新時代のエレガンスとは? 2025-’26AWコレクションから見る新たな潮流

 「主張するエレガンス」の正体

上品で洗練されたルックが存在感を放った2025-’26年秋冬シーズン。それは単なる美しい服にとどまらず、前向きな強さを象徴するものだった。固定観念から自由になるフォルムが身体を受容し、快適さを備えたデザインが現代を生きる私たちの気持ちを代弁する。各ブランドが新時代のエレガンスに込めたメッセージとは?

 「主張するエレガンス」の正体

上品で洗練されたルックが存在感を放った2025-’26年秋冬シーズン。それは単なる美しい服にとどまらず、前向きな強さを象徴するものだった。固定観念から自由になるフォルムが身体を受容し、快適さを備えたデザインが現代を生きる私たちの気持ちを代弁する。各ブランドが新時代のエレガンスに込めたメッセージとは?

GIVENCHY

2025-’26AWコレクション GIVENCHY

モダンウーマンは気品と自信をまとう

サラ・バートンがアーティスティック・ディレクターとして手がけた初のコレクションは、"強さと美しさ"が両立することの証明となった。軸となったのは、研ぎ澄まされたシルエット。得意のテーラリング技術を駆使したジャケットは、パワーショルダーと、ウエストを強調するアワーグラスラインが共存。また、緻密な仕立てとは対照的に裾は切りっぱなしだ(1)。トラウザーには、センシュアルなスリットを施し、クチュールライクなレースドレスは潔いミニ丈に。多面的な表情を落とし込んだ服は、しなやかに常識を覆す。それは、着る人が自身を解放することをも肯定する。

2025-’26AWコレクション GIVENCHY

2 ユベール・ド・ジバンシィのエッセンスを象徴するリボンは、形状記憶のペーパーレザーで表現。ビッグサイズ、かつグラフィカルな形にモダナイズされた
3 50年代のクチュールドレスをフレッシュなマイクロミニ丈に刷新。軽快なバレエシューズとのスタイリングに自立した人物像を感じ取る
4 新しい時代の幕開けを告げるかのようにリニューアルされたロゴ。バングルをはじめ、トップス、靴と至るところに配された

PRADA

2025-’26AWコレクション PRADA

真のフェミニニティを探求する

「現代における女性らしさとは何か」。本コレクションはこの問いから出発する。ショーのテーマは「RAW GLAMOUR」。シャツやスカート、ハイヒール、ドレスなど普遍的で上品なスタイルに、ほつれやシワ、エイジングレザーなどを用いて生々しく未完成な美しさを表現した(8)。ジュエリーやリボンなど随所にちりばめられたフェミニニティを象徴するアイテムが、粗野なディテールとの間にコントラストを描き、予定調和ではない緊張感を持つ複雑な魅力を引き出している。何層にも重なる矛盾を内包し、問いを投げかけ続ける女性像がこれからのエレガンスを牽引する。

2025-’26AWコレクション PRADA

5 50年代のデザインをベースとしながら、広くとったネックラインやドロップショルダーが違和感を生む
6 素足にフラットなローファーやモカシンを合わせた軽快感のあるスタイルも多く見られた
7 ニットトップスには花やバロックパールなど異なるモチーフのチャームを組み合わせた。同じモチーフをセットで使用するジュエリーの伝統的手法「パリュール」を崩す意図がある

"主張するエレガンス"を構成する6つの要素

今シーズン、エレガンスを新たな次元に押し上げたのは、女性らしさへの現代的な解釈。上品でシックなスタイルの中にある静かなる強さが、どのように表現されていたのか読み解く

1 シルエットで再定義するフェミニニティ

2025-’26AWコレクション

女性の身体性をどう表現するか、デザイナーの感覚が垣間見えた今季。ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』を着想源にしたディオール(1)は、レザーのカットワークで装飾された「8ライン」をメインにショーを構成。カーヴィなシルエットを強調しながらも、性差を乗り越える力強さにあふれていた。先端の尖った円錐形のコーンブラが話題になったミュウミュウ(2)や、「女性の自由を讃える」ことをテーマにし、ファージンゲール風のスカートが登場したアライア(3)では、自分の体の形を自身で自由に決める意志が感じられた。

2 スウィートなだけじゃないリボン

2025-’26AWコレクション シャネル

時にさりげなく時に大胆に、エレガントなリボンモチーフは多くのブランドが用いていた。中でもアーティスティックに探求していたのがシャネル。会場のグラン・パレには、舞台美術デザイナーのウィロ・ペロンによる大きなボウのインスタレーションがランウェイをふんわりと囲うように配され、あらゆる手法のリボンが登場した(4)。グラフィカルなプリントには部分的にきらめくビーズを施し、躍動感を表現(5)。普遍的なモチーフの無限の可能性を示唆。

3 プライベートな会場から放つメッセージ

2025-’26AWコレクション

インティメイトな距離感で素材や小物使い、スタイリングの機微まで堪能できるよう、ショーの見やすさにこだわったブランドも。来場者全員がフロントロウに座る工夫をしたトッズ(6)は、しなやかでツヤのあるレザーの質感が際立っていた。MM6(7)ではモデルが観客にスタイルやディテールを見せつけるようにゆっくりウォーキング。KENZO(8)はアトリエであるオテル・パティキュリエの親密な空間で、ショーを開催した。各テーブルを至近距離で回りサロン風の演出に。

4 柔らかさで体を包むソフトパワー

2025-’26AWコレクション

丸みを帯びたシルエットのムーブメントは続行。ただし、快適さを担保しつつより上品に仕上げる方向に進化した。ロングコートやドレスが頻出したマックスマーラ(9)には頭からかぶれるニットアウターが登場。スポーツマックス(10)はアウターと同素材の柔らかいファーのストールにくるまれた。ワイヤーやクリノリンを使わずチュールで膨らませたサンローラン(11)のボールスカートは歩くたびにバウンス。エレガンスと心地よさを両立した。ルイ・ヴィトン(12)はニットのマントとボディスーツで「空想の旅人」を表現。洗練されていながらも自らの体の心地よさを守る姿勢がある。

5 ラフなヘア&タフなメイク

2025-’26AWコレクション

シックなスタイルにテンションの異なるヘアやメイクアップを施し、違和感を残す手法も目立った。ザ・ロウ(13)は顔のほとんどを覆い隠すドライヘア、プラダ(14)は無造作なヘアで退廃的な雰囲気を盛り上げた。ジル サンダー(15)ではリボンやレースなどフェミニニティを強調するルックでも、太いアイラインと血色感のないリップで内面の強さを残した。見る人の意表をつくムードづくりで、型にはまった淑女ではないことを表している。

6 ヴィンテージのエッセンス

2025-’26AWコレクション

かつての輝かしい時代のエッセンスから、エレガンスの真髄を学び取る向きも。アレッサンドロ・ミケーレによるヴァレンティノ(16)は得意とするヴィンテージテイストをモダンにアップデート。フェンディ(17)やグッチ(18)では、ファーコートとランジェリートップを掛け合わせたゴージャスでロマンティックなルックが目を引いた。過去の記憶と今着たいものを融合させたクロエ(19)は繊細な装飾の豪華絢爛なアイテムをエフォートレスに取り入れた。