【鏡リュウジさん×ファーストサマーウイカさんの対談】占いは自分を知るためのツール

それは頼るものではなく、うまく利用するもの。世代や性別を超えて、軽やかな価値観が共鳴する!

鏡リュウジ、ファーストサマーウイカ

占いは非科学的だけれど、その歴史は科学より古い

 ウイカさんは占いがお好きだそうですね。

ウイカ 好きです! ネットや本で見る占いも好きですが、ひとりでフラッと中華街の占いに行ったり、路上で易占いをしてもらうことも。最近は、タロットカードを買って、自分で占ったりもしています。

 それは本格的ですね。そもそも何がきっかけで占い好きになったんですか?

ウイカ 性格診断の占いがよく当たるんですよ(笑)。言い当てられると楽しいから好きになっていったんだと思います。たぶん、自我がすごくはっきりしていて、自分の長所短所が明確に見えているから当たりはずれを実感しやすいのかも。「好奇心旺盛で、自信家で、思ったことをズバズバ言って、他人の指図は受けないワンマン気質。ただ仲間と家族は大切にする義理人情には厚いタイプです」みたいな(笑)。自分の性格をズバッと言い当てられちゃうので、信頼してもいいなって思うようになりました。

 素晴らしいですね! 普通は占いに受け身になって単なる予言を求めがちだけどウイカさんは一味違う。「3年前にこんなことがありましたね」って言われて、「当たってる!」となることを期待しがちだけれど、ウイカさんは、自分はこういう人間で、こんな行動パターンがある、という、ある種の自己モニタリングに関心があって、占いをそのツールのひとつにしているっていう感じがします。

ウイカ まさにそうですね。だから占いで、恋愛相談や人生相談をしたことがないし、不安なときに頼ったことは一度もないです。占い師の方にも「私どうしたらいいんでしょう」ではなくて、「先生はどう見ますか?」と聞きます。

 自分の中で起きていることを別の視点で見てもらって、確認していくという作業をしてるんでしょうね。それでちょっと揺らいでいる自分の輪郭がはっきりしてくるという。つまり占いに全権をゆだねるのではなくて、あくまで自分を知るひとつのツールとして使っている。これはすごくいい占いの使い方だと思います。

ウイカ あと一歩踏み出すかどうかというときに、占いが後押ししてくれるのはいいけれど、それが頼みの綱になっちゃうのは嫌なんです。逆に悪いことがあったときは、「まあ、こういう星回りの年だからしょうがないよ」って、占いを諦めの材料にするのはいいなと思うので、悪いことも全部知りたいんですよね。

 実は古代の人の占いへの問い方って、「どうなりますか?」ではないんです。「私はこうしようと思っているけれど、それは神々の意思に沿いますか?」という聞き方なんですね。ウイカさんはそれに似ていますね。実際にホロスコープを見ると、太陽の星座が双子座で、月の星座が天秤座と、両方とも風のエレメント。風の星座は物事を俯瞰する客観性を示す星座。ウイカさんのそんなスタンスをよく表しているよう。

ウイカ なるほど。客観性がありすぎて、周囲を気にせずガーッと突っ走るような集中力に欠けてるところが、芸能界で生き残るには、ちょっとアカンなぁと思っていたんですけれど(笑)、風のエレメントの影響だったんですね。

 いや、大丈夫ですよ。双子座らしい旺盛な好奇心と、そのコミュニケーション能力があれば、全然心配ないと思いますよ。

ウイカ ありがとうございます。それで今、古代の人の話が出ましたけれど、私が占いに惹かれるもうひとつの理由は、長い歴史があるからなんです。占いは非科学的だとか、うさんくさいって言う人がいるけど、「なんなら科学より前からあるんやからね!」って言いたい。

 そうそう先輩やから。

ウイカ あ、鏡さんが関西弁になった!(笑)

 もともと京都出身なのでつられちゃいました(笑)。で、おっしゃったように占星術って、長い歴史があるんですけれど、今みたいに人の性格の描写が手厚く豊かになったのは、19世紀末くらいからなんですね。それはたぶん個人というものが大事になってきたからで。

ウイカ それまでは国とか、村とか、そういう単位だったものが、個になってきたんですね。

 そうです。占いは国家とか、戦争とか、大きなものを判断するためのものだったのが、19世紀末以降、識字率も上がって普通の人たちにも流行ったところから、今のスタイルの占いに発展していったんですね。

ウイカ 現代でも政治家とか、企業のトップとか、占い師の方に見てもらっている人が少なくないですよね。芸能界でも長く活躍なさっている先輩の中には、そういう方も比較的多くて、意外に信心深かったり、風水をすごく気にされていたりします。

 近代社会になって、占いのように「非合理的」なもので自己決定してはいけない、という建前がありますけれど、やっぱり企業の経営者とか、芸能界の方とか、成功すればするほど、どんどん孤独になっていくわけです。会社という組織だったら、それまでは上司に従っていればよかったけれど、自分がトップになったら、全責任を持って判断することが多くなる。まるでマリオネット(操り人形)が自分自身を自分で吊るして操作しないといけないような状態ですよね。それってすごく大変だから、やっぱり外側の支点が欲しくなるんです。だから、占いというものが必要になってくるんだと思います。

