【ユニクロ：シー】の魅力を改めて深掘り。クレア・ワイト・ケラーが語るデザインと哲学

コレクションの進化とZ世代へのアプローチ

ユニクロ：シーのファーストコレクション発売から2年。クレアの目に映るユニクロ：シーはどのように変化してきたのか。

「ユニクロ：シーのコレクションはかなり進化していて、私にとってもシーズンごとに面白くなってきています。特に、去年の秋にメンズコレクションをスタートしたことでジェンダーのクロスオーバーも生まれ、女性のお客様がメンズアイテムを購入したり、その逆もあり。またユニセックス展開のアイテムも多いので、皆さんがコレクションを幅広く楽しんでくださっているのがとてもエキサイティングです」

ファッションに興味がある人なら、メンズコレクションのスタートと同時に発表された、ユニセックスの「スウェットオーバーサイズプルパーカ」＆「スウェットワイドパンツ」のセンセーションを覚えているに違いない（※継続展開で、2025年秋冬コレクションでも新色を含め発売中）。一見、カジュアルなアイテムに世界中の関心が寄せられたことへの率直な感想は？

「狙い通り、というかそれ以上でした（笑）。どちらも大好評で欠品になりましたし、大きな成功だったと思います。多くの人に受け入れられた理由は、素材の力、それからモダンなデザイン。スウェットの裏地は通常、パイル地や起毛素材であることが多いですよね。でもユニクロ：シーのスウェットはダブルフェイス仕立てで、クリーンでとても新しかった。テーラリングのように見えながらもジョギングパンツのコンフォートさがあり、ここに若者がリアクションしてくれたのです。

これまで、ユニクロ：シーのお客様は30-40代が中心でした。ところが最近は、ここ韓国でもヨーロッパでも同様ですが、たとえば15歳などとても若いZ世代からも関心が集まっていると聞きます。フーディやパンツをきっかけとしたリアクションが、コレクション全体に対する彼らの印象に影響を与えてくれたのでしょう。ちなみに色違いで買ってくださる方も多いそうで、一番人気はライトグレー。スウェットとしてクラシックなカラーですよね。この成功はエキサイティングだったのと同時に、若い人々のほうが素材とルックに敏感に反応することがわかり、これらについてしっかり考えていかなければ、という気づきにもなりました」

テーマは「Modernity in Motion」、機能とデザインの幸せな融合

2025年秋冬コレクションは、日常のワードローブに求められる動きと機能を軸にデザインされた。英国のツイードなど伝統的な素材に着想を得ながら、テクノロジーとモダンなカラーパレットを掛け合わせることで、フレッシュなトラッドスタイルを提案。また、ユニクロと東レの共同開発による高機能中綿「PUFFTECH（パフテック）」素材のアウター、防水性・防風性・透湿性に優れた「ブロックテック」を採用したパーカなど、テクニカルな要素をモダンなシルエットのアイテムに落とし込んでもいる。好評のヒートテックカシミヤインナーに初のメンズアイテムが登場したこともトピックのひとつだ。時には対立もしうる機能とデザインのバランスについては、どのように考えているのか。

「私にとって、機能性とデザインが調和していることがとても重要です。新たなコレクションに取りかかる際はまず素材から着手し、ウェイトや手触りについて考えます。その上で、ドレープや構築感、動きについてなど、素材メーカーと対話を重ねていきます。この対話は開発において、とても重要なパートです。いくら機能性に優れていても、素敵に仕上げられなかったら意味がありませんから」

ユニクロ：シーとユニクロ、それぞれのものづくり

昨年の秋には、ユニクロのクリエイティブ・ディレクターにも就任。間違いなく世界でもっとも多忙なデザイナーのひとりであるクレアは、ユニクロ：シーをどのようなコレクションとして捉えているのか。

「ユニクロ：シーでは、ユニクロのメインラインとは異なるアプローチをとっています。ユニクロ：シーはいわば“インキュベーター”。新しいテクニックやテクノロジーを取り入れたり、いろいろなアイデアを実験し、うまくいったものを追ってメインラインでも展開する、といったように。とはいえ、メインラインではより普遍的でエッセンシャルなワードローブを提案する必要があり、ここは変わってはいけないと思います。ユニクロの店舗では常に、パーフェクトなTシャツや白シャツ、黒パンツが手に入らないと。もちろん、シーズンごとに少しだけ、ファッションのエッセンスを加えたり、アレンジもしてはいるのですが」

