープの美しさでオマージュを表現した、リカルド・ティッシによるバーバリー
5 現ランバンのクリエイティブ・ディレクター、ブルーノ・シアレッリは、個人的に思い出深いという、ランバン2008年春夏コレクションのドレスを着想源にした

(下)ゲストたちに配られた本。オマージュに参加した45人のデザイナーたちのデザイン画やメッセージの他、アルベールの名言やスケッチ、彼のスナップ写真などが満載

ラブという大義のもとに、ファッション界がひとつに

「イスラエルでのアルベールの葬儀から帰国しアトリエに行くと、スタッフ全員がこれまで以上に熱心に仕事に取り組んでいました。それを見たら『悲しみにくれている暇はない、何かしないと!』と思ったんです。Love Brings Loveをスローガンに各デザイナーからオマージュを募るというアイデアは、自然と生まれました。彼が愛したラブという言葉は平凡かもしれませんが、何といってもパワフルでユニバーサルで、人々をつなぎますから」とは、前出のアレックス。「本来なら競合のメゾンやデザイナーたちと一体になって、セレブレーションをしたかったんです。それで、彼が面識のあった大御所デザイナーから、会ってみたかったであろう若手にまでメールを送信。この企画はマーケティングでもコーポレートでもないからCEOやPRにではなくデザイナー本人に宛てて。驚くことに、みんなが即返事をくれました」

それから半年もたたない2021年10月5日。この日は、亡きアルベールがラブを媒介にファッション界をひとつにした、記念すべき日となった。

『Love Brings Love』
オマージュを捧げたデザイナーたちの作品は、商品化目的ではなく、AZ Factoryのアーカイブスに保存される予定。3月5日〜10月5日の期間、これらをパリ市モード美術館(通称ガリエラ宮)で鑑賞する機会も設けられる。
10, Avenue Pierre 1er de Serbie, Paris 16e 75116 Paris Ⓜ Iéna
開場時間:10時〜18時、〜21時(木・金)
休館日:月曜・祝日
https://www.palaisgalliera.paris.fr

 

レガシーを引き継ぐAZ Factory

ブランドの定番に加えた新しい解釈から、アルベールらしいドレスの数々まで。AZ Factoryのチームがアルベールに捧げたオマージュ

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ふんだんに寄せたドレープとアシンメトリーのラッフルが、まさにアルベール流。イエローのラインが入ったレギンスは在宅時間のためのラインSwitchwearより

Love Brings Loveのショーで発表された新作の26ルックは、チームによるアルベールへのオマージュ。


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上で紹介した本に掲載のQRコードからダウンロードできるこのビジュアルは、AZ FactoryによるLove Brings Love コレクションの27体目。複数のポーズがあり、実はNFTで、ショーでは発表されなかった、デジタル・オンリーのルック。ブランドのCEO、ローラン・マレカーズいわく「最新テクノロジーに興味を持っていたアルベールへ捧げた企画なんだ」
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ブランドのアイコニックなアイテムである、MyBodyラインのストレッチがきいた黒のドレス。ボリューム感のあるショールと大ぶりのジュエリーを合わせたルック(右・ヴィオレッタが着用)は、デザイナーたちの45体に先行したファーストルック。ラストはパンツスーツと、裾に刺しゅうが施されたコート(左・ルスが着用。ショーではアンバー・ヴァレッタが担った)。ベルベットのボウタイは、アルベール本人の愛用品。ドレスとレギンス、ジュエリー、シューズはすでにazfactory.comで購入可能(エンジェルのネックレスは売り切れ)。パンツは3月初旬に入荷予定。その他は参考商品

アルベールは女性たちをやさしく見守ってくれました。その視線は、まるで彼女たちに恋していたかのよう。彼のおかげで女性たちは華々しくフェミニンに、また時には派手な色や存在感のあるボリュームにかかわらず、慎み深く感じることができました。アルベールのクリエーションは、いわばモダンなクラシックだったと思います。
―――ヴィオレッタ・サンチェス

アルベールならどうするか? AZ Factoryに託された、未来

クチュールとテクノロジーを結びつけ、人々をハッピーにするために生まれたAZ Factory。CEOのローラン・マレカーズは回想する。

「アルベールは、真のストーリー・テラー。会ってすぐに、彼の熱っぽい語りに説得されました。『AZ Factoryは、クリエイティブな解決策を提供するためのラボラトリーであり、疑問を提起するスタートアップ。僕はファッションをこれまでとは違う視点で考えたいし、間違いも恐れない』と」

ヘッドデザイナーのノーマン・デヴェラは「アルベールは魔術師です。彼のドレスは”着る”ものではありません。体を包み、着る人の一部になるんです。彼はいつも『スタイルは君の内にあるものだから、僕が教えられるものじゃない。学んでほしいのは、ヒューマニティだけだよ』と言っていました。僕の内面を引き出してくれ、夢見ることを学びましたね」と語る。

ノーマンとアルベールが一緒に実現した夢の序章は、MyBodyと名付けた、革新的なニットの一連だ。彫刻のようなシルエットを求めて、技術リサーチを重ね、体の部位により伸縮率の異なる13種もの編み地から成るドレスを完成させた。このシグネチャーはLove Brings Loveショーで発表された、26体にも採用されている。

「最新作にあたっては、アルベールによる”ル・グラン・テアトル”というコンセプトだけがすでにありました。僕は『どうしたい?』と、天国のアルベールに向かって毎日尋ねていました。今後も、彼が今いたらどうするか、を念頭に進化していきたいです」。レガシーを受け継ぐチームの代表として、ノーマンは決意を新たにする。

Profile
ヴィオレッタ・サンチェス(右)
ルス・サンチェス(左)
ヴィオレッタ・サンチェスはモンタナやティエリー・ミュグレーのミューズとして80〜90年代に活躍した、往年のトップモデル。アルベールによるランバンの最後のコレクションとなった2015年春夏のショーでは、トップバッターを務めた。娘のルスも同年にモデルデビューしたことから、アルベールはこの母娘を広告に起用。彼に愛されたふたりだから、今回の撮影にも快く参加してくれた。

SOURCE:SPUR 2022年3月号「Love Brings Love アルベール・エルバスに愛を込めて」
photography: Laure Bernard  hair: Alexis Parente  make-up: Brigitte Hymans model: Violeta Sanchez, Luz Sanchez realization & text: Minako Norimatsu

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