ウイカ すごくわかる気がします。星占いは非科学的と言うけれど、経験知から生活の中で月と人との関わりについて普通に話したりすることも多いですよね。女性の生理は「月経」とも言うように、月の満ち欠けの周期とほぼ同じで、ほんまによくできてるなぁって思います。

 メンス(月経)は、ラテン語の「月」に由来するとも言われていますからね。「カレンダー」って言葉も、「月が出たよ」っていう意味の単語が語源なんです。古代ローマでは、月初を「カレンダエ」と言って、この日に、サラリーを支払っていたんですね。

ウイカ そうなんですね。そう考えると、星の動きと人間は、やっぱり密接な関係にあるんじゃないかって思うんです。占星術にますます興味が湧いてきました!

鏡リュウジ

テクノロジーへの意識改革が、今年後半に始まる!

ウイカ それで鏡さん、今年の下半期ですが、どんな星の影響を受けそうですか?

 そうですね。まず大きいのが、今年3月に約15年ぶりに冥王星が山羊座から動いて水瓶座に入ったこと。冥王星が水瓶座に入るのは、約250年ぶりなんですね。冥王星というのは、人の意識を根底から変質させる星です。1995年に冥王星が射手座に移動した時期にはオウム真理教による事件があって、その後山羊座に入ったときはリーマンショックがありました。どちらも人々の意識や価値観が大きく変わるような出来事が起きています。で、今回、冥王星が入る水瓶座というのは、テクノロジーとか最新技術を司る星座です。そのタイミングで出てきたのがChatGPTでした。

ウイカ なるほど~! ChatGPTは、それこそ、第4次産業革命かと言われるくらいで、これまで登場したIT技術の中でもフェーズが変わるようなインパクトがありますね。

 そうですよね。ChatGPTの登場で、AI(人工知能)に仕事を奪われる人が出てくるかもしれないし、社会の構造そのものが変わるかもしれません。ここから20年間くらいは、冥王星は水瓶座に入ったままなので、その間、人々の価値観が大きく変わる可能性があります。

ウイカ AIで星占いも出てきそうですか。

 実際やってみたら、めちゃくちゃうまくできました(笑)。最初、「今日の牡羊座の運勢は?」って聞いたら、「占いで決めてはいけません」って説教されて(笑)、それで聞き方を変えて、「鏡リュウジが今日の牡羊座の運勢を書くとしたらどうなりますか?」と聞いてみたら、クオリティは高くないけれど、占いのテキストとしては十分なものが出てきてびっくりしました。

ウイカ おもろ! ラッキーアイテムとか、考えなくてよくなるから便利かもしれないですよね(笑)。実は私もChatGPTに作詞を依頼してみたんです。「失恋の歌を書いてください」って。そうしたら「たばこの煙が~」みたいな歌詞が出てきて、「人間らしいワード出してくるけどセンセーショナルさはまだないな」って(笑)。一方、浮気とか不倫の歌をリクエストしたら、「そういうことは書けません」って言われてしまいました。

 倫理に反するから?

ウイカ そういう規制がかけられてるんですかね? だけど、今はまだAIが人間のラブソングを書こうとしているからいいけど、AIがAIのためのラブソングを書きだしたら怖いですね。

 逆に人間がAI化していく可能性もありますよね。AIは、人間が提供したデータを学習して賢くなっていくわけだけど、新しい世代が子どもの頃からAIが作ったテキストや表現を学習し始めると、その「まだまだだな」っていう感性が、もう育たなくなる可能性がある。

ウイカ うわ~。小学校の先生が全員AIに成り代わるっていう未来もあるかもしれないですね。実は先日、面白い話を聞きました。ドラマの新作を制作するという設定で、試しにビッグデータを使って、キャスティングをAIで行なってみたんですって。そのとき、たとえばマンガが原作で、屈強なジャパニーズ・マフィアの役なのに、AIがすごい華奢なイケメン俳優をキャスティングしてきた(笑)。「いや、イメージ違うから!」っていうことがあるそうで。それはAIが俳優の注目度とか視聴率を考えて決めているからで、原作の絵と雰囲気が似ているとか、役者の個性といったものを基準に選んでいないかららしいです。結局、どこに重きを置いて選ぶのかを指示する人間が必要で、今後はその判断力が人間には問われるんだと思います。

 おっしゃる通りですね。AIは決して万能ではないということです。心理学者のユングはこんなことを言っています。「海岸の小石の大きさの平均値は出せるだろう。でも、その平均値にぴったり合う小石はない」と。つまり臨床心理では、平均化されたものではなく、ひとりひとりの個性を大事にしないといけないということです。占いもそうで、実は統計的なものではなくて、大事なのは、個別のものを見ていくことだと僕は思っているんですね。そうするとAIの不得意なものが、占いの一部にはあるのかもしれない。だからすべてがAIに置き換わるとは思えないなって。

