2022年LVMHプライズのファイナリストに選出されたアシュリン・パークが手がけるASHLYNは、造形的な遊び心に富んだデザインとゼロウェイストを掲げる姿勢で高い評価を得ている。新時代のファッション界を牽引するブランドに、日本でどこよりも早くフォーカスする
デザイナーAshlynn Park 自身がリコメンド ASHLYNの最新キー・ルック
2023年春夏コレクションの中から、SPUR読者に特におすすめしたいLOOKをセレクト
1 フリルの動きをアクセントにしたパフスリーブのブラウスとプリーツ入りのパンツ。「染色していない麻で表現されたアイボリーは、私の大好きな色のひとつ。パンツは幅広なシルエットですがプリーツで縦のラインが強調されるよう計算しています。実は下半身がスッキリ見えると注文が殺到しているアイテムです」
2 ウールと麻を組み合わせて、服を裏返したようなデザインで仕上げたスカートタイプのスーツ。「ある日慌てて外に出たらジャケットを裏表に着ていた、自分の失敗がヒントとなった作品です。当初は『着てもらえるかな?』と心配もありましたが、意外にもキャリアウーマンの顧客に好評で、自信が持てました」
3 "デコンストラクション(脱構築)"をテーマとしたテーラードジャケットとオーガニックコットンを採用したシャツ。「娘にジャケットの袖を引っ張られたときに思いついた、片袖のないデザインです。片方の袖が長いシャツは、ASHLYNのシグネチャー。メンズのシルエットを参照して、モダンに仕立てています」
4 シャツをアップサイクルし、ビスチェ風トップスに。合わせたのはレザーをパッチワークして美しいシルエットに仕上げたロングスカート。「レザーのなめらかな質感に皆さん驚くはずです。『あなたのブランドのレザーは軽くていいわね』とアナ・ウィンターに言われてから素材へのこだわりが強くなりました」
ASHLYNの服はオフィシャルサイト(https://www.ashlynnewyork.com/)内のEC SHOPにて購入可能で、日本にも配送できる
デザイナーとして母として、彼女が考えること Ashlynn Parkが語るASHLYN
ブランドを立ち上げたきっかけや母としての葛藤、服作りに向かう彼女のまっすぐな思いとは
韓国で生まれ、日本で学び、憧れのニューヨークへ
片袖のないボタンを掛け違えたようなジャケット、裏表を逆にしたと錯覚するスーツ、縫い糸を引っ張って作ったようなフリルのドレス。ASHLYNの服はデコンストラクション(脱構築)の試みによるモード感と働く女性たちに寄り添う知的さを兼ね備えて、アトリエを構えるニューヨークを中心にファンを増やしている。デザイナーのアシュリン・パークは昨年、業界で最も権威ある若手デザイナーの登竜門として知られるLVMHヤング・ファッション・デザイナーズ・プライズファイナリストに名を連ね、知名度を上げた。
彼女は韓国出身。子どもの頃からの夢である建築家を志し梨花女子大学に入学をしたものの、次第に自分自身の手を使ったものづくりに興味が移りファッション・デザイン科に転科。卒業後にチャレンジしたコンペにて獲得した奨学金で日本に留学し、東京モード学園、文化ファッション大学院大学でさらにファッションの基礎を徹底的に学んだ。卒業後はヨウジヤマモトのアトリエにパターンメーカーとして就職したのを皮切りに、名だたるデザイナーたちのもとで研鑽を積んでいく。
「ヨウジヤマモトではデザイナーとしての基本的な心得を学ぶことができました。当時のアトリエは私語と雑音は厳禁。張り詰めたムードでドキドキしながら働いていたけれど(笑)、心地いい緊張感があったからこそ多くのことを吸収できたと思います。 山本耀司さんからは服を作る上で、常に自問自答をするように教えられました。『このデザインは本当に着られるのか?』『このディテールは絶対に必要なのか?』と。そして『使い捨てにならないよう、質の高い服を作りなさい』ということも繰り返し言われました。次に働いたアレキサンダーワンでは、女性の体にフィットする服作りを習得しました。アレックスはドレーピング(立体裁断)で服を作る人だったので、私も独学で学んだのです。女性の体にぴったりとフィットする服が作れるようになったのは、あの頃ビヨンセやリアーナなど、多くのセレブリティのビスポークの服を任されたおかげだと思います。彼からのオファーによって学生時代から憧れていたニューヨークで働くようになったし、本当に感謝しています」
1・2・3 マンハッタンのセブンスアベニューにあるASHLYNのアトリエ。アシュリン・パークのほか6人のアシスタントが働いている。デザイン、型紙やサンプル制作、オーダーメイドの生産とすべての作業をこのアトリエ内で行なっている
娘との会話をきっかけに、新たなチャレンジを決意
