モデルであり、アーティストとしても活動するココ・ゴードン・ムーアが初登場。ロマンティックな装飾から、センシュアルなデザインまで。心地よく美しいホーム・ドレスとともに、新たな季節の到来を迎えよう
かすみ草とともに黒のドレスアップ
ソフトラムスキンのバイカージャケットに、90年代調のトップスを。胸元のカッティングが今らしい肌見せをかなえる。贅沢なダブルサテンをボリュームたっぷりに重ねたスカートは日常をドラマティックに演出する。「このルックでドレスアップできるのがすごく楽しかった。普段のスタイルとは違って、バイブスをいい意味で変えてくれる服だと思う」。
フェザーと揺れて、戯れて
天使や草花、虫などプレイフルなイラストが配されたドレス。どこか力の抜けた落書きのようなタッチがユーモラスな遊び心を感じさせる。ボトム部分にはシュガートーンのフェザーが大胆にあしらわれ、動くたびに軽やかに揺れる。淡く夢見心地なグラデーションのうちに確かな意思を感じさせて。「このドレスはデザインが一番楽しいと思った。こちらも普段は選ばない服だけれど、"こういう服を着そうな人"を想像しながら着たの」。
肌に寄り添うブラとビスチェを主役に
「アンティークな空気感もある、エッジのきいたピンナップって気分だった。写真では見えないけれど、中にはいているグッチのアンダーウェアが一番可愛かったの。最初はそれだけで撮影したんだけど、ちょっとセクシーになりすぎてしまったから断念」。体に添うビスチェと繊細なレースからやわらかく肌が透けるブラを纏う。エンブロイダリー・GGパターンのペンシルスカートとバラクラバを合わせて、どこかアンバランスさを楽しみたい。
色は心のカンフル剤
主役は大胆な赤。たっぷりとられたギャザーとボリュームが花のよう。鮮やかなブルーのグローブとのコントラストも目を引く。「少しグラマラスで、でもリラックスした雰囲気があるのも最高。赤いドレスに青い手袋の組み合わせも、ほかにあまり見たことがなくていい。今回の撮影で一番好きだったルックかも!」
音楽とともにまどろむひととき
ゼブラ柄のジャカードコートはベージュとブルーのコンビネーションが新鮮。シアーなドレスに包まれて。新たな芽吹きを思わせる力強いグリーンがモダンな表情を添える。足もとの若草色のサンダルで可憐に。「緑が好きなの。柄との組み合わせが斬新!」。
“自分らしさ”をいつも探究し続けてきた
「子どもの頃から家にひとりでいるときに、グッチや、いろいろなスタイルのファッションで鏡の前に立ち、想像上の自分を演じたりしていた。『これは、TVに出るときに着る服』とかね(笑)。納得のいく着方を考えたり、身にまとっているものがなじむまでいくつも試したり。そうやってどうしたら自分らしく見えるのかをいつも探求していたと思う」
そう語ってくれたのは、モデルでありアーティストのココ・ゴードン・ムーア。撮影の翌日に、NYのダウンタウンで地元の学生がよく行くカフェを取材場所に指定し、ひとりでカジュアルに登場した。
「ファッションについては、特定のスタイルが好きというわけではないの。でも普段はローライズのブーツカットデニムとTシャツが多いかも。クラシックで普遍的なルックに惹かれるの」
この日の装いはジーンズにピタッとした白いインナー、そしてネルシャツを軽く羽織って。彼女なりの90年代のようなスタイルに感じた。
「こだわっているのは、自分らしく見えるかどうか。それと着ていて心地がいいかどうか。だから時々街で見かける人がすごく素敵な服を着ていても、あまり快適に思えていないのが伝わると、いいと思えない。スカートが短すぎたり、靴が履きやすそうではなかったり……」
ファッションへのこだわりは、これまで変化し続けてきたとも語る。
「でもファッションシーンに関わる仕事もしているから、スタイリストの友人からヒントを得たりもする。それをもとに自分らしく取り入れるのが好きなの」
モデルとしての仕事は、とりわけ継続してランウェイにも出演しているマリアム・ナッシアーザデーなどがお気に入り。
「チルでセクシーなバイブスが好きで、私自身のスタイルともリンクしていると感じる。実は今度友人の結婚式があるから、マリアムのところでドレスを買おうとしているの。まだ考え中なのだけど」
彼女の両親は、NYを代表するアートインディーズバンド、ソニック・ユースのキム・ゴードンとサーストン・ムーアだ。そんなアーティスティックな家に生まれた彼女は、どんな影響を受けたのだろうか。
「クロエ(・セヴィニー)がベビーシッターだったの。今も彼女とは友達で、よく遊びにいく」