パリのメゾンブランドを歴任した経験とユニクロでのものづくりの違いや面白さについては、プロセスは非常に似ているものの、ユニクロではよりテクノロジーを意識する点が異なる、と語った。「ユニクロは常に機能性やパフォーマンスに力を入れており、これは私にとって新しい領域であり、エキサイティング。東レのような専門的な素材メーカーと協業できること、また完成したアイテムを全ての人に手の届く価格で提供できるという点も素晴らしいと思います」。

そして、ユニクロでの最大のチャレンジは「Editing（編集）」なのだとも。

「デザイナーとしては当然、たくさんのアイデアを形にしたいのですが、ユニクロのコレクションとして完成させるには、かなりフォーカスして編集しなければなりません。たとえば10型のジャケットがあったとして、6型しか生産できないとなると、4つは落とす必要がありますよね。選択しなかったアイテムについても、場合によっては次シーズン以降に改めて検討するなど、先も見通しながらの編集が一番大変ではあります。時にはフラストレーションを感じることも。それでも、お客様のニーズを汲みとった訴求力のあるプロダクトを世に送り出すという点では、大切なプロセスだと思います。

私にとって、販売価格がクリエーションの制約になっているとは思いません。素材メーカー、サプライヤーとの素晴らしい関係があり、常にたくさんの選択肢があるからです。そして、シンプルさこそがユニクロの最大の特徴。すべてをパーフェクトに、余分なものを省くという哲学はとても日本らしいと感じます。装飾のためだけに存在するものはなく、無駄を削ぎ落とした結果としてのシンプルなプロダクトは素晴らしいと思いますし、そこに至るまでのプロセスが苦しくもあります」

クレア流ユニクロ：シーの楽しみ方、そして未来への展望

インタビューの席では、最新コレクションのプリーツスカートに前シーズンのメンズVネックニットをスタイリングしていたクレア。コレクションビジュアルを見ればわかる通り、ユニクロ：シーの魅力のひとつは絶妙なスタイリングにあるが、彼女自身のお気に入りアイテムについても聞いてみた。

「私自身はカシミヤのアイテムを毎シーズン買い足しています。どんなスタイルにも合いますから。それから、新しいコートあるいはジャケットもおすすめです。合わせるアイテムが最新のものでなくても、上着が新しくなるとスタイリングがフレッシュになります。同じように、シャツもレイヤリングのキーになると思います。首もとにブルーや白を加えるだけで、簡単に今年らしいムードを出せますよ」

また、彼女はシーズンをまたいだ補完性も重要視している。「毎シーズン、新しいアイテムを提案しながら、前のコレクションと組み合わせて調和するかどうか、というのも意識しています。ユニクロ：シーのコレクションはどのシーズンともコーディネートが可能で、私自身も最初のコレクションから着続けているものもあります。オプションのたくさんある世の中だからこそ、できるだけしっかり心を配って編集しているので、少しずつ新しいアイテムを買い足していってもらえたら。これはおそらく服を着る上でのモダンでサステイナブルなアプローチでもあると思っています」。

巨大なグローバル企業、ユニクロを率いていく立場として、今後の課題と挑戦については？

「大きな課題のひとつは、ユニクロでの仕事をどうやってもっとサステイナブルにしていくか。特にメインラインでは、リサイクルできて分解も可能な天然素材の採用、そしてできるだけ環境に負荷のかからないよう、生産プロセスの改善やエコフレンドリーなあり方の探求にも力を入れています。中には『大きいものは悪いものだ』という意識をお持ちの方もいるかもしれませんが、私も実際に中に入ってみて驚いたのが、ユニクロが設定している品質や素材、そして環境への影響についての基準がものすごく高いということ。これらの取り組みによって、サステイナブルな未来に向かえるようなアプローチを心がけています」

最後に今回、コレクションの立ち上がりをソウルで迎えたことについては、「これまでの2年間で、ソウルには4,5回足を運んできましたが、とてもインスピレーショナルな街だと思います。K-POPやドラマなどが西洋のマーケットにもインパクトを与えているだけでなく、ストリートスタイルも最先端。先進的で、表現がうまく、合わせ方も面白いので、カフェで人間観察をしていてもすごく刺激になります。ユースカルチャーのるつぼがここにある、という気がしています」と語った。

ユニクロ：シー 2025年秋コレクション第2弾アイテム一覧