メゾンの創業以来、初めてエトロファミリー以外でクリエイティブ・ディレクターに就任したマルコ・デ・ヴィンチェンツォ。2023年春夏シーズンに誕生した、フレッシュなデビューコレクションを深掘り!
伝統とテキスタイルへの知見を融合して、新たなエトロを創りたい
─マルコ・デ・ヴィンチェンツォ
アーカイブスから起こる、偶然性の魔法
偶然性を信頼しながら、アーカイブスを参照する
創業者ジンモ・エトロ氏が蒐集した歴史的なテキスタイルの希少本や資料が並ぶライブラリーは、インスピレーションが生まれる場所だ。デビューコレクションの〝鳥〟や〝植物〟は、1800年代の希少本から引用したモチーフ。たとえば〝トンボと花〟が刺しゅうされた小さな布は巨大化され、そのままミニドレスに。
「デビューコレクションの準備期間は、わずか3カ月。デッドラインが迫る中、数時間をライブラリーで過ごし、そのときに目に留まり心に響いたものをコレクションに仕上げたんだ。もしほかの日に違うページを開いていたら、花やペイズリー柄がテーマになっていたかもしれないね」と言うマルコ。
「僕のデザインのアプローチは、偶然を信じること。何かを示唆されたら、それを活かす。偶然性は魔法のように美しいんだ」
その言葉通り、彼はデザインをスタートするときにテーマを設定しない。
「決めることで限界を作ってしまう。アーカイブスとも、曇らない目で先入観なく出合うことを大切にしている」
ファッションの仕事の一番好きな点は、「仕事を進める中で、さまざまな要素との相互作用があり、予測不可能な方向へ変化していくこと」と語る。
「すべて説明しようとするのは、ファッションが犯しやすい間違い。『なぜ鳥のモチーフなのか?』と聞かれても説明できるようで、できない。解釈は与えても、どこか曖昧さのあるものが好きなんだ」
その意味は着る人との出会いによっても変化していく。マルコが放つ、偶然性の魔法にかかってみたくなる。
LOVE TROTTER | 生まれ変わるアイコンバッグ
新たなアイコンバッグはOne of a Kindな名品
ショーに登場し、只者ではないオーラを放っていたバッグ「ラブトロッター」。マルコが発案した新たなアイコンであり、アップサイクルのものもある。バッグの一部は倉庫に眠るファブリックを用い、裏地で補強。再生プラスチック製のロゴ入りハンドルを組み合わせた。立体的な刺しゅうで表現したブランドのアイコン〝ペガソ〟は、そのモチーフの3Dっぷりに高級感があふれる。全工程、メイド・イン・イタリー。匠の技が際立つ。
「クリエイティブ・ディレクターに就任して6日目に、ミラノの北の街・コモにあるメゾンのアーカイブスを訪れ、そこにあったエトロの家具用テキスタイルに惹きつけられたんだ。それらはすでに製造中止になったもので、10年前のデッドストックもあった。このままではこんなに素晴らしいものが廃棄の運命をたどる。何としても生かさなくてはと感じたんだ。
エトロに来る前の’22 年2月に、ベーシックなヴィンテージウェアをアップサイクルする自身のコレクション〝スペルノ〟を発表した。そのとき、自分の中に強力なエネルギーが湧き起こるのを感じたんだ。それを契機にサステイナビリティは、自分が歩むべき方向のひとつになった。持続可能であることとファッションを自分なりの方法で結ぶことは、僕の生き方や考え方と親和性があると感じている」
新たなカプセルコレクションは、2月15日より伊勢丹新宿店 本館1階 ザ・ステージにて世界先行で発売する予定だ。







