ドリス ヴァン ノッテンのクリエイティブ・ディレクターに2024年任命されたジュリアン・クロスナー。デザイナー新時代の幕開けを確信させる柔和な雰囲気で、"チームワーク"を強調する。新生ドリスへの思いをじっくり語ってくれた
ドリス ヴァン ノッテンのクリエイティブ・ディレクターに2024年任命されたジュリアン・クロスナー。デザイナー新時代の幕開けを確信させる柔和な雰囲気で、"チームワーク"を強調する。新生ドリスへの思いをじっくり語ってくれた
楽観的かつジョイフルな 気分をダイレクトに伝えたかった
——60年代を彷彿とさせるモチーフが見られましたが、なぜ今60年代に着目したのですか?
J 今回コレクションにもたらしたかったのは、楽観的でジョイフルなムード。60年代というのは文化的に、希望に満ちた空気が広がっていた時代です。当時人々は比較的シンプルなシェイプとスタイルで、あふれる色、大胆な柄を表情豊かに取り入れていた。今回はそんなオプ・アートのパターンを、濃淡や大きさで遊ぶという方法を採りました。
——確かに希望と喜びを感じるコレクションでした。どんな願いを込めたのですか?
J ’25 年6月にファーストメンズコレクションを発表した際、それを見た人々から、同じように「すごくジョイフルで楽観的なコレクションですね。何か意図はあるのですか?」と聞かれたんです。しかしチームと初めて取り組んだこのメンズコレクションは、むしろ直感に任せて作っていったところがあります。だからそういう反応は予想外で、とてもうれしかった。その反応が、ウィメンズの起点になりました。とはいえデザイナーは、世界で起きていることから知らず知らずのうちに影響を受けるものです。「ジョイフルなものを」という気持ちは、今の社会での出来事へのリアクションだったのかもしれません。
——ショーの前半はニュートラルトーンでしたが、それが後半には強い色のクラッシュへと移り変わっていくのが印象的でした。
J 今回のショーのBGMは、今夢中になっているフィリップ・グラスによるサウンドトラックを採用しました。実は今夜、彼のコンサートがベルギーであるのです。行けなくて残念ですが、こうして東京に来られたことも素晴らしいのでよしとします(笑)。その曲は後半に進むにつれてクレッシェンドを描いていくのですが、コレクションも同様に繊細に始まって、後半に行くにつれてボリュームを上げていくような仕立てでいこうと考えたのです。同時にサンセットを思い浮かべました。夕日が沈む光景は、毎日見られるもので、特別なことではない。でも見るたびに雄大なエネルギーをもたらしてくれますよね。夕日はさりげなく、静かに始まります。しかし突然、空が色で満たされる。その様が、コレクションのカラーパレットに生きています。
——メンズコレクションについて、「アンダン(やりすぎでない)」と表現していましたが、このムードは個人的な好みですか? ブランドのアイデンティティでしょうか?
J イブニングパーティを思い浮かべてください。メンズの場合は全員が同じようなシャツ、スーツを身につけています。しかし終わりに近づくにつれて、着こなしにそれぞれのパーソナリティが表れてきます。ある人は袖をまくり、ある人はタイを緩める。このような各々の表現を奨励するのはブランドのスピリットですね。着こなしが「アンダン」になったとき、そこに少しだけ個性が垣間見える。その瞬間が、個人的にも好きなのです。
——ところでこれまで複数のコレクションで白い襟のライナーを見かけましたが、これはジュリアンさんのシグネチャーでしょうか?
J 実は、すでにドリスが10〜15年前にメンズコレクションで取り入れていたんですよ。私たちの服は、たくさんの色、柄、質感を用いているので、顔まわりにこのようなクリーンな白が入ると着る人をフレッシュで素敵に見せてくれます。きらびやかなスーツに白シャツを差す感覚です。小さなディテールですが、気に入っています。
強固なチームの築き方を早いうちから学ぶベルギーの教育
——ベルギーの国立美術学校「ラ・カンブル」で学ばれましたね。最も心に残っている出来事は何でしょう?
J 実はこの学校、入試が変わっているんです。100〜200人の学生が、数日間かけて服作りを行います。そこで作った服を、週の最後のファッションショーで、自分自身で着てお披露目するんです。ランウェイも歩くんですよ! クレイジーですよね。最終日にほかの学生がどんな服を着ることになったのかを、今でも鮮明に覚えています。ラ・カンブルはとても小規模な学校。お互いが常に助け合い、卒業する頃には絆が深まります。卒業生が教えに来ることも頻繁。私はマチュー・ブレイジーが講師を務めたワークショップに参加したんです。すでに活躍している若いデザイナーから目の前で学ぶことができるのは、この上なくぜいたくな機会でした。
——今ファッション業界を率いる多くのデザイナーがベルギー出身ですね。そこには何か共通点があるのでしょうか?