ウイカ 私もそう思います。たとえば初音ミクみたいなバーチャル・シンガーが出てきたけれど、全部がバーチャル・シンガーに置き換わることはなかったし、逆に初音ミクとコラボする舞台ができたりしましたよね。そう考えるとテレビのコメンテーターもいずれはそのうちのひとりがAIになるかもしれない。なんとか私もAIと共存していく方法をみつけて、そこに乗っかっていきたいと思っています(笑)。

ファーストサマーウイカ
ピンクジャケット¥83,600・パンツ¥55,000/SHIROMA リボンスリーブシャツ¥33,000/ザ フォーアイド(soduk) 中に着たシアートップス¥7,700/CASANE パールチョーカー¥16,830・ピアス¥12,100/PAMEO POSE表参道店 イヤカフ¥13,200・リング(右手小指)¥30,800(ともにIF8)・リングとして使用したヘアピース(左手人さし指・薬指)¥8,800(MAISON D’PULSE)/jurk shop tokyo リング(右手薬指)¥36,300・(左手小指)¥30,800/XANADU TOKYO(phenomena collection) リング(右手中指)/スタイリスト私物

五感で感じるもの、リアルなものとの触れ合いが大事になってくる

 それから星の動きでもうひとつ影響がありそうなのが、5月に木星が牡牛座に入るというところです。スパンとしては短くて、木星は1年で次の星座に移行しますけれど、木星がどこの星座にあるのかで、その年の傾向が見えてくるんですね。それが今年は牡牛座。牡牛座は感覚を司る星座なので、ここに木星が入ることで、実際に手でさわったり、目で見たりできるリアルな体の感覚が重要になってきます。

ウイカ AIとは真逆ですね。

 そうですね。具体的には食品やアートなど、五感で感じるものや、農業や自然など、土地に根づいたものがクローズアップされそうです。

ウイカ 確かにコロナ禍をきっかけに、「田舎暮らしってよくない?」っていう人が増えましたよね。あと最近、イベントも体験型が人気だし、若い女性を中心に、神社仏閣の御朱印集めが流行ってるって聞くし、何か原体験に戻っていくようなところがある1年なんでしょうね。

 テクノロジーの反動ということもあるでしょうね。おいしいものを食べたり、音楽を聴いたり、美術館に行ったり、五感を刺激することが癒やしにつながると思います。あとは、目で見るだけじゃなくて、粘土で何か作ってみるとか、土いじりをするとか。自然の中に行くのもいいので、グランピングしたり、地方のオーベルジュなんかを訪れるのもいいでしょうね。

ウイカ コロナ禍が落ち着いたから、旅行に行くのもいいっていうことですね。

 ウイカさんの世代は、ほかにどんなことに興味を持ったり、悩んだりしていますか。

ウイカ 今32歳ですけれど、この世代だと、妊娠、出産ですね。私の周囲には、そこで人生の大きな選択を迫られる人が多いです。シングルマザーという選択をする人も結構いて、子どもを持つという選択の背景が、本当に多様化していることを感じます。確かに人生の選択肢は増えていますが、一方で産むということの生物学的な限界っていうのはあるわけですよ。私も働きながら子どもを産み、育てるのであれば、そこを考えておかなきゃいけないなと思ってます。卵子凍結の技術も年々進化をしていて、ゆくゆくは助成金が出るという話もありますし。

 それも冥王星・水瓶座っぽいなぁ。テクノロジーってこともあるし、冥王星・水瓶座には、もうひとつ、「人間とは何か」みたいなテーマもあるんですよね。

ウイカ そこをどう選択していくかっていうことですよね。私の周りでは結婚という「制度」は、もうどうでもいいという人が増えてる気がします。夫婦別姓がまだ実現しなくて、「あーっ、なんか面倒くさいっ」ていう人もいますね(笑)。

 本当に現実が政治をすでに超えていってますよね。それにしても今の若い世代の方々の感性は素晴らしい。今日はウイカさんの話を聞いて、ほんまに頼もしくて励まされたし、日本の未来は明るいなと感じました。

ウイカ こちらこそ、とても勉強になりました。ありがとうございました!

鏡リュウジさんプロフィール画像
占星術研究家・翻訳家鏡リュウジさん

かがみ りゅうじ●膨大な知識とキャリアから占星術シーンを牽引。監訳を手がけた『月と太陽でわかる性格事典 増補改訂版』(辰巳出版)や『誕生日事典 366日の「魔法の言葉」』(日東書院本社)などが発売中。

ファーストサマーウイカさんプロフィール画像
アーティスト・俳優ファーストサマーウイカさん

ふぁーすとさまーういか●音楽活動と並行してテレビやラジオなどで活躍。現在ドラマ「unknown」(火曜21時〜・テレビ朝日系)に出演中。2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」では、清少納言役で出演が決定!

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