星の導きにより1947年にオートクチュールメゾンを設立したムッシュ クリスチャン・ディオール。そのDNAを受け継ぐヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌのジュエリーは、なぜ私たちの心にエモーショナルに訴えかけてくるのか。夢のあるコレクションからその魅力を探る。
※この特集中、以下の表記は略号になります。YG（イエローゴールド）、WG（ホワイトゴールド）
（右から）「ローズ セレスト」リング 月〈YG、WG、ダイヤモンド、オニキス、マザー・オブ・パール〉￥500,000・リング 太陽〈YG、ダイヤモンド、マザー・オブ・パール〉￥500,000
月と太陽をモチーフにした、ロマンティックなコレクション。オープンスタイルのリングは、対になったメダリオンとダイヤモンドが可憐な手もとを演出。イヤリングは左右がアシンメトリーとなっていて、物語を想起させる個性的な佇まいに。
イヤリング〈YG、ダイヤモンド、オニキス、マザー・オブ・パール〉（両耳セット）￥2,900,000／クリスチャン ディオール（ディオール ファイン ジュエリー） ジャケット／スタイリスト私物
アートピースのようなジュエリーをまとう喜び
岡部（以下Ｏ） デザイナーには信心深い方が多いですが、中でも有名なのがムッシュ クリスチャン・ディオール。祖母の影響で、占星術を強く信じていたことで知られています。
本間（以下Ｈ） メゾン創業に至った陰にも、彼が信頼を置く占い師の助言があったと言われていますよね。そのこともあってか、ディオールのクリエーションにはしばしばスピリチュアルなモチーフが登場します。
Ｏ 1998年からアーティスティック ディレクターを務めるヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌによるファインジュエリーコレクション「ローズ セレスト」もそのひとつ。月と太陽がモチーフのポエティックな佇まいです。
Ｈ 2015年にデビューした「ローズ デ ヴァン」は両面で表情が異なるデザインが面白い作品。これらは、そこから派生したコレクションなんです。
Ｏ 月の方は、オニキスとマザー・オブ・パールの組み合わせ。穏やかにほほえむような表情に癒やされ、眺めるたびに心を落ち着かせてくれます。
Ｈ 一方、太陽を模したものは、よく見ると細かく手作業で彫刻が施されています。小さなモチーフの中に、マルケトリや彫金、周囲にあしらったライスグレインなど、非常に細かな技巧が凝縮されている点も見逃せません。
Ｏ 左右アシンメトリーのイヤリングは、三日月のようなフープの中に天体がちりばめられたデコラティブなデザイン。ドレスアップする機会が増えるこれからの時期にぴったりですね。
Ｈ 長らく続いたマスク生活を経て、ポストコロナ時代への期待感が高まる昨今、顔まわりを華やかに彩る耳飾りが注目を集めています。
Ｏ モチーフジュエリーも引き続き人気ですよね。多くのメゾンが趣向を凝らしていますが、遊び心のあるクリエーションではヴィクトワールの右に出るものはないと感じます。
Ｈ 貴族階級出身という家柄ももちろんですが、もともとコスチュームジュエリーのデザインをしていたこともあり、伝統的な意匠とは一線を画しています。いわば、ジュエリーという形のアートピース。2014年にはニューヨークのガゴシアン・ギャラリーで、宝石を使ったオブジェの作品展も開催し、話題を呼んでいました。
Ｏ 先日リニューアルオープンした「ハウス オブ ディオール ギンザ」のジュエリーフロアを見に行きましたが、さながら美術館にいるような感覚でした。詩的かつインティメイト、そしてアーティスティック。そこでもさまざまなモチーフと出合いましたが、本間さんは好きなものはありますか？
Ｈ いろいろ持っていますが、特に好きなのはブドウをかたどったもの。ヨーロッパでは、実りや豊穣の象徴として古来から親しまれてきました。岡部さんは何か好きなモチーフは？
Ｏ 僕が好きなのは安全ピンモチーフ、あとはスタッズ。常に心の中にパンクスピリットを持っていたいので（笑）。
Ｈ 岡部さんらしい（笑）。占いもそうですが、自分の願いや、思い描く理想の姿を反映したアイテムは愛着が湧きやすい。装飾品であると同時に、お守りとして自分のパーソナリティに寄り添ってくれるジュエリーを味方に、タフに未来を切り開いていきましょう！
本間恵子
時計・ジュエリー専門ジャーナリスト。ジュエリーデザイナーという経歴に基づく鋭い目利きと、圧倒的な知識を武器に、雑誌をはじめさまざまなメディアで活躍する唯一無二のエキスパート。
岡部駿佑
美しいものをこよなく愛するエディター。専門分野はランウェイ分析とジュエリー&ウォッチ。SPURのYouTubeチャンネル「シュプールTV」では、ナビゲーターとしても活躍。