J よく聞かれるのですが正直わからないんです。でもベルギーの服飾学校ではかなり早い段階から、アトリエでチームとして働く方法を教わります。もしかするとその実践的なチームワーク教育が、今日のベルギーデザイナーの成功につながっているのかもしれません。
——卒業後は、ジョン・ガリアーノ率いるメゾン マルジェラで働いていましたね。
J ジョンはどんなに単純な作業でも、すべての瞬間をファッションモーメントにしてしまう。シンプルなTシャツのフィッティングですらも。たとえば、モデルがポケットに手を入れる仕草。彼女はポケットの何かを確認したかもしれないし、どこかへ歩き始めるかもしれない、と想像を膨らませます。常に服を物語のなかに位置づける。まるで演劇を作りだすように。素晴らしい学びを得ました。
挑まれることが好きだった、 ドリス・ヴァン・ノッテン
——かつてドリス・ヴァン・ノッテンは、あなたについて「新しいアイデアを提案するのがうまく、また説得することに長けている」と語っていたそうですね。
J ともに働いていたとき、ドリスとはまるで卓球のように多くの会話を交わしました。朝議論して意見が違っても、あらゆる角度から話し合うことで、その日の最後に一致することもある。彼を説得するには、「これが好きだ」と言うだけではダメで、なぜ好きなのかを言葉を尽くして説明しなければなりません。私たちは意見の相違に妥協点を見出し、お互いによい影響を与え合える関係でした。そしてドリスは、メンバーの意見を忌憚なく取り入れ、自分の方法に統合させていく卓越した才能を持っています。彼は、チャレンジされることが大好きです。「私がやってきたことをそのまま行う人は必要ではない」とよく言っていましたね。挑まれ、反対され、ショックを受ける。そういうことでしか人は学ばないとも語っていました。
——そんなふうにメンバーが自由に意見できる環境を築き上げるリーダーは稀有ですね。
J そうですね。デザイナーは一人で働いているわけではありません。チームで働いています。チームがよくなければデザインは決してよいものにならない。だから、メンバーには発言する機会を与えるべきだと思います。そして私も同様に、ドリスに選ばれたのだから、自分が思っていることを声に出して伝えなければと考えていました。
——チームに加わったばかりのときからそうだったのですか?
J さすがに最初は謙虚でいたかったので、周囲を観察するところから始めました(笑)。
——ドリス・ヴァン・ノッテンから受け取った言葉で、心に残っているものは?
J 彼から学んだ教訓は多すぎて数えきれません。でもブランドを任されたときの、「やりたいことをなんだってやっていい。ただし“Soul of the House(ブランドの魂)”は守ってほしい」という言葉は特に大切にしています。
——ブランドの魂とは何でしょうか?
J その答えについて今もずっと考え続けているんです。でも、それは言葉というよりは、感覚的なものなのかもしれません。
——今日の社会におけるファッションデザイナーの役割とは何でしょうか?
J ファッション業界で、自分がやっていることに疑問を持つことは、当たり前だと感じています。頑張って服を作っているけれど、じゃあそれにどんな価値があるのだろう?と。しかし、美、ファンタジー、JOY(喜び)の力を過小評価するべきではありません。デザイナーの責任とは、人々に希望と、欲望をもたらすことなのです。
——この号のテーマは「2026年の予言」です。2026年のファッションを予言するならば?
J 今私たちは、移り変わりの時代に立っています。私はファッションがポップカルチャーをはじめとした文化をけん引する時代に育ちました。パンデミックで少し状況が変わりましたが、ファッションが再びカルチャーの中で重要性を取り戻し、時代の先端を行き、リスクを取り、クリエイティビティを最優先する時代が来るだろうと信じています。
ベルギー出身。2016年にベルギーの国立美術学校「ラ・カンブル」の学士・修士課程を修了。トム ブラウン、ケンゾー、メゾン マルジェラでキャリアを積み、2018年にドリス ヴァン ノッテンのウィメンズデザインチームに加わる。2024年12月、ドリス・ヴァン・ノッテンの後任としてクリエイティブ・ディレクターに任命された。





