美のスタンダードを拡張していく、トップモデル【Kayako】の現在地

2021-’22年秋冬に電撃のワールドコレクションデビューを飾って以来、唯一無二の個性でトップモデルとして駆け抜けてきたKayakoが今、さらに輝きを増している。「これまででいちばんおしゃれを楽しんでいる」と話す彼女のお気に入りスタイルを解剖すべく、現在拠点を置くロンドンの自宅近くで、オール私服でのファッションシュートを敢行した。そして一見、華々しく見えるキャリアの裏にあったスランプ期を赤裸々に語る。プレッシャーと苦しみを越えた今、自分だけの美しさを放つ。

モデルのKayako

成熟した感覚が加わった現在の"Kayakoスタイル"を最も表すコーディネート。自分らしい服だと語るレザーのトップスを、リブ編みのワンピースとレイヤードした。最近仕事を通して表現の幅も、私服のレンジも広がったという。

モデルのKayako

撮影を通して自分の中にあった、センシュアルな魅力を引き出してもらいました。以来、フェミニンなデザインやボディラインの出るシルエットもデイリーに取り入れられるように。

「ジル サンダーのドレスは数年前に購入したけれど、しばらくクローゼットの中に寝かせていたんです。ピュアで心地のいいデザインに惹かれましたが、うまく着こなせない時期が続いて。半年ほど前のとある雑誌の撮影をきっかけに、フェミニンな自分もありだ、と思うようになってから、満を持して着るように」。風をまとう純白のコットンドレスが、前向きな今のKayakoの気分を象徴する。近所の公園やフラワーマーケットなど、この春夏は出番が増えそうだ。TOGAのブーツで引き締め、Kayakoらしいバランスに。

モデルのKayako

自分らしいアイテムをひとつ選ぶとしたらレザーウェア。かっこいいイメージの素材なのでラフに着崩すのも好き。アウター、トップス、オールインワンと多様なアイテムで取り入れます。

晴れた日の午後、運河沿いを散歩するなら自分らしく気負いのないスタイルで。「年齢を重ねるごとに、ファッションの好みが少しずつではありますが変化しています。それでもレザーだけは変わらずに好きで、中でもライダースジャケットは、マイ・スタイルに欠かせません。Acne Studiosは、シルエットがきれいで気に入ってます。Tシャツとショートパンツで軽やかに着こなせば、ロンドンだと5月頃まではちょうどいいんです」。Tシャツはサンローラン、ショートパンツはTOGA XTC。ロングブーツは「人としても尊敬する」と語るサラ・バートンによるアレキサンダー・マックイーン。

モデルのKayako

私が暮らすエリアは、ロンドンでも若い世代の勢いがある街。ヴィンテージや等身大のブランドを組み合わせた、肩の力の抜けたスタイリングが似合います。

家から徒歩数分に位置するお気に入りのカフェは、よくKayakoが休日を過ごす場所。のんびり本を読んだり、顔見知りの従業員との会話を楽しんでいる。「私が住むロンドンのハックニー区は、多様な人種の人々が住んでいて国際色豊か。それもあり自分が"外国人"だと意識せず気楽に過ごせています。最近は、若い人のカルチャーも発展してきて、活気も出てきました。ワンマイルコーディネートも、トーンを落ち着かせてシックにすることを心がけてます」。デニムジャケットはA.P.C.。中にはユニクロのカーディガン、古着のシャツをレイヤードして奥行きを出す。パンツとシューズは、カジュアルを上品に格上げするジル サンダーを選んだ。

モデルのKayako

今、ファッションへの意欲が最高潮に達している。ときめく服との出合いを求めて、好きだったシーズンのブランドのアーカイブスを探す日々です。

セリーヌのレザートップスとお気に入りのブランド、アワーレガシーで購入したリブ編みのワンピースを合わせた。リーンなシルエットが、圧倒的な体のラインを際立たせ、スタイルを作り上げる。成熟したKayakoの魅力を引き立てるコーディネートだ。「気持ちがポジティブに向いている今、改めてファッションを心から楽しんでいます。だから服が欲しくてたまらない(笑)。トップスは2月のミラノコレクション時に購入。フィービー・ファイロ期のセリーヌを見返し、やっぱり素敵で大人の女性のための服だと憧れるように。少しずつ集めています」

