ファッション業界のキャリアチェンジ、その華麗なる実情

トップモデル、ファッションデザイナー、スタイリスト。ファッション業界の最前線で一時代を築いた女性たちが、肩書を増やしながら、さらに飛躍している! コロナ禍での孤立と時間をあえて転機と捉え知見を生かし次なるステージへと乗り出した3人のストーリーを紹介する

Liya Kebede リヤ・ケベデ/3つの肩書を持つ、スーパーウーマン 

「リヤブラリーは、本と書店の存続のために」 

Liya Kebede リヤ・ケベデ
ニューヨークに構える「レムレム」のオフィス近くで。セザンヌのフェミニンなブラウスにヴィンテージのジーンズとブーツを合わせて、コントラストをきかせたスタイル

40代半ばになってもスレンダーなスタイルと愛らしい顔立ちのままのリヤ・ケベデは、モデルを超えた人道的な存在だ。今でこそ途上国を支援するブランドは数あるが、彼女が「レムレム」をスタートしたのは2007年のこと。
"モダンなリゾートウェア"の背後には、故郷エチオピアの手織りの伝統を守ると共に、経済的に恵まれない環境の女性たちに仕事を提供するという倫理的なコンセプトがある。最近では生産地をケニアやモロッコにも広げ、特にスイムウェアが好評。今後はコラボレーションも企画中だ。

Liya Kebede リヤ・ケベデ
モデルとしてブレイクするきっかけとなったトム・フォードによるグッチ2000-’01年秋冬のショー
Liya Kebede リヤ・ケベデ
「レムレム」のオフィスにて、同ブランドのカフタンドレスをまとって仕事をするリヤ 

そんな彼女のもう一つの活動が、ブックラバーたちのコミュニティを広げ、多くの人に読書を奨励したい、と始めた「リヤブラリー」。ネーミングはリヤとライブラリーを合わせた造語だ。多忙なスケジュールゆえ、子どもの頃から好きだった本から少し遠のいてしまったリヤは、コロナ禍で再び読書に没頭することができた。一方で、次々と書店が閉店するのを見て心を痛めたのだ。

Liya Kebede リヤ・ケベデ
レザーのバイカージャケットは一年中愛用している
Liya Kebede リヤ・ケベデ
ジュエリーはあまりつけないが、このピアスは定番
Liya Kebede リヤ・ケベデ
「リヤブラリー」のブックホルダー(各€295)には、お気に入りの本を挟んで常に持ち歩いている。今読みかけなのは、彼女好みのスリリングな犯罪小説で、スパイが主人公の『Istanbul Passage』(Jo seph Kanon著)

「読むことだけでなく、本を手に取って表紙のデザインを見て、紙の匂いを感じながらページをめくるのが大好き。書店に行って書棚を眺めるとリフレッシュした気分になり、何時間でも過ごせるわ。だから本と書店の存続のために何かしたいと思い、まずはインスタグラムのアカウントを開いたの」。彼女は「リヤブラリー」の発端をこう語る。

Liya Kebede リヤ・ケベデ
ブーツに何げなくジーンズの裾をインするだけで、リヤ流のエフォートレスなスタイルが完成する

最初に着手したのは、好きな本についてのレビューを書くこと。機会があれば、著者や読書仲間とのトークも。夢は大好きな作家、村上春樹に会ってインタビューすることだとか。そして今年は、オリジナルのブックホルダーをローンチした。

「出かけるときは、ケースに入れた携帯とちょっとした小物だけで、たくさんのものは持ち歩かない。でもポーチだけだと、必需品の本が入らない! しばらくは本をロープで結んで持ち歩いていたんだけど、もっといい方法を、と考えついたのが、ストラップのホルダーよ」と、リヤは得意気に自作を見せてくれた。11色も揃って本のルックに合わせて選べるこのユニークな小物は、https://liyabrairie.comで販売。

将来は小物のラインを発展させ、自身のセレクトによる本も揃えて「本格的にオンライン・ライブラリーにしたい」と言う。もちろんモデル業と「レムレム」も、同時進行で。仕事をシフトするのではなく累積することで、彼女の世界観が広がっていく。

Liya Kebede <br> リヤ・ケベデプロフィール画像
Liya Kebede
リヤ・ケベデ

1978年エチオピア生まれ。首都アジスアベバの学校を卒業後、パリに移住し、本格的にモデルを始める。2003年にはダークスキンのモデルとして初めて、エスティローダーの広告に登場し、話題を集める。2007年にリゾートウェアのブランド「レムレム」をローンチ。2020年にはインスタグラム上のライブラリー「リヤブラリー」(@liyabrairie)をスタートした。

Vanessa Seward ヴァネッサ・シワード/ファッションデザイナーから肖像画家へ 

「インスピレーションは、常に女性たち」 

Vanessa Seward ヴァネッサ・シワード
4月にパリで開かれた個展にて、ヴィンテージのドレスを着た自画像の前で。ダンガリーシャツとジーンズは定番アイテム

パリシックを体現するファッションアイコンとして、今でもそのスタイルにファンが多い、ヴァネッサ・シワード。ベーシックアイテムをモダンに解釈したクリエーションはもとより、映画や『シェルブールの雨傘』の舞台版でコスチュームを手がけるなど、服を巡る彼女の活動は幅広い。さらに昨年は自身のスタイル・マニフェストを綴った本『Le Guide de la Gentlewoman』が出版された。