今回の写真も90年代のクロエのオルタナ感あるファッション写真を彷彿とさせる。
「そう! 自分でもそういう雰囲気を目指していた。それに、私と彼女って顔の形が似ているから、普段から彼女の写真を見ては『ああ、なるほど、こういう髪型が似合うのか、私もやってみよう』と参考にしたりしているの」
母のキムは音楽だけでなく、今も一流のギャラリーでインスタレーションやペインティングなどを精力的に発表している。そんな母とは、マーク・ジェイコブスやコーチのキャンペーンにも登場している。
「私のファッションアイコンは、80年代の母と言えるかもしれない。その時代の母の写真をすごくよく見るし、彼女のスタイルはいつ見ても素敵。それから、〝両親の家そのもの〟みたいな格好をよくしていたの(笑)。家の中の美学のようなものを体現しようとしたというか。常にアートに囲まれていたし、本の表紙やレコードのジャケット、家の模様とか、そういうものからとても影響を受けた。自分で言うのも変だけど、私の両親は、すごくクールなスタイルの持ち主だから。それから東海岸で育ったこと、シカゴのアートスクールに通ったことや、みんな違う独自の格好をしている友人たちからもインスパイアされたと思う」
そんな背景を持つ彼女が、自身の表現のフィールドとしてあえて選んだのは、音楽ではなく、詩だった。実は、撮影日の夜にブルックリンのバーで開かれたポエトリー・リーディングを聴いた。モデルのような華やかな舞台とはまったく違うけど、小さいながらもリアルなコミュニティで、彼女と仲間の4人でイベントを行なっていた。
「すごく小さいけれどポエトリーのシーンやコミュニティが好きなの。その一部でいられることもすごくうれしい。ファッションもそうだけれど、私は普段自分をあまり出さない性格だから、詩を書くことやリーディングで内面を表現していると思う。そのほかのアートに比べて、詩での表現が自分に一番しっくりくるの。書くことで自分の人生で起きていることもプロセスできるから。もちろん、人に見せられないようなダメな詩もたくさん書くけれど(笑)、その中からすごくよいものが生まれてくると、ほとんどセラピーみたいに思える」
彼女はこれまでに2冊の詩集を出版している。興味深いのは、その利益をチャリティとして寄付していること。
「私がチャリティに寄付することで、これまであまり知られていなかった問題、女性の権利や人権、平等、保釈金の問題などに気づいてくれる人がいるかもしれないなって。援助を必要としている組織や団体の役に立ちたいと思っているから。自分のアートを政治的とは言わないけど、少なくとも自分が関心を持っているコミュニティと何かしら関わっていける要素のあることをやりたいと思っている」
今は、最新の詩集を出版社に送り、正式に出版してもらえるか回答を待っているところだ。
「うまくいくように祈ってるけど、難しかったら自分で出版社を作るつもり。自分や友達の作品を世に出していきたいから」
ファッションも表現活動も、〝自分らしさ〟をゆっくりと、しかし着実なペースで一歩一歩模索してきたココ。彼女の静かなる強さがむしろ今、新しく見えた。
ホワイトドレスで新しい季節を迎える
「Sandy Liangのスタイルは普段から大好き。エッジがきいていて、セクシーで、キュートだから」。ココもお気に入りのブランドのコットンドレスを着て。サイドからバックにかけて生地が切り替えられ、可憐なだけではないモダンなひねりを加えている。やわらかな風の気配を感じたら、春はもうすぐそこ。
Profile
Coco Gordon Moore
1994年、NY生まれ。モデルとしてマーク・ジェイコブスのキャンペーンほか、マリアム・ナッシアーザデーなどのランウェイで活躍。アーティストとしても活躍し、詩作やペインティングも行う。短編映画『Lucan Asks Why』、キム・ゴードンのMV「Hungry Baby」にも登場。
SOURCE:SPUR 2022年4月号「ココ・ゴードン・ムーア、春を待ちわびて」
model: Coco Gordon Moore photography: Nick Hudson styling: Alexis Badiyi hair: Roberto Di Cuia using ORIBE at L'Atelier NYC make-up: April Greaves for Art Department coordination: Yasuyo Hibino 〈fish*co.〉 interview & text: Akemi Nakamura
※$1=約116円です(1月31日現在)。