過去を克服し、大きな夢の実現へと動く。

人知れず苦しんでいた時期を越えて。Kayakoが見つめる、多様な価値観のある未来の話。

セルフスタイリングでの私服撮影にすると決まったときから、編集部は彼女のロンドンの自宅付近での撮影がふさわしいと考えた。Kayakoの限りなく素に近い表情を引き出したい、そう考えリクエストしてみると、「それなら自宅の中でも撮りますか?」と提案してくれた。メイクルームにも自室を提供してくれるオープンな姿勢には、こちらが驚いてしまったほど。撮影中もスタッフとのコミュニケーションを絶やさない。ポージングの相談から、行きつけのカフェでのおすすめのパンの話まで、気さくな会話で率先して場を盛り上げる姿が印象的だった。

「自宅での撮影も、こんなにもアットホームな撮影も初めてかもしれません。ありのままの私にフィーチャーしてくれたことがすごくうれしかった。普段の撮影では、衣装やストーリーなど〝何か〟を表現することを求められるので、自分自身を表現する機会は珍しいです」

コンプレックスを克服するも現場では涙が止まらない日々。

世界を舞台にトップモデルとして活躍するKayakoは、あらゆる環境下で、その時々に集まった人々と時間をともにし、即興的にニーズにこたえるという日々を繰り返してきた。高い適応力と瞬発力を要し、想像以上のストレスにさらされると、次第に〝消耗している〟という感覚を覚えたという。

「もともと子どもの頃から見た目へのコンプレックスが強いタイプでした。183㎝の身長も含め、よくも悪くも個性的だと自覚しています。個性を武器に戦っていけると思ったのがモデルを始めたきっかけでしたが、この業界では、人と比べられることから逃れられません。注目を浴びても、次のシーズンにはニューフェイスが出てくる。移り変わりの激しい世界です。いつしか値踏みされ、競争にかけられている感覚に陥ってしまい、プレッシャーとストレスから、うつになってしまいました」

克服したのは昨年と、つい最近のこと。約1年半ほどうつ状態が続き、当時は、仕事現場で2回に1回の頻度で泣いていたと意外な事実を告白してくれた。

「皆さんが目にする私の写真からはそんな姿、想像できないかもしれませんが本当です。自分でもギャップにびっくりします(笑)。休日はお酒をたくさん飲んで、アパートから一切出ない。ひどい状態でしたね」

仕事が来るまで待つ〝静〟の時間と、刺激的な現場で体感する高揚感、その落差に心のバランスを崩すモデルは多いという。それでもKayakoには、モデルを辞める選択肢はなかった。

「モデルという仕事が好きで、情熱があり、成功したいと思っていたからこそ、こんなにも悩んでいると自覚していましたし、当時モデル以上にうまくできることも見当たらなかった。苦しみつつも、手放すまいとしがみついていましたね」

出口の見えない中、それでも黙々とモデル活動を続けていると、まるでカメラのピントが合っていくかのように、Kayakoが理想とする自分と周囲に求められる自分が一致していった。やりたかった仕事のオファーが来たり、自分がやるべきだ、と自信をもって挑める撮影が舞い込むようになったのだ。

「モデルとして自らのスタイルをようやく発見できて、周囲にも理解してくれる人が増えた感覚でした。以来、ほかのモデルと自分を比較して気が塞ぐことも減りました」

美の概念を広げるために自らを認め、発信していく。

 軸ができると、そこから少しずれた表現も自分らしさを失わずにできることも学んだ。

「昨年夏に『DAZED』のカバー撮影をしたのですが、上半身を露出したセンシュアルなカットに挑戦したんです。これまで自分が得意としていたジェンダーレスだったり、アクティブなイメージを一新するのは、勇気が必要でしたが、撮影したチームが私独自の美しさを見出してくれて、『Kayakoのこういうイメージも素敵だよ!』と背中を押してくれたので、挑むことができました。以降、成熟した女性のイメージを求める仕事の依頼も来るようになり、意識が変わり始めました。私服も自然と大人っぽくなり、メリハリのある体作りにも励むように。運動嫌いの私にとっては、革命です。ジムにも通ってなかったので。体が変化するのを見るのは楽しく、運動は気持ちも開放的になるので精神面にもいい影響を与えてくれました」