服はパターンがなければ人が着るものに仕上がらない。「複雑なデザインでもアシュリンに任せれば形になる」と彼女は引く手あまたのパターンメーカーとなるが、それは名前が立つことはない〝裏方〟としての仕事だった。
「裏方でブランドを支えることに誇りを持っていたけれど、ある日、娘に『ママの夢は何?』と聞かれてデザイナーになるという夢を思い出したの。そのときは2人目の子どもが産まれたばかりでパートタイムで働いていて。さらにパンデミックで仕事も激減。『このままでは服作りの腕が落ちてしまう……』という焦燥感もあり、思い切ってブランド設立を決意しました」
そして彼女はブランドを立ち上げ、ふたつの目標を立てる。ひとつはサステイナブルなファッションを目指すこと。母として未来を生きる子どものために地球環境を守りたいという思いから生まれたものだ。できる限り自然の素材と色を使い、生地も必要最低限に抑えて無駄を省く。服の廃棄削減を考えて受注販売を行うなど〝ゼロウェイスト〟を自身のブランドのキーワードに据えた。コレクションでは、一枚の布を余すことなく使い切る廃棄物ゼロの作品も発表されている。ふたつ目の目標はアジア系の女性の体型にもフィットした服をデザインすること。「私たちアジア人の体型は西洋人と違うでしょう。同じデザインでもプロポーションの違いで野暮ったくなることもある。だからアジア系の女性たちもカッコよく見える服を作りたいと思っています」
4 アシュリンが仕事をする上で欠かすことのできない7つ道具。ハサミはパタンナー時代からの愛用品
5・10 彼女が最も尊敬する、ニューヨークで活躍した偉大なるデザイナー、チャールズ・ジェームス。2014年にメトロポリタン美術館で行われた彼の回顧展にも足を運び、多大な影響を受けた
6 ブランドのタグはシグネチャーカラーである黒と白で構成
レジリエンス!チャレンジをバネに進化する
デビューから3シーズン目を迎えた2023年の春夏コレクションはレジリエンス(しなやかな回復力)がテーマ。パンデミックや戦争、環境汚染など不安定な情勢に立ち向かっていく社会や、2人の娘の子育てとデザイナーとしてのキャリアの間でもがく自身の姿を重ね合わせて「困難から立ち上がることのできるようなエネルギーを、服で表現しよう」と考えた。アシュリンは、人生の中で出合うあらゆる体験や感情をもとに服を生み出していく。片袖のないジャケットや左右で袖の長さの違うブラウスなど、彼女の子どもたちの行動がヒントとなったアイテムも展開している。
「私が仕事に行くのを嫌がって袖がちぎれそうになるまで引っ張った娘のアクションなど、デザインのインスピレーションはあらゆるシーンにあります。常に子育てとキャリアの二者択一を迫られながら働いているけれど、どんな局面にもヒントがあるから、止まることなくチャレンジを続けていきたい」
実は昨年のLVMH賞への応募は、アシュリンにとって大きな賭けだった。
「応募したとき、大賞の候補に残らなかったらデザイナーは潔く辞めようと思っていたの。業界ではパターンメーカーはデザイナーになれないという偏見が未だにあるから。応募の際も友人からパターンメーカーというキャリアは伏せたほうがいいとまで言われた」
と悔しさをにじませる。しかし、ファイナリストに選ばれ、途端に一部でささやかれていた彼女へのネガティブな反応が一転する。「パターンメーカーだったから高度なテーラリングが実現する」と言われるようになった。
「今は私の強みは〝一人ですべてできること〟だと思っています。アイデアを型紙に起こし、実際の服に縫い上げることができる人はそういない、と自負できるようになりました。服は着る人が生かしてくれるもの、服と着る人の人生は一緒だと思っています。だからこれからも『この服はどんな人に着てもらえるだろうか?』と自問自答しながらデザインを続けていきます」
7 昨年行われたメトロポリタン美術館のファッション展で展示されたASHLYNのドレス。展示について連絡を受けたときは、あまりのうれしさに飛び上がった
8・9 アトリエだけでなく自宅でも働く仕事漬けの日々の中で、唯一の息抜きは家族揃ってのキャンプ。夏になるとほぼ毎週末キャンプに。自然の中で子どもたちと一緒に朝食を作って食べることが、最高のストレス発散法だ
韓国生まれ。韓国の大学でファッションデザインを専攻後、日本に留学。学生時代には装苑賞を受賞したほか、ISSEY MIYAKEでのインターンを経験。卒業後はヨウジヤマモト、アレキサンダー・ワン、ラフ・シモンズ期のカルバン・クラインでパタンナー兼デザイナーとして活躍。その経験を活かし2019年には自身の名前を冠したブランドを設立、2021年のNYコレクションでデビューを果たした。5歳と7歳の娘を持つ母でもある。