【追悼|アイリス・アプフェル】独自のスタイルで“何者か”を表現し続けた、唯一無二のファッションアイコン

2024年3月1日(現地時間)にフロリダ州パームビーチの自宅で亡くなった、102歳のファッションアイコン、アイリス・アプフェル。インテリアデザイナー、実業家、ファッションアイコン、ニューヨーカー……と、さまざまな顔を持ち、唯一無二のセンスで多くの人々を魅了し続けたアイリス。そんな彼女の102年にわたる人生を讃えながら、その生き様を振り返りたい。

80代にしてファッションアイコンとしてデビュー

 Iris Apfel(アイリス・アプフェル)
Photo by REX/アフロ

“アメリカ最高齢のファッションアイコン”としてアイリス・アプフェルが知られるようになったのは、2005年にNYのメトロポリタン美術館付属の服飾研究所(コスチュームインスティテュート)で開催された展覧会、「Rara Avis: Selection from the Iris Apfel Collection」がきっかけだ。彼女が長年にわたり収集してきたコスチュームジュエリーと洋服を紹介するこの展覧会は、膨大なコレクション点数と彼女の卓越した審美眼、独自のセンスが光るスタイリングが絶賛され、メトロポリタン美術館のみならず、フロリダのノートン美術館、NYのナッソー郡美術館、マサチューセッツのピーボディ・エセックス博物館などでも開催されるほど話題に。

 Iris Apfel(アイリス・アプフェル) Dries Van Noten(ドリス・ヴァン・ノッテン)
デザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン(写真左)も、アイリスのユニークなスタイルに魅せられたひとりだ。Photo by Matthew Eisman/Getty Images

それまでファッション業界でほぼ無名だった彼女の名は、国内はもとより世界中に知れわたることとなり、その人気を裏付けるように、2014年にはドキュメンタリー映画『Iris(邦題:アイリス・アプフェル! 94歳のニューヨーカー)』も公開されている。

“80代の新人”——当時そんな愛称を得たアイリスは、瞬く間にファッション業界の中心的存在となり、ドリス・ヴァン・ノッテン(65)や元J.Crewのジェナ・ライオンズ(55)といったデザイナーたちにも大きな影響を及ぼす存在となったのだ。

ファッション業界から注目される以前は、インテリアデザイナーとして活躍

 Iris Apfel(アイリス・アプフェル) 
インテリアデザイナーとしてのセンスが詰め込まれた、NYの自宅。Photo by Peter van Agtmael/Magnum Photos/アフロ

NY生まれのアイリスは、ブティックを営んでいた母親の影響で幼少期からファッションに高い関心をもっていた。大学ではアートを専攻し、卒業後はファッション業界紙『Women's Wear Daily』に雑用係として就職。その後、イラストレーターのロバート・グッドマンのアシスタントとして働き、インテリアデザイナーに転身する。ファッションではなくインテリアの世界に身を置くようになると、1950年代前半には最愛の夫であるカール・アプフェル(享年100)と「オールド・ワールド・ウィーヴァーズ」社を設立。テキスタイルやインテリアのデザイナーとして、その才能を開花させていく。

持ち前のセンスを活かして、数々のセレブリティを顧客に持ち、ホワイトハウスや美術館の装飾の復元も担当するなど、華々しいキャリアを築いていったアイリス。しかし映画『Iris』の中で彼女は、「織物業界に入るつもりは全くなかった」「私はいつも流れに身を任せてきただけ」と、自身のキャリアについて飄々と語っている。与えられた出会いの中で、自分が輝ける場所を見つけ出し、それをモノにする。そんな天性の嗅覚こそが、彼女を成功へと導いていたのだろう。

既成概念にとらわれず、“直感”と“好奇心”を何よりも大切にした自由な人生観

 Iris Apfel(アイリス・アプフェル) Karolina Kurkova(カロリナ・クルコヴァ)
2016年、デシグアルのファッションショーにて、モデルのカロリナ・クルコヴァ(写真右・40)と。コレクション期間中は、フロントローの常連として会場に華を添えていた。Photo by Michael Stewart/WireImage

先に紹介した通り、メトロポリタン美術館での展覧会を契機に、ファッション業界からもその存在が知られることとなったアイリス。その後はファッション誌のモデルや、ブランドのキャンペーンモデル、H&Mをはじめとするアパレルブランドとのコラボレーションアイテムの製作など、さまざまな仕事に挑戦。この時すでに80〜90代だったにもかかわらず、新しい挑戦を恐れず、常に学ぶ姿勢を忘れない彼女の好奇心とバイタリティには、驚嘆の念を禁じ得ない。

 Iris Apfel(アイリス・アプフェル)
アイコニックな丸縁のメガネがトレードマーク。Photo by Desiree Navarro/Getty Images

デコラティブなジュエリーやカラフルな洋服をレイヤードするスタイルや、ハイ&ローミックスを楽しむアイリス独特のスタイリングには、そんな彼女の大胆で自由な性格がよく表されている。映画の中でもアイリスは、「よくスタイリングのルールを聞かれるけど、ルールなんてないの。あっても破るだけ。直感に従うことが全てよ」と名言を残している。既存のルールにとらわれず、自分自身の“直感”と“好奇心”を何よりも大切にする——この姿勢こそが、彼女が多くの人を魅了する理由だろう。

彼女の人生を支え続けた、生涯の夫、カール・アプフェル

 Iris Apfel(アイリス・アプフェル) Carl Apfel(カール・アプフェル)
夫、カール・アプフェルと。Photo by NICK HUNT / Patrick McMullan via Getty Image

最後にもうひとつ、彼女の人生を語る上で欠かせない存在として、最愛の夫であるカール・アプフェルにも触れたい。

良き夫であり、ビジネスパートナーでもあったカール。運命で結ばれた2人は、出会って1ヶ月で婚約、4ヶ月後に結婚というスピード婚ながら、その結婚生活は2015年にカールが100歳で亡くなるまで68年間も続いた。周囲も羨むおしどり夫婦として知られ、インテリアデザイナーとして活躍していた時期も、80代になりファッションの世界に身を置くようになってからも、カールはどんな時代もアイリスの良き理解者として長年彼女を支え続けてきた。アイリスに魅せられ、誰よりもファンであったのは彼だったに違いない。

ファッション業界に彗星の如く現れ、その生き方やファッションを通して、人々に人生を自由に冒険することの素晴らしさを教えてくれたアイリス。今は最愛の人、カールと再会していることを願って、心より冥福を祈りたい。

 Iris Apfel(アイリス・アプフェル) Carl Apfel(カール・アプフェル)
Photo by Joe Kohen/Getty Images
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