地道な体作りの甲斐あってか、2023−’24 年秋冬シーズンでは、モスキーノへの出演がかなった。

「ずっと憧れていたのですが、ゴージャスなイメージが求められる気がして自分は違うのかなと思っていたんです。確実に昨夏の経験を経て、仕事の幅が広がり、新しい扉を開くことができました」

現在も気持ちの浮き沈みはあると語るが、定期的なカウンセリングを受けることで自分とうまくつき合っていく方法を見つけた。心地よくいることを最優先に、仕事もプライベートも余裕のあるペースを保っている。また、かねてより取り組んでいるバンド活動にもいっそう精を出すように。

「幼い頃から親しんできた音楽は、私にとって欠かせないもの。モデルと音楽、両立させることでそれぞれいい影響を与えています」

今では、ポジティブな姿勢でモデルとして輝くKayakoも、私たちと同じようにルックスやメンタル面での悩みを抱えてきた。そんな彼女だからこそ表に出る者として、ある決意をしている。

「日本人が考える美のスタンダードが、まだまだ画一的だと感じています。決められた狭い枠の中で自分を評価すると、私が過去に経験したような苦しみを感じるでしょう。私が外に出ていくことによって『こういう美しさもあるんだ』と気づいてほしい。そして、みんながもっと生きやすくなるとうれしいです。大きすぎる目標ですが、モデルとして達成したい私のゴールです」

さらに人種の壁も立ちはだかる。アジア人としてまだまだ窮屈な思いをすることもあると語るが、強みを知り、無理のないペースをつかんだKayakoなら、しなやかに歩みを進めていけるだろう。

美のスタンダードを拡張していく、トップモの画像_6
バーバリー2021年春夏コレクションのファーストルックで鮮烈なデビューを飾る。バズカットにすることで勝ち取った。Burberry/Shutterstock/アフロ
美のスタンダードを拡張していく、トップモの画像_7
転機となった『DAZED』のカバー。上半身を露出したセンシュアルなアプローチに挑戦。 Instagram:@ka.ya.ko
美のスタンダードを拡張していく、トップモの画像_8
愛するブランドのひとつ、アレキサンダー・マックイーンへの出演はいつも特別な思い。写真は’23年春夏。 ©REX/アフロ
美のスタンダードを拡張していく、トップモの画像_9
’23-’24年秋冬には憧れのモスキーノへの出演を果たす。 IMAXtree/アフロ
モデルのKayako

インテリアスタイリストのルームメイトと暮らす自宅は、随所にこだわりが感じられフォトジェニック。アワーレガシーの白シャツに父に譲ってもらったというA.P.C.のデニムを合わせた。王道のベーシックも、思い入れの詰まった服と。「高校生から愛用のデニムは、何にでも合うマイ・スタンダード。父とは服のサイズがほぼ変わらないので、気に入ったものを拝借します(笑)。好きな服は長く大切に着たいので、これから人生をともにする服が増えていくことに期待しています。私のファッションはまだまだ発展途上。自分でも今後の変遷が楽しみです」

Kayako Higuchiプロフィール画像
Kayako Higuchi

16歳のときに東京コレクションでデビュー。2018年より海外へ拠点を移し、バーバリーを皮切りに、ディオール、ヴァレンティノなど名だたるメゾンのショーに抜擢される。現在はロンドンを拠点とし、数々のモード誌の表紙も務めるトップモデルに。バンド「お風呂でピーナッツ」のボーカルとして音楽活動にも励む。

FEATURE