不思議だ。白いまんまるの球体がいびつになると、どうしてこんなにもモダンに見えるのだろう。
かつては「出来損ないの真珠」と呼ばれていたバロックパールなのに、養殖技術が進歩して丸い真珠がたくさん作られるようになると、今度は逆に価値あるものとみなされるようになった。人間ってアマノジャクな生きものだなとつくづく思う。そんなの丸い真珠にしてみれば、まったく迷惑な話しだ。「せっかく綺麗に生まれてきたのに」と、私だったら愚痴をこぼしているに違いない。
「おしゃれ顔」という褒め言葉があるが、バロックパールを人になぞらえるとまさにそういうことなんじゃないかと思う。誰が見ても美しいと感じる「顔の黄金比」を持つのが丸い真珠だとしたら、バロックパールはコンプレックスも魅力に変えてしまう、個性的なルックスの持ち主。完璧な美形じゃなくても圧倒的な存在感があり、そこにみんな惹きつけられる。
自然界の偶然がつくり上げた、この世に二つとない造形。歪みが加わることで生み出される、絶妙な抜け感。これらをあわせ持つバロックパールには、こびない強さと大人の余裕が感じられる。だからこそ、ガツンとパンチの効いた大粒を身につけたいと私は思う。
今の気分にフィットするのが、スペイン発のジュエリーブランド、ベアトリス パラシオスのバロックパールリング。この有機的なフォルムをひとめ見て、やられた! と思った。手を傾けると、今にもパールが溶けて流れていきそうだ。「どうしてこんな形になったの?」と尋ねたくなる。「わたし、最初は丸かったんですけど、下半分だけ誰かに踏んづけられちゃったみたいで……」なんていう気の抜けた答えを想像して、勝手にどんどん愛着が湧いてくる。
もちろん、バロックパールなのでまったく同じ形のものは手に入らない。だからこそ、出合いが奇跡的なものに思えるのだ。生まれてくる子はどんな表情をしているのだろう。そんな気持ちに似たワクワクがある。いびつだからこその親しみやすさと今っぽさ。カジュアルなスタイルにさらりと合わせて、相棒のように毎日をともにしたい。
illustration:Uca text:Eimi Hayashi