あらゆる面でハイクォリティな服は、多くを語らずともその有り様だけで、うっとりする美しさ、ただならぬ特別感が伝わってくる。それはモードを知る者であれば一瞬でかかる魔法。素材、縫製、フォルム。どれを取っても一級品の、静かなる服のささやきに耳を澄ませて。
Cashmere Coat
上質のカシミヤは肌への喜び
イタリア屈指のテキスタイルメーカーとしての歴史を持ち、選び抜いた世界最高品質の素材を用いて伝統的な職人技と最先端技術を融合した物作りを行うロロ・ピアーナ。確かな実力で作られたコートは、この世に比類ない服として夢の世界へ誘う。ダブル構造のイエローラウンドネックカシミヤコートは、2層になった生地を開いて内側に折り込み、手縫いで縫い合わせたもの。柔らかさが他とは異なる極上の肌ざわりは、素肌に本能的な喜びを与えてくれる。上に羽織ったオフホワイトのコートは、織りと編みを組み合わせたインレイのリネン生地で、体を軽くやさしく包み込む。どちらもゆったりとリラックス感のあるラグジュアリーなアウターだ。
White One Tone Coordination
質を極めたベーシック
コットンシャツとプリーツスカートのベーシックな組み合わせも、すべてのクォリティが上等なら高貴な存在感が生まれる。オーバーサイズのシャツをカシュクールのように体に巻きつけ、革小物やカシミヤスカーフで留めるスタイリングは、そのドレープすらも美しい。風をはらむスカートは、すべてハンドプレスで仕上げたプリーツのランダム感がクラフトの貴重さを醸し出す。異素材のワントーンコーディネートで、何物にも染まらない白の無限の可能性を物語る。
Crust Leather
皮の色を生かすクラストレザー
1927年に創業したイタリアのフェラガモは、当初靴のブランドとして名を馳せただけあり、トータルファッションブランドとなった現在でも、選定、加工とレザーを扱う実力は計り知れない。70年代を思わせるクロップドスエードジャケットは、まさにイタリアのクラフツマンシップがそこかしこに生かされている一枚。素材は、皮をなめした後に加脂剤を加えて乾燥させた革で、染めを抑えて皮の持つ色をできるだけ生かしたクラストレザー。見た目より遥かに軽いのは、表側はマットなスエード、内側はナッパの一枚革で仕立てられているから。大きな襟、長いカフス、ボタン使いと、ラグジュリアスなのにカジュアル感があるデザインだ。
Linen, Lambskin, Eyelet
3つのエレメントを一枚の服に
メゾンブランドの最高峰として独自の道を進み続けるエルメス。メゾンの歴史がそのままクラフツマンシップの歩みになりそうな華やかさを持ちつつ、最先端のテクノロジーや失われた技術の復活にも前向きな姿勢を失わない。日が昇る水平線に向けて歩き始めるイメージの今季のコレクションから、シナモンブラウンのリネンツーピースを。しなやかなリネン生地にラムスキンを直線的にあしらい、馬具からインスパイアされたアイレットをアクセント的に用いている。リネンウェアにレザーアクセサリーを合わせるスタイリングではなく、一枚の服のなかにリネン、ラムスキン、アイレット、すべてのエレメントを包含しているところが、言葉にできない上質の証し。
Riders Jacket
作りで味わうラグジュアリー
経験や技術の高さが問われるレザーの選定。トッズが毎シーズン発表するレザージャケットは、素材選びなどあらゆる職人技が発揮されるアイテム。その技術が凝縮されたライダースジャケットは、厚みがありながら、選び抜かれた柔らかくしなやかなカウハイドスキンを使用。フォルムは体のラインにほどよく沿うレギュラーフィットで、少し外側に出た肩を軸にして着られる。クォリティの高い素材とフォルムを体現しているからこそ、贅沢に一枚でまといたくなる。肘に施されたエルボーパッチのようなデザインは、見る人が見れば気づくドライビングシューズのゴンミーニを思わせるディテール。
Tailored Jacket
強いディテール、美しいライン
降り注ぐ光のなかに溶けていきそうな幻想的なペールピンク。マスキュリンなテーラードジャケットも、柔らかなパステルカラーに染まれば、やさしい表情を見せてくれる。これまでも多くのジャケットを発表し、その可能性を常に切り開いてきたジル サンダー。今シーズンはまさにテーラリングがキーワードとなっている。ボリュームのあるシルエット、角張ったショルダーライン、大きな襟と、ディテールは力強くても、身にまとうと、流れるようなボタンレスの前合わせ、すっきりとしたウエストラインが美しく強調される。袖を通した人のサイズ感に不思議とフィットする、マジックのような懐の深さのあるジャケットだ。
SOURCE:SPUR 2022年5月号「無口な服こそ美しい」
photography & styling: Tomoko Iijima hair: Keiko Tada 〈mod’s hair〉 make-up: Masayo Tsuda 〈mod’s hair〉 model: Hanna edit: Akane Watanuki