Vanessa Seward ヴァネッサ・シワード
自宅にしつらえたアトリエで。シャツはセブリーヌ、腕時計はピアジェのヴィンテージ

そんな彼女の新しいキャリアは、肖像画家。コロナ禍のロックダウン中に、インスパイア源である女性たちの写真をもとに絵を描き始め、インスタグラムに投稿した作品がギャラリー「ムーブモン・モデルヌ」の経営者の目にとまったのがきっかけだ。

Vanessa Seward ヴァネッサ・シワード
サンダルはネットで購入したナースシューズ 
Vanessa Seward ヴァネッサ・シワード
次作の習作に、パステルでフィニッシュ

「子どもの頃にも、そしてモードの学校でもデッサンを学んだし、母が画家を副業としていたから、自然と油彩やパステル画を描き始めたんだけど、これが仕事になるとは思わなかったわ。最初に描いたのは、シルヴィア・クリステル。官能的だけどエレガント、セクシーかつフレッシュな彼女は、常に私のアイコンだったから」。

2021年に参加したグループ展では4点が完売して、モチベーションがアップ。その後オーダーも来るようになり、この春は初めて個展が実現した。最近では肖像画に加え、「女性を思わせるから」と、花も描くように。「絵画はファッションと違ってマーケティングや目まぐるしいシーズンのサイクルにとらわれないから、リラックスして仕事ができるの。数段階の仲介がなく独立したスタンスであることも、私に合っているかも」。

Vanessa Seward ヴァネッサ・シワード
自身のブランドの2017-’18年秋冬のランウェイより
Vanessa Seward ヴァネッサ・シワード
自宅アトリエのテーブルには、お気に入りのパステルのセットが

最初はアイコンをモデルとしたが、最近では友人、特にまなざしが美しい女性にも目が行くとか。ただし、ファッションへの想いも深い。「新しいプロジェクトも準備中だし、今後もさまざまなコラボレーションにオープンよ」と、2つのキャリアの同時進行に意欲的だ。

Vanessa Seward <br> ヴァネッサ・シワードプロフィール画像
Vanessa Seward
ヴァネッサ・シワード

ブエノスアイレスに生まれ、ロンドンとパリで育つ。パリのステュディオ・ベルソーで学び、シャネルでカール・ラガーフェルドに、その後イヴ・サンローランでトム・フォードに師事。2003年よりアザロのアーティスティック・ディレクターを務め、2014年から4年間は自身のブランドを。2019年から2年間はラ・レドゥットゥで廉価ラインを展開した。

Mélanie Huynh メラニー・ユイン/スタイリスト転じてビューティ専門家へ

「健康の秘訣は、360度のビューティ」

Mélanie Huynh  メラニー・ユイン
「オリデルミー」にて、アレクサンドル・ボーティエのTシャツをさらりと。ジーンズはモザール、ベルトはセリーヌ、そして靴はシャネル

「『VOGUE』誌時代、美容のテーマで専門家との出会いに恵まれたの。それにヘルシー志向の父のおかげで、幼少期から内と外のバランスを整え、健康を保つことには興味があったし」。こう語るメラニー・ユインにとって、ビューティ転向への土壌は整っていた。

引き金となったのは、父と妹によるブドウ園とワイン醸造の企業に参入し、ブドウと種に含まれる抗酸化物質への知識を高めたこと。そして両親の友人である医師にフォーミュラを依頼し、外面からのケアをスキンケアプロダクツで、内面はサプリで補い、さらにヨガやマッサージで美を完成させるというコンセプトの「オリデルミー」が誕生。ホリスティックと、デルマタイト(皮膚の意)を合わせた造語による"360度のビューティ"なるブランドは、2年半に及ぶ準備期間を経て、2019年秋にローンチした。

Mélanie Huynh  メラニー・ユイン
パリ・マレ地区にある「オリデルミー」の店内に並ぶプロダクツ

ラインナップはフェイスとボディ用プロダクツからマッサージツール、ハーブティー、そしてサプリまで。半年後にはロックダウンとなったが、彼女は精力的にインスタグラムでのライブを重ねた。

Mélanie Huynh  メラニー・ユイン
メラニーのデイリーアイテム。右からボディ用オイルセラム、抗酸化クリーム、フェイスセラム、そしてコラーゲンサプリ

「オリデルミー」のパッケージは、パリのマレ地区にオープンしたショップ兼エステサロンの内装に呼応する。エディターとして培われた美意識から、メラニーのブランディングは驚くほどクリアだ。

Mélanie Huynh  メラニー・ユイン
お店の階下にあるヨガルームで、木のポーズをとるメラニー
Mélanie Huynh  メラニー・ユイン
イヤリングは妹のアメリーがデザインするブランド、ステートメントのもの
Mélanie Huynh  メラニー・ユイン
スタイリストとして南仏で撮影中のメラニー

「ここは都市の隠れ家。だからコンクリートをイメージして、基本色のひとつはグレーなの。これはモードにどっぷりと浸かった私の、バレンシアガやディオールへのオマージュでもあるわ。そしてピンクが象徴するのは、女性の内面」と、メラニー。今でもスタイリストとして活躍し、ロケや早朝からの撮影も多くこなす彼女だが、「オリデルミー」や毎日のヨガのおかげで、疲れも時差もまったく感じないと言う。ファッションとビューティを両立させてこそ、輝く肌のメラニーがある。

Mélanie Huynh <br> メラニー・ユインプロフィール画像
Mélanie Huynh
メラニー・ユイン

フランス人の母、中国人の父の元、パリに生まれ育つ。カリーヌ・ロワトフェルドのアシスタントとして仏版『VOGUE』に入り、ファッションと美容を担当。その後フリーでスタイリスト、2019年にビューティブランド「オリデルミー」をローンチ。

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